有機食品に飽くことのない需要
スイスにおける有機食品の需要は高まる一方だが、生産者がこれに追いつけない状態にある。
しかも、有機農業をしても市場の需要の恩恵を受けない農家もあるのだ。
不足する有機農産物
スイスで有機農家として登録をする6111軒の農家のうち、連邦政府の基準より厳しい基準をクリアした5589の会員を抱えるスイスの有機農業組合「ビオ・スイス ( Bio Suisse ) 」によると、2008年のスイスにおける有機食品の総生産額の伸びは11.2%を記録し、14億4000万フラン ( 約1210億円 ) に上った。
特に有機果実、肉、乳製品は人気で、卵や穀物は供給不足になっているという。現在、有機農作用の耕地は全体の11.4%を占めている。2007年から2008年の間に、62軒の農家が後継者がいないなどという理由によりビオ・スイスを脱会した。一方、新しく60軒が入会した。
「スイスは新しい有機農家が必要です。あと数百件あっても需要はこれを吸収するでしょう」
とビオ・スイスのマーケッティング部長、ユルク・シェンケル氏は言う。
大きいことはいいことか?
実際には、「グリーン」な農業になることは難しい。ビオ・スイスの会員になるには、丸2年間を要する。それまで使っていた農薬などから土や植物がクリーンになるために、時間がかかるからだ。作物を健康に保つために有機農家は麻や堆肥を使うなど数ある昔ながらの農法が評価される。
家畜の飼料についても、厳しい規制がある。例えば豚の飼育では、生後24日以降の豚は、小屋から外に出られるようにしなければならないし、飲食店の残飯を与えることは許されない。規則に従っているかどうか、検査員が毎年1度、訪問する。訪問は突然ということもある。
皮肉なことに、有機食品の需要が高まるにつれ、小規模農家は複雑な気持ちで需要増加を受け止めている。2008年の統計だが、有機食品の74%が、「コープ ( Coop ) 」や「ミグロ ( Migros ) 」といった大手スーパーで販売され、農家が独自に販売する有機食品は約5%、有機食品専門店での販売は約15%だ。
「ディスカウンターも普通のスーパーも、有機の恩恵に預かりたいと思っている。それがわれわれにとっては良くない」
とマルティン・ヴィッカー氏。ヴィッカー氏は1987年から父親から譲り受けた土地で有機栽培を行なっている。ルツェルン州のディーリコン ( Dierikon ) の丘陵に、サクランボの木220本、リンゴ、ナシ、プラムの木などを植えている。ヴィーダッハーの有機農場では、牛や羊など50頭の家畜も飼っている。しかし、耕地は20ヘクタール。大手スーパーの需要には対応できない。
「( 農業の ) 工業化が進んでいる」とヴィッカー氏は、スペインの温室から何種類もの農作物がスイスに輸入されていることを指摘する。これらの作物は、従来型の農作物と混ざらないように、ビニル袋に包まれて販売されるのだという。
価格競争
食品価格は近年下降する傾向にあり、生産者の利益を圧迫している。
「食品価格は20年前と同じレベルに落ちている。サクランボは、以前はもっと利益を上げられた」
ヴィッカー夫妻は収穫した農産物を直売している。しかし、消費者が一般スーパーで有機野菜を買えるようになると、直売店に行きたいとあまり思わなくなるだろうと懸念する。わざわざ農場の直売店に客が足を運ぶ労をなくすため、ヴィッカー氏と何軒かの農家が集まって、種類豊富な農作物を2部屋ある店で販売している。
「目標は、この状態を維持すること。ガーデン喫茶か子ども向けの動物園を隣接させるということも考えられる。それがわれわれの生き延び作戦だ」
小規模農家を支援するためビオ・スイスは、インターネット上で消費者に有機農家や有機農作物の直売店情報を提供している。現在550軒がリストアップされている。
swissinfo、スーザン・フォーゲル・ミシカ 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 訳
ビオ・スイス ( Bio Suisse ) の統計によると2008年の総売上高14億4000万フラン ( 約1210億円 ) ( 前年比+11.2% ) 。
これまでビオ・スイスの会員は5589人。ビオ・スイスの規定は連邦政府の規定より厳しい。
スイスの農家の11.9%が有機農家で占められている。
スイスで最大の有機食品祭。6月19日から21日の3日間、アールガウ州ツォーフィンゲンン ( Zofingen ) で開催される。今年は10周年にあたる。有機食品祭には果実、野菜、乳製品、ハーブなどのほか、化粧品、衣料品、自然志向の住宅なども出展される。コンサートや動物園もある。
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