渦中の人 ヴィトマー・シュルンプフ新司法相
昨年12月の連邦閣僚選挙で再選を逃したクリストフ・ブロッハー氏に代わって、連邦議会はブロッハー氏と同じ国民党 ( SVP/UDC ) からエヴェリン・ヴィトマー・シュルンプフ氏を選出した。
国民党は今、このヴィトマー・シュルンプフ氏に連邦大臣辞任と国民党離党を要求している。
ヴィトマー・シュルンプフ氏選出のいきさつ
連邦閣僚の選挙は4年ごとに行われる。2003年に就任した前ブロッハー司法相は国民党を大躍進させた立役者だ。大臣就任前は、とりわけ過激な言動が目立つチューリヒ州党党首を務めていたこともあり、就任中にはときに挑発的な発言や行動が目立ち、ほかの各党から非難を浴びることも少なくなかった。
昨年12月の選挙ではブロッハー氏を失脚させるため、社会民主党が中心となって根回しをしたという内容のドキュメンタリーが3月6日、ドイツ語スイステレビ局で放映された。当時国民党党首を務めていたウエリ・マウラー氏はその中で、
「ヴィトマー・シュルンプフ氏は『私が当選することはないと思うが、万が一そんなことになっても受諾しないので安心して欲しい』と確約した」
と述べた。
ブロッハー氏を失脚させる「秘密計画」の存在は選挙前から噂されており、国民党は「ブロッハー氏が落選して立候補していない国民党党員が選出された場合、その本人はこれを辞退すること」という指令を出していた。そんな中で選出されたヴィトマー・シュルンプフ氏はこれを受けるかどうかの即答を避け、1晩の猶予をもらったあと、翌日、連邦議会の選挙結果を受諾した。その後、国民党は予告通り、党所属の連邦議会議員が作る団体からヴィトマー・シュルンプフ氏と国民党のもう1人の連邦大臣サムエル・シュミット氏を除名した。
就任100日目
国民党は「野党に回る」と宣言したが、スイスは4党の連立政権であり、野党に回った場合の具体的な行動はあいまいなまま、国民党自身もこれまで野党らしい行動を見せなかった。しかし、前出のドキュメンタリー放映後まもなくして、国民党はヴィトマー・シュルンプフ氏に連邦大臣辞任および党離脱を要求。これに対し、ヴィトマー・シュルンプフ氏は「その意思はまったくない」と即答した。だが、国民党は
「ヴィトマー・シュルンプフ氏が自らの意思で党を離れないのであれば、出身地のグラウビュンデン州の国民党州党が同氏を除籍すること、州党がこれを拒否する場合は、同州党を全国組織から除籍する」
と最終通告を言い渡した。
国民党グラウビュンデン州党は4月23日までに態度を決定しなければならないが、すでにヴィトマー・シュルンプフ氏を除籍するつもりはない考えを明らかにしている。
このような情勢の中、ヴィトマー・シュルンプフ氏を支持する動きが活発になってきた。スイスの女性連合「アライアンスF ( Aliance F ) 」は4月7日、インターネット上で「法治国家と民主主義の基本にのっとって選出された連邦大臣に対する粗暴な応対を厳しく非難する」抗議の署名運動を開始した。このサイトでは8日夜までに1万6000人の男女が署名しており、毎時1000人以上の署名が集まっている。これらの署名は4月20日、ヴィトマー・シュルンプフ司法相に手渡される予定だ。
同団体はまた、4月11日にベルンの連邦広場で全国的な集会を催す。ヴィトマー・シュルンプフ氏はこの日、連邦大臣辞任の要求に対して国民党に最終的な返答を行わなければならない。また同日、司法相は「安全と権利を確保した強国」という演題で就任100日目の決算を発表することになっている。
その就任100日目は明日4月10日。この日はグラウビュンデン州政府が「エヴェリン・ヴィトマー・シュルンプフへの連帯行動」として彼女の出身市フェルスベルク ( Felsberg ) でデモを行う。そこでは、国民党の全国組織とグラウビュンデン州支部に送るための署名も集められる予定だ。
新大臣のために元連邦大臣も動き出した。急進民主党 ( FDP/PLD ) のルドルフ・フリードリヒ元連邦大臣は4月9日と10日発行のスイス各地の主な新聞に、政界や一般市民28人の署名を載せ、「民主的に選出された連邦大臣ヴィトマー・シュルンプフ氏を後援し、国民党の非民主的な行動と流儀を非難する」。その中には元連邦大臣がもう1人いる。社会民主党のオットー・シュティヒ氏だ。この広告にかかるおよそ10万フラン ( 約1000万円 ) の費用は個人数人が負担する。
そのほかにもフランス語圏で個人が新聞に国民党批判の広告を出したり、弁護士が国民党全国組織の責任者を恐喝未遂で訴えたりしている。
国民党グラウビュンデン州党は4月23日に最終的な結論を全国組織に渡さなければならない。その後、国民党は29日の代表会議で党幹部の提案について協議することになっている。
swissinfo、外電 小山千早 ( こやま ちはや )
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。