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カラフルなドットに隠れた暗い側面 バーゼルで草間彌生展

美術作品を鑑賞する人々
草間彌生の作品は、観る者を「水玉の世界」へといざなう Keystone / Andreas Becker

日本を代表する現代アーティスト、草間彌生(96)の展覧会がスイスで初めて開催されている。色鮮やかな水玉模様をトレードマークとする草間作品は、スイスでも多くの来場者の心を捉えている。

草間彌生の人気があるのは、SNSで映える作品ばかり作っているからだ―― 世間にはこんな意地悪な見方もある。壁や衣服、くねくねとした構造物の全面を埋め尽くすカラフルな水玉模様は英語で「ポルカドット」と呼ばれ、草間のトレードマークとなっている。アート愛好家が飛び込みたくなるようなボールプールのようだ。鮮烈な色使いで、一目で草間彌生作品だと分かる。

スイス北部バーゼル郊外にあるバイエラー財団美術館の入り口で来場者を出迎えるのもこのポルカドットだ。睡蓮の浮かぶ池を、銀色のミラーボールが泳いでいる。草間が初めてこれを制作したのは1966年、ベネチア・ビエンナーレ国際建築展だった。公式招待されたアーティストとしてではなく、突如として会場に現れ、インスタレーションを制作した。

比類なき驚き

池に浮かぶミラーボールの斜め後ろには、鏡張りの箱が立っている。2つある「インフィニティ・ミラールーム」の1つ。室内は全面が鏡張りで、色とりどりの照明なども組み込まれている。

壁、床、天井に張り巡らされた鏡が無限の空間を創り出し、まるでカラフルな星が輝く宇宙に浮かんでいるかのような感覚を味わえる。真の没入型アートだ。

英紙ガーディアンは、草間彌生を世界で最も人気のあるアーティストに選出した。だが誰もが知っているように、名声を含めてあらゆるものには代償が伴う。草間の場合、無数の水玉によって真の作品の姿が見えなくなること。草間のポルカドットは、決して気楽なお遊びではないからだ。

ドットのモチーフや、その他の全体に施された模様は、草間彌生が少女時代に見た幻覚に由来する。

自己療法としての芸術

叫ぶ少女
カラフルな水玉と太陽の光がすべてではない。バイエラー財団美術館には、1952年の「叫ぶ少女」など、草間彌生の陰鬱な作品も展示されている © YAYOI KUSAMA

草間にとって、芸術は解放と自己療法の手段だった。1957年にニューヨークへ渡り、大きな成功を収めた。だが1972年に日本に戻った後は、自ら希望し精神病院で暮らしている。

バイエラー財団美術館で開催されているこの展覧会は、草間彌生を繊細なスーパースターとして称える。70年で制作した300点の作品が展示される。その多くは非常に暗く、重苦しい印象を与える。

1950年代には、赤褐色の色調を用いた油彩画を制作した。まるで暗く生々しい身体の内面を見せるかのような作品だった。1970年代には、シュールなコラージュ作品が登場し、中には悪夢のような趣を帯びたものもある。展覧会全体を通して、背後に草間の深い心の傷を感じさせる作品に出会うことができる。

深い苦痛とセルフマーケティング

草間彌生が幼少期に抱えていたことは展覧会で見て感じとることができ、見る者の共感を呼ぶ。一方、草間が社会に対して強い批判精神を持っていたという事実は、あまり見えてこない。

1960年代、草間は性的なイベントや政治的抗議活動を企画した。アメリカ国旗に火をつけたこともある。

体面に水玉模様が描かれた馬と女性
1967年のパフォーマンス「ホースプレイ」のように、草間彌生の主張は馬の体でさえも表現される Keystone/AP Photo/Yayoi Kusama Studio Inc.

草間は注目を集める術を心得ていた。また非常にビジネスセンスに優れていた。かつて自身のファッションブランドを立ち上げ、ニューヨークの有名百貨店ブルーミングデールズでも販売した。

深い苦痛と自己アピールは必ずしも相反するものではない。展覧会ではこの点をもっと深く掘り下げることができたかもしれない。こうした欠点はあるものの、草間作品に馴染みのある人にも初めて知る人にも、間違いなく見る価値のある展覧会だ。そしてもちろん、携帯電話で自撮りしながら展覧会を巡るのが好きな人にも気に入るだろう。

展覧会「Yayoi Kusama外部リンク」はバーゼル・シュタット準州リーヘンのバイエラー財団美術館で2026年1月25日まで開催中。

独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:大野瑠衣子

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