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スイスはどこまで麻薬を合法化するのか?

スイスで医療用大麻が許可不要に

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スイスではこれまでも医療用大麻の使用は合法だったが、特別な許可が必要だった © Keystone / Christian Beutler

スイス下院は8日、医療用大麻の規制緩和を盛り込んだ麻薬法改正案を圧倒的過半数で可決した。患者にとっては朗報だが、治療費用の軽減には課題が残る。

スイスの麻薬法改正案は上院でも可決される見通しだ。通過すれば、治療に当たる医師が医療用大麻を処方する際、連邦保健庁への許可申請が不要になる。

医療用大麻は慢性的な痛みや筋肉のけいれんを和らげるために使われている。スイスはこれまで医療用大麻の使用は合法だったが、処方には特別な許可が必要で、取得には1カ月かかることもあった。申請件数が年々増えている現状を踏まえ、連邦政府が改正案を提出した。

改正案では悪用防止などのため、医師に治療法や関連データを保健庁へ提出するよう義務付ける。

スイス議会に先立ち、国連の麻薬委員会は2日、国際条約で定められている最も危険な薬物のリストから医療・研究用の大麻を外すと決めた外部リンク(スイスは賛成、日本は反対)。スイス・フランス語圏の中毒研究団体GREA外部リンクは、「大麻の医療目的使用に新たな展望を開く」と評価した。

年間3千件の申請

スイスは1951年に大麻を禁止したが、医療目的の使用は例外的に許可されてきた。次の地図が示すように、医療用大麻はスイスや北南米地域、欧州連合(EU)加盟国の大半で合法となっている。

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保健庁が2019年に出した医療用大麻使用の許可件数は約3千件と、15年からほぼ倍増した。だが国の調査によると、実際に必要としている人はさらに多く、全国で約10万人いるとされる。

スイス医療用大麻協会(MEDCAN)外部リンクによると、多くの患者は大麻を自家栽培したり闇市場で買ったりと、違法な手段で入手している。

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万能薬ではない

大麻は多発性硬化症、片頭痛などの慢性的な痛みやけいれんの緩和に効果がある。MEDCANの共同設立者ロドルフ・ブレナイゼン氏はswissinfo.chに対し、がん細胞との戦いにも役立つことが複数の実験で分かっていると語った。同氏は国連麻薬研究所のコンサルタントを務めた経験がある。

だが決して奇跡を起こす治療法ではなく、治癒効果の多くは大規模な臨床実試験で確認しなければならないと同氏は強調した。

スイスでは現在、合成テトラヒドロカンナビノール(THC・植物性の精神活性物質)で作られたものなど、5つのカンナビノイド製剤が利用可能だ。

自家栽培は禁止

下院の審議では、喫煙用の医療用大麻の処方禁止など、右派政党が求めた規制は否決された。

MEDCANは、大麻の吸入は即効性があるため一定の患者には「最良の摂取形態」とする。ただ基本的には喫煙よりも、蒸気にして吸うことが望ましいという。

また医師の監督の下、医療用大麻の自家栽培を許可するという左派の提案も否決された。MEDCANは同案で患者が「良質で手ごろな価格の大麻」を入手できるようになるとみていた。医療用大麻は月に数百フラン(数万円)がかかり、強制加入の基礎医療保険ではカバーされない。

ただそれも今後変わる可能性がある。アラン・ベルセ連邦内務相は、医療用大麻の有効性を再評価すると明らかにした。結果を踏まえ、基礎医療保険の対象にするか検討する。

連邦麻薬法は、精神活性成分のTHCが1%を超える大麻の栽培・消費・取引を禁止する。ただスイスには「カンナビスライト」「カンナビスCBD」といった、THCの含有量が1%未満のもの、また精神性作用を持たないCBD(カンナビジオール)を含む合法大麻製品があり、これらは自由に販売されている。


(独語からの翻訳編集・ムートゥ朋子)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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