スイス・フランス語圏で24日、農家の団結を呼びかける焚き火があがった
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欧州全土で頻発する農家の抗議運動がスイスにも広がっている。フランス語圏では24日、数カ所に焚き火が起こされ全国の農家に団結を呼びかけた。
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スイスではこの数週間、西部のフランス語圏を中心に農家の静かなる抗議運動が続いている。要求の1つはより正当な対価を受ける権利だ。24日夜はヴォー州とフリブール州を中心に、注目を集めるための焚き火が上がった。若い農家がフェイスブックのグループを通じて呼びかけた運動だ。
抗議の背景には生産コストの上昇や環境政策に伴う規制強化、自由貿易協定(FTA)による競争圧力、特に有機(オーガニック)商品で小売業者の利ざやが高すぎる、といった点がある。スイス農家組合のマルティン・ルーファー代表はswissinfo.chに対し、「この2年間、コスト増を生産価格に転嫁できていない。さらに5~10%の価格引き上げが必要だ」と語った。
今月12日にはスイス農家組合など複数の団体が、農家の地位向上を訴え6万5千筆の署名と請願書を連邦政府や各小売業者に提出した。政府に対しては農家への給付を縮小しないよう求めた。
スイスで農業は経済・政治の両面で存在感が大きい。スイスを代表する酪農やチーズ、チョコレートの多くはスイス産の原料を使う。
ただ経済の原動力とはいえない。2022年の農業収入は120億フラン。国内総生産(GDP)比では1%未満と、2%以上を占めるイタリアやフランス、ポーランド、スペインなど他の欧州諸国より低い。また2022年は農産物の輸入量が輸出量を上回った。農業従事者は14万8千人と、労働人口の約1.78%。
スイスの農業は厳しい品質基準と持続可能性を特長とする。畜産業(主に牛肉と酪農)が農業収入の半分、農作物は3分の1強を占めている。
政府の奨励策により土地利用が変化し、集約型農業から大規模農業への移行が進んでいる。2022年には、農家の6分の1が有機農業を採用していた。コープやミグロなどスイスの大手小売業者が地元農産物の最大の流通経路となっている。
手厚い政治的保護
政治的には農業は重視されている。小規模農家組合の会長を務めるキリアン・バウマン議員(緑の党)は今月、フランス語圏のスイス公共放送(RTS)でスイスの農民は「多くの直接給付」と「強力な関税保護」により「EU諸国よりもはるかに良い支援を受けている」と指摘した。
スイス政府は持続可能な農業を促進し美しい景観を維持するため、さまざまな補助金や支援策を講じている。連邦議会は農業を予算削減の対象外とし、連邦政府は農家に対する燃料税還付を温存した。
昨年10月の総選挙後、農業出身の議員の数は12人から20人に増えた。農業に詳しいヌーシャテル大学のジェレミー・フォーニー教授は、スイスの農家は欧州周辺国に比べて政治的に比較的手厚い保護を受けていると話す。「議会と直接民主制度の両方を通じて、国内の農家を支援するという原則が確立している」
問題の一部は、食料品の流通が大手スーパーに集中していることだ。多くの人は食料品の購入先をスーパーに依存しており、価格設定や交渉方法の透明性を高めるだけでは農家の地位向上を達成できない。
コンプライアンス(企業統治)が偏重された2000年代の農業政策の名残もある。フォーニー氏によると、農家は単なる意思決定の実行者に追いやられ、環境政策と農業の間で対立が生じることになった。
英語からの翻訳・追記:ムートゥ朋子
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