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スイス・ペルーの炭素協定 世界の先例となるか

スイス・ペルー間で結ばれた二国間協定は、パリ協定の下で協力してCO2排出量を削減しようとする国々の道しるべになろうとしている Keystone / Rodrigo Abd

世界に先駆け、スイスとペルーがパリ協定に基づく国際的なカーボン・オフセット協定を締結した。だが、こういった二国間協定は気候変動を食い止めるための最善策にはならないという声も上がっている。

このコンテンツは 2020/11/26 08:30
Paula Dupraz-Dobias

10月に締結された同協定は、国際的なルールが存在しない中、他国が追随する道しるべになるとして歓迎された。スイスは温室効果ガスの排出量を2030年までに1990年比で半減することを目標に掲げており、協定はその達成に向けた二国間の公的機関と民間機関の協力についての取り決めだ。

スイスはこれまで、気候変動への適応と緩和を目的とするペルーのプログラム他のサイトへを長く支援してきた。またパリ協定にある「カーボン・クレジット(炭素排出枠)」をめぐり、スイスは世界共通の指針をまとめるよう求めている。

なぜそれが特別なのか?

パリ協定他のサイトへの第6条では、脱炭素化をより迅速かつ安価に実現するために、各国は新たな炭素市場システムを確立することで合意した。これは、持続可能なプロジェクト実現に向けカーボン・クレジットを購入したい政府や、排出量を目標以上に削減した国が、目標に達していない他国にその成果を販売したい場合などを支援する制度だ。

しかし、各国が二国間および自主的な炭素取引協定を締結することを認める第6条2項を除けば、多国間で排出量を相殺する「カーボン・オフセット」を効果的に実現するための具体的な基準を定めた世界的な枠組みは存在しない。第6条4項で監視機関の設置が規定されてはいるが、外交的な対立を背景に実現できていない。

「前例を作ることは重要だ。持続可能な開発や保全、人権尊重に関する高い基準を満たさない二国間協定を結ぶ国が出てくることが懸念されるためだ」と、スイスの国連環境大使を務めるフランツ・ペレス氏はswissinfo.chに語った。

そのためスイスとペルーの協定他のサイトへには、2016年に発効したパリ協定で強調された要件が多数盛り込まれている。例えばカーボン・オフセットのプロジェクトが持続可能な開発を支援する点や、プロジェクトを受け入れる途上国の「高い野心」を奨励し、途上国が自ら排出量を削減するためにあらゆる可能な努力を行う点などだ。

二国間協定にはまた、二酸化炭素(CO2)削減量の二重計上を回避するための決まりも盛り込まれた。これは昨年マドリードで開かれた国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)で、主にブラジルの猛反対を受け、大きな障害となっていた問題だ。

削減量の二重計上を避けるには

しかし二国間協定がこれらの基準を本当に満たしているかどうか保証するのは複雑な問題だ。

「各国は今、少しばかり過渡期に入っている」と、国際環境NGOゴールド・スタンダード財団のマーガレット・キム最高経営責任者(CEO)は言う。ジュネーブを拠点とする同財団は、炭素削減プロジェクトが総合的に見て環境に優しい内容か、持続可能な開発に資するかを保証するために設立された。開発途上国と協力する上で、国際社会は途上国の開発を行うだけでなく、彼らの野心も高めていく必要があるとキム氏は言う。

「自国の気候目標達成を邪魔することなくミティゲーション(代替措置)を講じるのに適切な分野を見極めるのは、多くの国にとって非常に難しい課題だ」とペレス氏は述べた。同氏によると、パリ協定以前に締結された京都議定書では途上国は排出削減計画を立てる必要がなかったため、排出削減量を途上国に振り替えても二重計上される心配なかった。しかしパリ協定では途上国もそれぞれの目標を設定することになったため、その内容が堅実で二重計上されていないかどうか確かめる追加的な作業が生じている。

ペルーのCO2排出量削減プログラムを担当するペルー環境局のロレンツォ・エグレン氏は、排出削減量をどう計測し、どの企業に計上するかを明確にすることが重要だとswissinfo.chに語った。そのため削減量の全国的な登録簿を作成し、一般市民がオフセット計画を閲覧できるようにした。これでどの計画がペルー自国のコミットメントの一部であり、どの計画が国際的な取引に関連したプロジェクトなのか理解できるようになる。

先進国の役割

一方、スイスでは「気候保護・カーボン・オフセット財団(KliK)他のサイトへ」が設立された。自動車燃料の国内輸入業者がCO2排出量を相殺できるよう支援することを目的とする。

今年6月のCO2法改正により、スイスの排出削減量目標の最大25%を国外で達成することができる。

KliK財団は輸送用燃料への課税を資金源として、世界各国でオフセット・プログラムのパートナーを探す目的で設立された。両国が一定の基準を満たし、ペルーと締結したような二国間協定が締結されれば、相手国での削減はスイスの排出削減目標に計上される。

二国間協定の締結を受け、KliK財団はペルーの中小企業向けに5千万ドル(約52億円)のグリーン・クレジットライン他のサイトへを検討中だ。持続可能な技術にアクセスしたくても資金を調達できない事業に融資する。

一方、スイスでは、ペルーの貧しい家庭の暖房設備を効率の高いものにリフォームするパイロットプロジェクトが進んでいる。地元の暖房メーカーと協力してプロジェクト他のサイトへを推進する気候セント財団他のサイトへは、フランスのNGOミクロソル他のサイトへと協働し、煙突から煙を出す暖房設備は、石油の代わりに薪を使用することでCO2排出量を削減し、呼吸器系の病気を減らすことができる。

スイスはフランスのミクロソル社と共同で、ペルー山岳地帯の家庭で調理器具の効率化プロジェクトを進めている Microsol

パリ協定や二国間協定では、そのプロジェクトがなければCO2が削減できなかったという「追加性」がオフセットの条件となっており、先進国は途上国自身が達成できる役割を果たしてはならない。調理設備のリフォームにもこの条件は適用され、KliKによると、ペルー政府はすでに調理設備のリフォームを支援しており、ミクロソルは十分な支援を受けられない分野でサポートすることになる。

スイスの二枚舌

前出のキム氏は、スイス・ペルー二国間協定がパリ協定第6条4項に定められたオフセットの国際基準を具体化する「道しるべ」になり得るとし、「高いスタンダードを設定する」と高く評価。「国際社会が注目する中、このスタンダードを下回ることは難しいだろう」と述べた。

それに対し、NGO南同盟(Alliance Sud)のユルク・シュタウデマン気候・環境主任は懐疑的だ。「その『追加性』が問題だ。第6条に従って、相手国が達成したであろう削減を上回る成果をもたらしたと、スイスはどうやって保証するというのか。調理設備はどのみち交換されていたのではないだろうか?」

そしてスイスも他の先進国と同じように「CO2排出量をめぐり二枚舌を使っているだけ」とシュタウデマン氏は主張する。国家目標には、国内のCO2排出量のみが考慮され、スイスへの輸入品や多国籍企業が国外で出した「グレーゾーン」のCO2は含まれない。

国内でさらに多く排出量を削減するよう努める代わりに、海外で排出量を相殺しようとする国の計画に対し、シュタウデンマン氏は「これは単なるパフォーマンスだ」と言う。「確かに富裕国にとっては楽な方法だ。『自分は何もしなくても、他の誰かにやるべき事をやってもらえばいい』と言っているようなものだ。これではあまりに短絡的すぎる」

ゴールド・スタンダードのキム氏は、炭素市場オフセットは気候変動を緩和するための重要なツールではあるが、途上国の主要な資金源として意図されたものではないと意識する必要があると言う。先進国が年間1千億ドルで合意していたこれらの資金は、「科学に沿った気候変動対策のための資金のほんの一部に過ぎない」

温暖化対策強化への期待

一方、連邦環境省環境局のヴェロニカ・エルガート気候政策副部長は、スイスは同様の協定について他の10カ国と交渉中だと述べた。23日にはガーナとも同様の二国間条約が締結された。

今年は異常気象が増加し、各地で平均気温の記録が更新され、気候変動が引き金でパンデミックが発生する可能性がとりざたされた1年だった。国際的なカーボン・オフセットの枠組みに関する世界的な合意がない中で、スイス・ペルー間協定は地球温暖化対策強化に向けた道しるべになるのではと期待を寄せる声もある。

「我々はこれらの世界市場メカニズムを構築する交渉に、何年も無駄に費やしてきた。地球も、大気も、気候も、環境も、もうこれ以上耐え切れない段階にきている。確かに二国間協定の中には、それほど強固ではないものもあるかもしれない。しかし、何もしないよりはましだ」とキム氏は述べた。

ペルーにとってのメリットは?

ペルーの環境保護者らは、スイスとの気候協定を歓迎する一方で、いくつかの懸念を表明している。

ペルーの気候変動を求める市民運動(MOCICC)のリチャード・O・ダイアナ氏は、今回の合意で重要なのは、排出削減量の二重計上を避けるためのルールを定めたことだとswissinfo.chに語る。また、ペルーで農村部の電化といったプロジェクトを実施するためのグリーン投資を受けられるメリットがあると付け加えた。

しかしMOCICCは、まだ詳細を具体化する必要があり、その議論に市民社会組織の意見が反映されていないと強調する。ペルー環境法学会のイザベル・カレ氏は、「スイスとのプロジェクトの実施を優先しなければ、ペルー国民は協定の恩恵を受けられない」と警告する。

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