徴兵制改革案、相続税導入案、ともに否決 スイス国民投票
スイスで30日実施された国民投票では、徴兵制改革案と相続税導入案がともに反対大多数で否決された。
投票にかけられたのは「市民奉仕イニシアチブ」と「相続税イニシアチブ」の2件で、正午に投票は締め切られた。確報によると、市民奉仕イニシアチブは反対票84.1%、相続税イニシアチブは同78.3%でともに否決された。州単位でみても、全ての州で反対票が賛成票を上回った。投票率は43%だった。
女性も含めすべての国民に兵役や社会奉仕義務を課す市民奉仕イニシアチブは、特に大敗を喫した。10月中旬の世論調査では、約48%が同案を支持すると回答していたが、投票10日前には32%にまで低下していた。
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2025年11月30日の国民投票の結果
同イニシアチブを発議した市民団体「サービス・シトワイエン」のノエミ・ローテン代表はフランス語圏のスイス公共放送(RTS)に「決して終わることはない。闘いは続く」と語った。男女平等や市民としての責任、国家安全保障など、イニシアチブが含む重要なテーマについて国民的議論を巻き起こしたとも強調した。
市民奉仕イニシアチブは、男性に兵役・市民防衛・社会奉仕のいずれかを義務付ける現行の民兵制度の抜本改革を提案した。女性にも対象者を広げ、環境保護や弱者支援など社会貢献につながる役務を幅広く含める内容だった。連邦議会が承認すればスイスに住む外国人にも義務付けることも盛り込んだ。
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ローテン氏は、国民全員に役務を義務付ける案は時期尚早だったとみる。
「社会的な改革は、何回か国民投票を経る必要がある」と述べ、女性参政権の導入を例に挙げた。「市民奉仕のアイデアは死んでいない」
世論調査会社gfs.bernのルーカス・ゴルダー氏によると、イニシアチブへの支持は投票日が近付くにつれ着実に低下した。自由緑の党(GPL/PVL)や急進民主党(FDP/PLR)の一部の議員は当初賛成していたが、「時が経つにつれ、イニシアチブの弱点が急速に表面化した」ことで支持を失った、とドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)で解説した。
イニシアチブ支持派は、改革により男女平等が向上し、社会の結束や帰属意識も改善すると主張していた。だがこうした主張だけでは、改革に伴う費用の増加に対する懸念をぬぐうことはできなかった。
「無駄なコスト」
全州議会(上院)のアンドレア・クミュール議員(中央党=Die Mitte/Le Centre)はSRFで、否決されたのは「新しいものへの恐れのせいではない。膨大な無駄なコストが生まれるところだった」と語った。同氏は多くのケア労働が女性に強いられている現状を踏まえると、イニシアチブは平等改善につながらないと主張した。「市民奉仕案はただ未解決の疑問を残しただけだった」
軍隊なきスイスを目指す会(GSoA/GSsA)もイニシアチブの否決を歓迎し、今後も軍の増強を目指す政策提案に反対し続けると表明した。イニシアチブ支持派は、改革により軍や社会奉仕の人員が確保しやすくなると主張していた。スイス軍は2029年には人員不足に陥ると予想されている。
イニシアチブは否決されたものの、サービス・シトワイエンは連邦政府が有権者に配布した投票冊子について異議を申し立てる方針だ。市民奉仕イニシアチブに関する情報の訂正を求めていた。ローテン氏は「我々の意見では、スイス国民は客観的・完全・透明・適切な情報を持たず、誘導されずに意見を形成することができなかった」と憤る。
相続税導入案、賛成は左派のみ
超富裕層に連邦レベルの相続税を導入する相続税イニシアチブも、事前予想よりさらに厳しい結果となった。反対票78.3%は事前の世論調査を上回っただけでなく、10年前の類似の国民投票(71%)より多くの反対を突き付けられた。
5000万フラン(約97億円)を超える相続・贈与に50%の連邦税を課す同イニシアチブは、社会民主党青年部(JUSO)が発議したもので、資産平等の向上と、気候変動対策に超富裕層を貢献させることを狙っていた。可決されれば、税収は気候関連政策に充てる案だった。
だが連邦政府や主要政党、資金源の豊富な活動家たちが強く反対した。高額納税者である超富裕層が国外流出したり、企業家が納税のために事業の売却を迫られたりすると警告した。
経済への打撃を懸念
急進民主党のベンヤミン・ミューレマン共同代表は30日、反対運動を通じて、イニシアチブが失業を生むだけでなく、「経済と豊かさを破壊する」ことが有権者に知れ渡ったとSRFに語った。スイスで貧富の格差が拡大しているとしても、全体的な豊かさは全所得層で向上しているとも強調した。
経済団体「エコノミー・スイス」のモニカ・リュール氏は、否決されたのは「力強い家族経営」への好意的なサインだと述べた。また2015年の類似イニシアチブが否決されたことも踏まえると、「スイス有権者は連邦レベルの相続税を求めていない」ことがはっきりしたと語った。
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「良いアイデアは時間がかかる」
イニシアチブ発議者・支持者にとっても、否決という結果は驚くものではなかった。JUSOは30日の声明で、反対派がカネに物を言わせて「中傷的な」キャンペーンを張り、イニシアチブの中核である気候問題から有権者の関心を逸らさせたと批判した。JUSOのミリヤム・ホステットマン代表は投票日前、富裕層がメディアに登場し課税を逃れるために国外移住をほのめかしたのは「不安をあおるキャンペーン」だと指摘していた。
社会民主党(SP/PS)のセドリック・ヴェルムートゥ共同代表はSRFで「良いアイデアは時間がかかる」と述べ、医療保険料など生活費が上昇するなか、不平等との闘いは今後も市民にとって重要なテーマであり続けると強調した。今回の提案そのものは支持を得ることができなかったが、「我々はもっと良いものを提案していく」と断言した。
実際、富裕層への課税を強化する案が国民投票にかけられたのは今回が初めてではない。だが2021年のキャピタルゲイン課税案も、2015年の相続税案も、主に失業や企業経営への打撃に対する懸念が強く、否決に終わった。
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Reto Gysi von Wartburg、英語からのGoogle翻訳:ムートゥ朋子
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