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スイスの銀行の知恵をロシアに

ロシアの銀行業界が国際レベルにまで到達するにはまだ時間を要するようだ。 Kooperationsbüro DEZA/Seco Russland

ロシアの銀行は情報開示が進んでおらず、口座の管理システムもいまだに整っていないため、業界全体が脆弱だ。

スイスの銀行のノウハウを使い、ロシアの銀行の体質を強化し、国際資本市場への進出を助ける計画が連邦経済省経済管理局(SECO)の音頭で進められている。

銀行に預金するより貯金箱にお金を貯めるのがロシア流。銀行が倒産するのではないかと不安なロシア人はいまだに、銀行に自分の財産を預けることが嫌いだ。市民のタンス預金は500億フランから1,200億フラン(約4兆5,000億円から10兆8,000億円)にも上ると見込まれ、銀行口座に預けられている預金総額1,000億フラン(約9兆円)を上回るとも見られている。

しっかりした銀行の運営が経済発展を促進する

 「銀行業界が強くなることで、国内経済が発展する」ロシアの銀行の強化を支援するプロジェクト「ロシアの銀行業界におけるコーポレート・ガバナンス」を代表するパトリック・ルーテルナウアー氏は語る。プロジェクトはスイス連邦経済省の経済管轄局(SECO)が出資し、世界銀行のグループの一つである国際金融公社(IFC)が具体化したもの。期間2年間で、SECOから2,310万フラン(約20億7900万円)の予算が出ている。

 ルーテルナウアー氏はSECOを代表し現在、モスクワに滞在してプロジェクトを進めている。目的は、ロシアの銀行の情報開示を進め企業管理を厳密に行い、銀行の体質を強化することだ。

顧客の信頼を獲得するために

 SECOのプロジェクトはロシアの銀行がシステムを改善し、顧客に信頼されるようになることを支援している。信頼が高まれば預金が増え、これまで積極的には行われてこなかった中小企業への融資も可能になる。最終的には、ロシア経済の体力がつくように仕向ける。

 プロジェクトに対するロシアの銀行の反応は良く、積極的に顧客の信頼を得るような努力がなされ始めている。国立銀行が、銀行への信頼がいまのロシア経済には必要だとして、制度改善の努力をしない銀行の営業ライセンスは更新しない方針であることも、各銀行の改善に拍車をかけているようだ。

 ルーテルナウアー氏によるとロシアでは現在、「個人顧客を対象とした銀行業務、消費者ローン、住宅ローンなどがブームになっている」という。しかし、こうした需要に銀行は資金不足で対応できないでいる。「銀行は国際資本市場で資金を調達する必要をいまになって感じている」と同氏。そのためにもリスクを最小限に抑え、金利を低く保ち、グローバルスタンダードに合わせる必要がある。

スイスの銀行ができること

 グローバルスタンダードに合わせるために銀行の経営者は、コーポレート・ガバナンス(企業の法的管理と運営)に対する認識を高める必要がある。業務の責任のあり方と責任の取り方を決め、系統だった監査制度を定め、業務内容の透明化を計る。プロジェクトでは、スイスの銀行の経験やノウハウを参考にしてもらうようなセミナーを開いている。セミナーの講師として、スイスの大手銀行クレディ・スイス、UBS、民間の銀行およびスイス銀行協会などに現在のところ、参加を交渉中だ。

 特に、顧客の情報管理とマネーロンダリング(組織犯罪などにかかわる資金の洗浄)問題について、ロシアの銀行はスイスの銀行に学ぶことは多いはずだ。「この問題についてはすでに、ロシアの各銀行を対象にワークショップなどを開いて学んでもらっている」と前出のルーテルナウアー氏。

 自らコーポレート・ガバナンスを尊重する銀行ならば、その顧客である企業のコーポレート・ガバナンスについても、厳しい目で見るようになる。経営のしっかりした企業が融資を受けることになれば、ロシア経済が発展する基礎となるだろう。

swissinfo アレクサンドラ・シュタルク (モスクワにて) 佐藤夕美 (さとうゆうみ)意訳

ロシア国内にはおよそ1,300行の銀行がある。
すべての銀行の総資産はスイス大手銀行UBSのそれに該当する程度。
一方、市民のタンス預金は1,200億フラン(約10兆8,000億円)にも達すると見られる。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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