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スイス中銀、異例の為替介入を発表

スイスフランとユーロとの関係は変わりやすい Keystone

スイス国立銀行(SNB/スイス中銀)は9月6日、スイスフランへの「過大評価」を阻止するため、対ユーロ相場で1ユーロ=1.20フランを上限に設定し、無制限で外貨を購入すると発表した。

発表前は1ユーロ=1.10フランで取引されていたスイスフランだったが、発表後には1.20フランに急激に下落。

 主要政党や産業界は今回の為替介入の発表を一様に歓迎している。発表前日にスイス中銀にスイスフラン高対策を要請していたヨハン・シュナイダー・アマン経財相は、政府はスイス中銀の決定を全面的に支援すると表明し、「スイス中銀がこのように決断してくれたことは非常に喜ばしい。適切な時期に下された判断だと思う」と語った。

 スイス中銀は今回の為替介入の発表について、この4年間で対ユーロ・ドルで約25%上昇したスイスフランを「本質的かつ持続的に弱める」ことだと話した。また、1.20フランより高くスイスフランが取り引きされることは「もはや容認できない」とし、経済の見通しやデフレリスクにより、もし必要とあれば、さらなる措置を講じたいと語った。

 このスイス中銀の決定を受け、国民議会(下院)の財政委員会は9月6日、先日政府が発表した予算8億7000万フラン(約840億円)の緊急融資策を否決。緊急融資策は今後、全州議会(上院)での決定次第で、再び国民議会で議論されることになる。

投資家に対抗

 スイスフランが急騰したのは、欧州経済危機や株式相場の混乱を受けて、投資家などがスイスフランを安全な資金逃避先に選び、フラン買いが進んだためだ。8月9日には、スイスフランは対ユーロでほぼ等価で取引されるまでに値上がりした。

 スイスフラン高の打撃が深刻な輸出業や観光業への救援策として、スイス中銀は8月3日、政策金利のレンジをほぼゼロにまで引き下げ、銀行システムへの流動性供給を強化した経緯がある。

 こうした措置により、スイスフランは18%ほど下がったが、先週には世界経済の減速懸念が高まったことを受け、スイスフランは再び急騰。スイス中銀への圧力がさらに強まっていた。

インフレリスク

 スイスフランの上限が設定されたのは、対ドイツマルク対策が行われた1978年以来。経済歴史学者のトビアス・シュトラウマン氏によると、今回のスイス中銀の決定は、為替介入発表後3週間でスイスフランが対ドイツマルクで2割も下落した1978年当時と似た効果があるという。

 「スイス中銀の明確な意思が市場に伝わったため、今回の措置が成功する確率は高いだろう。為替市場や輸出・輸入業者に明るい展望が開けた」

 1978年の措置では、1980年代初頭に7%のインフレが起こった。同様のインフレが起こるか否かは、スイス中銀がスイスフラン高を食い止めるためにどれほどの紙幣を発行するのか、また市場はスイス中銀にどれほど信頼を寄せているかによると、シュトラウマン氏は推測している。

主要政党は歓迎

 左派の社会民主党(SP/PS)は、スイス中銀の決定は投機家に明白なシグナルを出したと評価したが、これはスイスフラン高対策への第一歩に過ぎず、対ユーロで1.45フランにまで下げることが望ましいと述べた。

 中道派のキリスト教民主党(CVP/PDC)も今回の決定を支持。伝統的に経済界との結びつきが強い中道右派の急進民主党(FDP/PLR)は、スイス中銀を信用しているとし、この決定で今後の為替市場は安定するだろうと語った。

 これまでスイス中銀を批判してきた右派の国民党(SVP/UDC)も、この決定を支持。左派の緑の党(Grüne/Les Verts)も支持を表明したが、スイス中銀はスイスフランの価値が購買力と等価になるよう今後も努力すべきだと主張した。

 経済連合「エコノミースイス(economiesuisse)」や中小企業団体の「スイス商工業連盟(SGV/USAM)」も、スイス中銀の措置を歓迎している。

ユーロは欧州連合(EU)の共通通貨で、ユーロを導入している国はオーストリア、ベルギー、キプロス、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、スペインの17カ国。

ユーロはまた、非EU加盟国のアンドラ、モナコ、モンテネグロ、サンマリノ、バチカン市国でも使用されている。

ユーロは世界第2位の基軸通貨で、アメリカドルに次いで世界2位の取引量を占める。

スイスフランは「安全な通貨」と言われており、ユーロやドルなどが値下がりすると、投資家たちからのフラン買いが進む傾向にある。

過去5年間で、スイスフランはユーロとドルに対して約25%上昇。

スイス国立銀行(SNB/スイス中銀)は、為替レートを特定の値幅に固定することは避け、「経済発展を考慮しながら、価格の安定化を図る」というスイス中銀に果せられた使命を金融政策の基礎に据えていた。

だが、2009年3月に為替市場介入。2010年5月までに、国内総生産(GDP)の15%をスイスフラン高対策に用いたが、ギリシャの財政危機が起きたために思うような効果は得られず、この介入での損失は210億フラン(約2兆円)に上った。その後2010年6月には為替市場介入は中止された。

(英語からの翻訳・編集、鹿島田芙美)

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