スイスの牧草地に和牛

和牛がスイスの牧場にお目見えするのは間近。 www.wagyu.net

アルプスの裾野の牧草地に草を食む牛。スイスの田舎の典型的な風景だ。白地に黒のまだらのホルシュタインより、ジンメンタールやブラウフィーなど薄茶の乳牛が多い。角に特徴のあるニュージーランド産など外国種も時々見かけるが、いまのところ黒い和牛は見かけない。

このコンテンツは 2005/04/18 10:03

4月中旬にはじめて、スイスに和牛の精子の輸入が許可され、農家向けに販売が開始しされたというニュースに、農家から大きな反響があった。

スイスで家畜の精子を販売するTGSトリプル・ジェネティック・サービスのエルンスト・シュニーダーさんが、和牛の精子を輸入するきっかけとなったのは、一本の電話だった。スイスのある酪農家が、趣味として和牛を導入したいと相談してきたのである。

食べたことはないが信じている

「はじめは趣味のレベルでも、新しい商品を試してみたいと思う人は多いはず」と将来の可能性を見込んだシュニーダーさん。輸入許可の手続きには1年かかったが、ついにオランダの業者を通し、日本から精子を輸入することになった。4月中旬に発行された専門誌「スイスの農家」で紹介されると、大きな反響があった。

シュニーダーさんが輸入するのは、和牛の中でも有名な「黒毛和牛」の精子や受精卵。1回の種付け分を75フラン(約6,700円)で、受精卵なら2,000フラン(約18,000円)で売るという。従来のものの4倍はする。

「和牛」や「神戸ビーフ」という単語はスイスでも知っている人は多いが、実際に見たりその肉を食べた人は少ない。シュニーダーさんさえも神戸ビーフを食べたことはない。和牛の飼育やその肉について酪農家たちを集めた勉強会を開くなどして、新しい市場を作っていくことが必要だとシュニーダーさんは感じている。一方で、肉が好きでお金に糸目を付けない消費者や、高級レストランやホテル向けなどに小売価格で最低、従来の2倍の値段で売れるであろうと、和牛の高い可能性を信じている。

生きた和牛の輸入に興味

生きた和牛を日本から輸入して、種牛用に育てたいと計画しているのはトマス・ゲルバーさん。年間のミルク生産量は32万リットル。32頭の牛のほか豚85頭を飼う、スイス中部のダグマセレン市に酪農を営む中規模酪農家だ。

和牛1頭の値段がおよそ90万円になっても、飼育したスイス牛と和牛の雑種の子牛が72万円から80万円で売れれば、採算は合うと見込む。知り合いで新種の子牛を同じようなマージンで売る人がいるからだ。早く種付けが成功すれば「和牛の市場を独占できるかも」と夢がある。

「今の消費者はコレステロールを気にしていて、脂身が少ない肉が好きだ」と語るゲルバーさん。スイス人にとってエキゾチックでもある和牛は、ブームになるかもしれない。しかし、ブームはブームで時と共に廃れることもある。たとえば、有機飼料で飼育される牛のレーベル「スイス・ブリン・ビーフ」もいまや飽和状態。ゲルバーさんは、肉を売るのではなく、精子をシュニーダーさんのところで買い、日本産の牝牛から生まれた子牛を販売するつもりだ。ブームが終わったら牝牛は売って、また新しい商品を探す計画でいる。

ニッチ商品に注目

スイスで飼われる牛は伝統的に、ジンメンタール、ブラウフィー、エーリンガー、ホルシュタインといった乳牛が中心だった。この4種のうち3割が肉用に加工されている。しかし、ここ10年間、牛肉にも質が要求されるようになり、米国産、アルゼンチン産など肉専用の牛が注目され始めている。

土地も高く、人件費も高いためスイスの農作物や乳製品、精肉は他国と価格の上で太刀打ちできない。その上、国の補助金がカットされ、農家独自の工夫が要求されていることが、隙間(ニッチ)商品の開発に農家が意欲的になる背景としてある。

和牛は肉を霜降りにするためには手間隙がかかり、コストはほかの牛と比べて高い。しかし、スイスと環境が似ている日本の酪農で成功している商品である。スイスの酪農家が、和牛の市場の開拓を試みる価値は十分にある。

swissinfo 佐藤夕美(さとうゆうみ)

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