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スイスは重過ぎ?多国籍企業の責任を国際比較

「責任ある企業イニシアチブ」が可決されたら、外国で活動するスイス企業は競合他社より不利になるのか。意見は大きく分かれる。写真はベトナムにあるホルシム社の石灰岩採石場 Keystone / Na Son Nguyen

スイスは世界に類を見ない単独行動に出るのか。「責任ある企業イニシアチブ(国民発議)」をめぐる議論の一番の争点はここだ。投票が行われるのは11月29日。その前に、イニシアチブの要求を他の国々の規定と比較してみよう。

このコンテンツは 2020/11/23 08:30

スイスのカリン・ケラー・ズッター法相は、10月初旬に行った記者会見やビデオ声明で、スイス政府がこのイニシアチブに反対する主な理由の一つを次のようにまとめた。「『責任ある企業イニシアチブ』は、企業責任に関する世界に例のない規則を導入しようとしている」

ここである疑問が浮上する。「責任ある企業 ― 人と環境の保護に向けて」イニシアチブが掲げる規定は、他国ですでに導入されている規則や現在議論されている規則よりも本当に厳しいものなのか。

その答えは非常に複雑だ。このテーマは多くの国で議論や法策定の対象となってきた。それは今も続いており、特に2011年に国連が「ビジネスと人権に関する国連指導原則」を採択してから活発さを増した。

しかし、各国の法制度が異なるため、それぞれの国が採用している、もしくは議論している規則を比較するのは容易ではない。具体的な規定に加え、手続法や判例も考慮するとなるとなおさらだ。

フランスの例

「責任ある企業イニシアチブ」に関する議論の中で最も頻繁に引き合いに出される法律が、フランスが2017年に制定した「企業注意義務法」だ。

同法はフランスに本社を置く従業員数5千人以上の多国籍企業に対し、デューデリジェンス(注意義務)計画の策定を義務付ける。計画には子会社や下請け企業、サプライヤーによる人権の重大な侵害や環境破壊を防ぐ方策を盛り込む。

デューデリジェンスを怠った企業は民事訴訟により、その不履行や不足が招いた損害に対する賠償金の支払い義務を課せられる。

賠償責任の範囲は納入業者まで明示的に拡大されており、その点ではスイスの法案より厳しい。一方で、最低従業員数を5千人としていることから、適用範囲は格段に小さい。

スイスのイニシアチブではこのようなはっきりした数字は提示されていない。唯一、中小企業は対象外と示唆するのみだ。「責任ある企業イニシアチブ」の説明文にはこう書かれている。「デューデリジェンス義務を規定する際は、当該リスクが少ないことを明示できる中小企業の境遇について、立法機関が考慮する」

立証義務の復活?

フランスの「企業注意義務法」では、被害者は損害を被ったことを証明するだけでなく、その損害が企業側のデューデリジェンスの不足と関連していることも証明しなければならない。スイスのイニシアチブでは、適切なデューデリジェンスを実施したと証明できる場合は企業責任を問われないとされている。

この点は、投票キャンペーン中に、イニシアチブの反対派から「立証義務の復活だ」と特に厳しく批判された。

これについての解釈は、法学者の間でもはっきりと定まっていない。スイス比較法学研究所他のサイトへは2019年7月に発表した報告書で、スイスとフランスの賠償責任の定義は非常に異なる概念の上に成り立っており、フランスの法律と比較することは困難だと結論付けた。しかし同研究所は、免責につながる証拠提示の機会の付与は、企業責任を問う法律形態としては弱体だという見方をしている。

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児童労働と強制労働

フランスの法律はスイスの法案と同じく、非常に広い領域をカバーしているが、他国は特定の人権侵害や一部の経済分野のみを対象としている。

例えばオランダの第一院(上院)が2019年5月に可決した法律は、サプライチェーン上で発生しうる児童労働のリスクを特定し、それに向けた対策を講じて、児童労働を回避するよう企業に義務付けている。この法律は、オランダの消費者向けに商品やサービスを提供しているすべての企業に適用される。

デューデリジェンスを順守しない企業は罰金を科されることもある。ただし、刑罰は軽く、第三者からの申し立てがない限り科されることはない。それでも、再犯の場合には刑事制裁が発動することもある。民事訴訟は認められていない。

英国議会は2015年に「英国現代奴隷法」を可決した。この法律は、英国で3600万ポンド(約48億円)を上回る売り上げを計上する企業に対し、強制労働や人身売買を回避する対策がサプライチェーン全体で取られていることを示す年次報告書の提出を義務付けている。

米カリフォルニア州の類似の法律を参考にしたこの法律により、デューデリジェンスを怠った企業には上限が定められていない罰金が科される。しかし、企業の民事責任については触れていない。英国のこの法律は、オーストラリアの現代奴隷法のひな型にもなっている。

対案は紛争鉱物と児童労働が対象

2008年の金融危機を経て、アメリカでは2010年、いわゆる「ドッド・フランク法」が発効した。その中に、問題のある原材料の利用について定めた項目がある。そこには、タンタルや亜鉛、金、タングステンなど、いわゆる「紛争鉱物」の名前も見られる。この法律は問題のある鉱物の認証義務のほか、採掘事業者の資金の流れに関する水準や透明化を図る規則も定めている。

2017年には、欧州連合(EU)がEUに拠点を置く企業を対象とした「紛争地域産の鉱物に関する注意義務の遂行に関する規則」を採択した。

同様のアプローチは「責任ある企業イニシアチブ」の対案にも見られる。スイスの連邦議会が可決し、イニシアチブが否決された場合に発効するこの対案は、紛争地域から鉱物や金属を輸入する際の報告およびデューデリジェンスを求め、児童労働に関する規則を定めている。

判例を見てみると……

「責任ある企業イニシアチブ」はフランスの法律と並び、親会社である企業が外国の下請け企業や子会社に対して担う民事責任問題を、他に例がないほど広く扱っている。ということは、スイスはやはりこの領域の未踏の地に足を踏み入れるのか。

実際には、子会社が引き起こした損害の責任について規則を定める法体系はほかにも存在する。また、国際的な判例や法規を見てみると、このイニシアチブは他の国家が適用している規則から完全にかけ離れているわけではないことが分かる。

例えば、英国の控訴院は1995年、英国企業(ソー・ケミカルズ社)の南アフリカの子会社で発生した水銀中毒事件で、子会社が外国で引き起こした被害については親会社がその責任を問われるという判決を下した。

また、英国やカナダの法廷でも、現在、類似の事件が複数審理されている。ザンビアではある村の住民たちが、子会社が有毒ガスを放出したとして、ロンドンに本社を置く採掘事業者を訴えている。

このような事例は英国系以外の国々にも見られる。例えばナイジェリアのイケビリ村は2017年、イタリアの石油会社ENIを相手どり、地元のENI子会社の採掘作業が環境破壊を招いたとして、民事訴訟の訴えをミラノの法廷に提出した。

単独トップではない

イニシアチブの可決で企業に課される責任を弱めうるもう一つの要素として、スイスの民事訴訟制度も挙げられる。高額な費用がかかること、相手側の書類の入手が困難なことなど、法廷闘争に持ち込む前にクリアすべき高いハードルがいくつかある。

「責任ある企業イニシアチブ」は、人権や環境権に対する企業責任を問うための、一貫性のある広範な法的枠組みの構築を目指す取り組みとしては、疑いなくトップを行くものだ。一方で、国際的な流れの中でまったく孤立しているわけでもない。実際の適用範囲はまだ定められておらず、11月29日に国民がこのイニシアチブを可決した場合は施行法について議論し、その明確化を図る作業が待っている。

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