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スイスの天気 晴れのち曇りそして雨

アルプス山脈を境に天気が変る。スイスの典型的天気である。 swissinfo.ch

連邦気象台の予報は、ラジオや新聞などを通して毎日の生活に役立っている。東西にアルプス山脈が横たわるスイスでは、地形が入り組んでいることから、天気も変わりやすく予報は難しいとされ、天気予報は当たらないと思っている人も多い。

最先端の器財と多くの情報を扱って天気予報をする気象台とは異なり、スイスの山奥では「ムゥータタールの天気予言者協会」がある。山での生活の経験から、次の日の天気や6ヵ月後の天気を予想する。科学的な根拠に基づいているところもあると、気象台も一部認める。

アルプス山岳地域の気象や気候を解明し予測を正確にするため、スイス気象協会が事務およびデータ面でこれをサポートする国際的な計画が1999年にスタートした。データの収集には連邦のスーパーコンピュータセンター(CSCS)が活躍している。
だが、最先端の技術と膨大なデータを持ってしてもスイスの地形の複雑さから、スイス国内の天気予報は難しいと専門家も認めている。

当たらないということは当たっているのか

 「7月の天気はどうだったか覚えていますか」
 気象予報士フェリクス・シャハー氏に、スイスの天気予報はあまり当たらないような気がすると、疑問を投げかけると逆にこのように質問された。

 「アパートには暖房も入るくらいだったから7月は寒かった」と答えたところ、上旬は寒かったが、下旬は平年以上に暖かく、統計上は平年並みと記録されるという。「天気に対するそれぞれの人の受け取り方や、記憶のあいまいさが、天気予報は当たらないと思わせる原因でもある」と天気予報士のシャハー氏は、受け取り側の問題も指摘した。

ハイテクと情報量に支えられる

 スイスでは1864年から定期的に観測が始まり、本格的な連邦政府の気象台は1881年に運営が始まった。現在の従業員はおよそ250人。チューリヒ、ジュネーブ、ロカルノ、パイエルン、チューリヒ空港に気象台があり、その他測定地が70ヶ所ほど全国に散らばってあり、地上の気温などを観測する。
 その他、最新式のドプラー・レーダーで雨量を測定。スイスの中央にあるパイエルンでは気球を上げ、標高1,500mから9,000mまでの空気の流れ、気温、気圧、水量などを観測している。36,000Km上空にあるヨーロッパ諸国が共通に使用している気象観測衛星、メテオ・サットが刻々と変化するスイス上空の雲の映像を送ってくる。こうした情報のほか、英国にあるヨーロッパ中期気象予報センターからの情報など膨大な情報が気象予報の解読に使われている。

 毎日、ラジオを通して流される天気予報の内容は、ドイツ語圏のチューリヒ、フランス語圏のジュネーヴ、イタリア語圏のロカルノと3人の気象予報士が、1日2度の電話で話し合って決める。一方、テレビや新聞は気象台からもらったデータをもとに独自で予報を出すため、それぞれ異なった天気予報となってしまうのだそうだ。

 一番信用のおける情報は「1日5回更新される、気象台のインターネット、メテオ・スイス上に公開される次の日の予報。その日の朝の予報なら9割は当たっている」とシャハー予報士。ドイツ語、フランス語、イタリア語、英語で予報が出るので、観光客も利用できる。これは電話で聞くこともできる。

自然と対話する天気予言者

 スイス中部シュヴィーツ州の山奥、ムゥータタール村は、ラジオのない頃から山歩きや農作業に天気予報が必要だったことからの伝統で、天気予報の宝庫である。ムゥータタールの天気予言者協会は冬と夏、州内の天気予報のコンペを催す。同協会の会長、ペーター・ズーター氏(77歳)は子供の頃から、母親に天気と自然現象の関係を教わり天気予報を身に付け、何度もコンペで優勝した。

 予報は、連邦気象台と同じく情報集めが基本だが、情報は数字やグラフではなく、雲の様子のほか、昆虫の動向や植物の育ち方など自然現象から集める。山のアリが仕事をせずただ走り回るばかりだったら、夕方に雨が降る。冬に山を歩いていて、もみの木がギシッと音を立てたら、急に気温が下がるか、雪が降る。晴れの日に山を歩いていて、濡れている石を所々に見つけたら、雨が降ってくるなどというものだ。こうした自然現象は、同地に限ったことではなく、ズーター氏の予報はオーストリアやオランダでも当たるという。

 コンペに参加できるのは1,500人の会員のうち予報が当たる確率の高い6人のみ。ズーター氏の夏の予報では、「8月上旬は不安定。中旬は晴れが多く、草刈と水着の季節。下旬は再び不安定となり雨が降って、気温が下がり海水パンツから長ズボンに着替える」。ちょっとしたユーモアも加えての予報である。10月29日の総会で評価し優勝者を決める。

 気象台のシャハー予報士は「自然の現況を経験と感覚で解釈するもの。気象台はすべてを数字で現して解釈する」とムゥータタールの天気予言者による予報の正確性を認めている。実際、気象台の庭には葡萄の木があり、春に霜が降りる危険がある場合、葡萄の木の芽を観察して農家の人に警報を出すのに使っているほどだ。

 一方、ズーター氏はラジオやテレビの天気予報で気象の変化があると聴いた後、山のアリの動きに変化があるのに気づいたりして、科学的天気予報も大いに参考にしているという。

 科学的予報かムゥータタールの予言か。2つが同じ予報をする割合はズーター氏によれば、8割。インタビューが終わって別れ際にズーター氏が、「あの雲をご覧。今日は雨が降る」と予言したとおり、帰り道では雨に遭った。ラジオの天気予報では、「曇りで湿度は高いが、今日は雨にはならないでしょう」だった。 

スイス国際放送 佐藤夕美 (さとうゆうみ)

連邦気象台1881年に運営開始。従業員は250人。気象台はチューリヒ、ジュネーブ、ロカルノ、パイエルン、チューリヒ空港の5ヶ所測定値が70ヶ所ほど全国に散らばってある。

ズーター氏の予報
8月上旬は不安定。中旬は晴れが多く、草刈と水着の季節。下旬は再び不安定となり雨が降って、気温が下がり海水パンツから長ズボンに着替える。
9月上旬はまだ晴れが続く。中旬はフェーン現象で雨は少ない。20日以降は不安定。
10月上旬は太陽の下で収穫。ハイキングもできそう。中旬は不安定になり寒くなるが、13日のお祭りは晴れる。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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