国立銀行の利益を老齢年金へ
9月24日に予定されている国民投票では、スイス国立銀行 ( SNB / BNS ) の利益の一部を老齢年金 ( AHV / AVS ) の資金として使うことを提案するイニチアチブの是非が問われる。
スイスでは、老齢年金の破綻は間近に迫っている。10年後には年金の支払額がこれまでより111億〜140億フラン ( 1兆500億〜1兆3000億円 / 以下レート1フラン=94.6円 ) 増加する見込みだ。
1948年から、国籍を問わずスイスに住む20歳以上の全住民を対象に、老齢年金への加入が強制となった。働いている人は雇用主との折半で、給料の10.1%に当たる保険金を国に支払いう。こうした住民からの支払いで保険金の8割が賄なわれ、残りの2割は税金で賄われている。男性は65歳、女性は64歳になると、それまでの所得のおよそ6割を年金として受給する。その総額は現在およそ290億フラン。
連邦は損
しかし、少子化と高齢化にあるスイスでは2040年になると65歳以上の人の年金を2.2人で負担することになるという。現在は4.8人で負担しているので、事態は深刻だ。今回の国民投票で審議されるのは、国立銀行の利益を年金に当てるという案だ。
現在のところ、国立銀行の利益およそ35億フランのうち、3分の2は各州に3分の1は連邦に納められているが、イニシアチブの提案は10億フランを州に当て、残りは年金に当てるというもので、州はおよそ6億6000万フランの減収となり、連邦は国立銀行の利益の恩恵をまったく受けられなくなる。
不安定な収入に期待できるのか
連邦政府も国民議会と全州議会の両議会もイニシアチブを否決した。政府は国立銀行の利益の投入は、年金問題の長期的な解決にはならない、収入が減る連邦と州が脆弱化する、国立銀行の独立性が危うくなるという3点を挙げて反対している。
そもそも国立銀行の利益は今後、配当金の準備金が削減されるため、大幅に減少すると見込まれ、10億フランがせいぜいだという。代替案として政府は国立銀行の1300トンの金の売却金のうち70億フランを老齢年金に投入する案を提出している。
また、イニシアチブの提案は、年金に重点を置きすぎ、政府の収入は減少するため教育や研究開発がおろそかになると警告している。国立銀行の利益が今後、縮小されていくと予測される中、利益の一部が年金の資金に当てられるとなると、国立銀行がもっと収益を上げるようにという圧力がかかる可能性もあり、その独立性が危ぶまれる事態にもなりかねないともいう。
年金縮小にも増税にも反対のイニシアチブグループ
イニシアチブを支持するのは、社会民主党、緑の党など左派の政党グループ。老齢年金の支払額の縮小には反対で、資金繰りに付加価値税を増税することにも反対だ。国立銀行の利益を投入するなら即刻年金の資金繰りが改善すると主張している。
「国立銀行から老齢年金に流れる資金が将来、せいぜい10億フランということはありえない。30億フランにはなるだろう」と社会民主党の国民議会議員マルリーズ・ドルモンド氏は主張する。また、国立銀行の独立性についても「現在利益を享受している26州からの圧力はないというのか」とスイス労働組合 ( SGB / USS ) のコレッタ・ノヴァ書記長も政府の主張に反対している。
イニシアチブが可決されるのは、投票者の過半数が賛成し、賛成者数が過半数以上になった州の数が13州以上ある場合に限る。可決へのハードルは高い。イニシアチブが可決されても、長期的に見れば老齢年金の財政危機は、今後も大きな社会問題として、引き続き国民と政府を悩ませ続けることだろう。
swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )
イニシアチブとは国民が議題を直接提案し、実施する国民投票のこと。国民は18カ月以内に有権者10万人の署名を集めることにより、国民投票として発議することができる。
9月24日には「国立銀行の利益を老齢年金へ」のイニシアチブのほか、外国人に関する法律の改定案が審議される。
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