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スカウト運動で調和を学ぶチビ狼たち

イギリスに始まったボーイスカウトが今年で発足100周年を迎えた。 Keystone

イギリス人のロバート・ベーデン・パウエル卿が初めてボーイスカウトのキャンプを行ったのは今から100年前。以来、推定3億人がこのライフスクールに通ってきた。

「ウルフ・カブ」、「ボーイスカウト」、「ベンチャースカウト」、「ローバー」などのグループは今も健在だ。

 だが、ボーイスカウトでは軍隊式の美徳はもう時代遅れ。「今では社会的な能力が重視されている」と、かつてスイス・スカウト運動の最高指導者だった女性は言う。

 スイスのスカウト参加者は5万人。世界では3800万人に上る。今では国際キャンプに世界各国から何千人もの青少年が集まる。ベーデン・パウエル卿の理念は、現在もなお生き続けているのだ。

 スカウトたちが「ジャンボリー」と呼ぶキャンプは、ベルン州ベルナーオーバラント地域のカンデルシュテーク ( Kandersteg ) でも開催された。スカウト運動創始100周年を記念するこの「カンデルジャム ( KanderJam ) 」には、40カ国からおよそ2000人が参加した。スカウト運動は、今の児童や青少年層にとっていったいどんな意味があるのだろうか。1999年から4年間スイスの最高責任者「連邦リーダー」を務めたカタリーナ・カルクシクス氏に話を聞いた。歴史家のカルクシクス氏は、現在、ベルンの教育専門大学で教鞭を取っている。

swissinfo : 今の青少年は「クール」な服を着たがりますが、ボーイスカウトのユニフォームは「クール」ですか?

カルクシクス : ボーイスカウトの青少年はユニフォームをクールに着こなしています。特にシャツは、どれも同じ色なのにそれぞれとても個性的。キャンプや共同活動のバッジをつけたりして、1人ひとり全く異なります。

今ユニフォームを廃止したりしたら、大変なことになるのではないでしょうか。彼らにとって、「スカウトユニフォーム」は共通の目印であり、活動中は必ずこのユニフォームを着ています。それがいやな人はTシャツを着たり、あるいはすぐに辞めていったりしますね。

swissinfo  : ボーイスカウトは「冒険の場で社会化を図る」ものですが、これは今でも機能していますか?

カルクシクス : ボーイスカウトに参加したいと思っている青少年はまだまだたくさんいます。余暇や学校などの活動により積極的に参加しているのはたいていボーイスカウトのメンバーです。私が勤めている専門大学でも「これはボーイスカウトで習ったことですが、これができてよかった」という声をよく聞きます。

しかし、ほかの青少年運動と同じようにメンバーの数は減っています。そういう意味では機能していませんが、すでに入会している人たちの間では機能しているといえます。

swissinfo : 青少年の余暇の過ごし方の1つとしてこれからも存続していくために、何か新しいコンセプトが必要ですか?

カルクシクス : 必要です。ボーイスカウトの理念の背景にある基盤や信念は十分現代的です。みんなで一緒にアイデアを育ててそれを実現すること。そして、お互いへの敬意や自然への敬意を払うことなどです。

しかし、私たちは、スカウト運動でどんな素晴らしい体験ができるのかということをもっと多くの児童や青少年に教える方法を見つけなければなりません。それに対する1つのアイデアとしては、たとえばこれから子どもたちは昼休みなどもだんだん学校で過ごすようになりますが、そこにボーイスカウトの活動も組み入れてはどうかと考えています。スカウト運動は子どもたちの世話に適したものになると思います。

swissinfo : クロスエアー ( Crossair ) 元会長のモリッツ・スター氏、連邦政務次官のダヴィド・シーツ氏、元連邦大臣のルドルフ・フリードリヒ氏、チューリヒ州全州議会議員のトリックス・ヘバーライン氏、あるいは歌手のポロ・ホーファー氏などもボーイスカウトに入っていました。ボーイスカウトは幹部養成所でもあるのでしょうか。

カルクシクス : いい意味でおっしゃるのなら、その通りです ( 笑い ) 。ボーイスカウトはグループ内での行動を試す学習の場です。自分のアイデアを持ち込むと同時にほかの人に敬意を払うにはどうすればよいか。みんなで一緒に前進していくにはどうすればよいか、など。

政治、科学、経済、あるいはショービジネスなど、後々進む分野は関係ありません。ここでは経験という宝物を得ることができますが、それは自分が一歩前進するときに役立つものです。職業見習いのための職場を探すときにも、ボーイスカウトだけに限らずボランティアを行ったことのある若者には何らかの強みがあります。

swissinfo : ボーイスカウトの原則の中には、「うまくできることは誰にでも必ずある」をモットーとした「環境への調和」もありますが、外国人の青少年の同化もこれでうまくいくでしょうか?

カルクシクス : ボーイスカウトは外国人の青少年の同化を目標に掲げています。ちょっとした成功はありますが、がっかりすることもたくさんあります。若いリーダーたちには指導者がついていますが、壁に突き当たることもしばしばです。

同化活動はたいへんですし、失敗することも珍しくありません。簡単な解決策があるとしたら、もうとっくに誰かが見つけているでしょうね。

swissinfo : 右派政党は若者の暴力が増加していることを取り沙汰していますが、ボーイスカウトでも暴力が増えていますか?

カルクシクス : 幸いにも、ボーイスカウトでは青少年同士の暴力はほとんど見られません。何かを実現させようと一生懸命になれることが一種の予防策になっているのです。しかし、暴力の予防に関して私たちが担う社会的課題は何かと常に自問しています。

実際のところ、ボーイスカウトの青少年たちもほかの若者となんら変わりはありません。最近開催された野外コンサート「ボーイスカウト・フォーク祭」のときには、スーパーの買い物ワゴンを放りっぱなしにしていました。そうすると、別の子どもたちがそのワゴンを回収することになるのですが。

swissinfo : カルクシクスさん自身も長年スカウト活動をされ、スイス最高位の女性スカウトを経験されました。今日のボーイスカウトの女性像はどんなものですか?

カルクシクス : 強くて、自信があって、協力する準備ができています。1987年以降、スイスには1つの連盟しかなく、男子と女子は土曜日に合同で活動しています。しかし、社会的な理由から男女が一緒に活動できない国もあります。

プログラムによっては男女が分かれるものもありますが、男女混合のグループではリーダー・チームも混合です。模範を示すことはボーイスカウトの大切な原則なのです。スカウト連盟では、州と連邦の指導部に2人ずつ、つまり男女両方の指導員を置いています。現在、連邦のトップを占めているのは女性の方が多いんですよ。

swissinfo、聞き手 レナート・キュンツィ 小山千早 ( こやま ちはや ) 訳

<スカウトの4段階>

- 8歳から11歳まで:ビーン・カブ ( 女子 ) とウルフ・カブ ( 男子 )

- 11歳から15歳まで:ボーイスカウト

- 15歳から18歳まで:ベンチャースカウト

- 18歳以上:ローバーとリーダー

- 障害児が入隊できるスカウト

ボーイスカウトの中心にいるのは児童や青少年で、成人はボーイスカウト活動には参加しない。

活動の中心にあるのは共同社会や自然の中での経験。

具体的には、特に、チーム行動をとる能力、自己責任、指導力 ( 年長が年少を指導 ) など、児童や青少年の社会的能力を促進すること。

社会的差異をあまり目立たせないために、スカウトはみんなユニフォームを着る。

スカウト運動は2万2000人の少女と2万8000人の少年が参加するスイス最大の青少年組織である。

23の州団体と700の地域団体がある。

全世界では3800万人以上の児童や青少年、成人がボーイスカウトとガールスカウトという2つの国際的な団体に加入している。

発足後の100年間で、約3億人がスカウト活動をしたと推定されている。

現在は216の国や領土がスカウトを組織している。

西ヨーロッパでは加入者数が減少、東ヨーロッパやアジア、アフリカ、南米では増加している。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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