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世界中で試練に立たされる言論の自由

ソーシャルメディア規制 独自路線貫くスイス

2018年4月、米上院司法委員会の公聴会で証言するフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO) Xinhua News Agency All Rights Reserved
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シリーズ 表現の自由, エピソード 4:

フェイクニュース、ヘイトスピーチ、陰謀論、検閲――。近年はSNSなど、ソーシャルメディア・プラットフォームが持つ力は大きくなりすぎたと専門家は言う。インターネットが再び民主主義の推進力となる方法はあるだろうか?スイスでは個人の判断力が頼りの綱だ。SNS規制を巡る現状を国際比較した。

このコンテンツは 2021/05/12 11:00

ソーシャルメディアは公の議論で欠かせないものになったが、民主主義の推進力として考えられることはほとんどない。むしろフェイクニュースや陰謀論、ヘイトメッセージの温床として認識されることの方が多いだろう。スイス政府は2017年、「ソーシャルメディア規制は新たに必要ない」と結論づけた。その一方で、民間のテック企業がソーシャルメディアに対して多大な影響力を行使したり、またソーシャルメディアを使って権力を振るったりして、望ましくない声を消そうとしているとの懸念が高まっている。

swissinfo.chの「#表現の自由」シリーズ

世界人権宣言(1948年)と国連の市民的及び政治的権利に関する規約(66年)の第19条は、次のように規定している。「この権利には、口頭、手書きもしくは印刷、芸術の形態または自ら選択した他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報や考えを求め、受け及び伝える自由を含む」。欧州では、欧州人権条約(1950年)により、表現の自由が法的拘束力のある権利として認められている(第10条)。スイスは、1999年に制定された連邦憲法第16条に、この基本的な自由を規定している。

しかし実際には、多くの争点が残る。世界中の多くの政府は表現の自由の権利を保護せず、むしろ弱体化させている。ある地域では、個人や集団が「表現の自由」という用語を盾に、差別的で悪意のある主張を正当化させている。普遍的な権利ではあるが、表現の自由は絶対的な権利ではない。それを確実にし、適用することは常に綱渡りだ。

swissinfo.chの新しいシリーズ企画では、スイスと世界中の表現の自由に関するさまざまな側面、課題、意見、進展に目を向ける。私たちは、市民がこの問題について自分自身を表現するプラットフォームを提供する。著名学者の分析のほか、世界全体、あるいは局地的な状況を掘り下げる。この春の後半には読者参加型の対話も計画している。

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サイバーセキュリティ専門家のマリーチェ・シャーケ氏は、swissinfo.chとのインタビューで野放しのソーシャルメディアの危険性についてこう警告する。「これらの企業、特に各種のソーシャルメディア・プラットフォームと検索エンジンを運営する巨大企業の力は大きすぎる。大勢の消費者を動かす力があるだけでなく、大勢の有権者も動かすことができる。このことは次第に明らかになってきている。この力をどうにかすべき時だ」

「インターネット上での交流」はかつて、主に民主主義の推進力として考えられていたが、再びそう認識されるにはどうすれば良いだろうか?深刻さを増す二極化を食い止める責任は誰が、どう負うべきだろうか?政治家が法律を制定するべきだろうか?テック企業がルールを作るべきだろうか?それとも市民社会が何の得にもならない制裁を加えるべきだろうか?専門家の多くは、解決策は市民社会の中にあるという。例えば台湾のIT担当相オードリー・タン(唐鳳)氏は「改革は下から、つまりユーザー側から考えていく必要がある」と訴える。要するに、変革は民主的に行うことが大事なのだ。

先駆的役割を果たしたドイツ

こうした問題に対し、世界各国は新しい法律や規制で対処しようとしている。先駆的な役割を果たしているのが、「ネットワーク執行法(NetzDG)」を制定したドイツだ。同法の対象はドイツ国内で200万人以上のユーザーを持つ全てのプラットフォーム。プラットフォームは違法コンテンツに関する苦情を精査し、24時間以内にすべての違法コンテンツを削除しなければならない。フェイスブックは2019年、この規則に違反したとして200万ユーロ(約2億6千万円)の罰金が科せられた。

同法はドイツ国外でも広がりを見せる。デンマークのシンクタンクJustitiaによると、ネットワーク執行法に触発されて同様の法律を議論または実施した国は20年10月までに合計25カ国に上る。

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だが問題点もある。同法の基本概念が非民主的な政府に簡単に悪用されやすい点だ。ネットワーク執行法は法治国家の保障および言論の自由の保護を前提とするが、それらがどの国でも等しく取り入れられているわけではないと、Justitiaは報告書の中で指摘する。

例えばインドは、「インドの統一、不可侵性、防衛、安全、主権」を脅かすコンテンツを新法で禁止する意向だが、これは不都合な声を封じ込めるための規定と捉えることもできる。

ロシアもフェイクニュースに対する規制の中で、ネットワーク執行法の例を明示した。20年には、具体的な定義のない「緊急事態」でインターネットを完全に遮断するための法的枠組みを作った。

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ハンガリーとポーランドはアカウント凍結に反対

一方でヘイト投稿を撲滅する取り組みとして考えられるものが、他方では検閲として認識される。表現の自由とは単に何でも自由に発言できることではないと、独シュツットガルト・メディア大学のペトラ・グリム教授(デジタル倫理学)は考える。「自由というものが原則的にそうであるように、言論の自由はいつも何らかの制限と結びついている」

ポーランドではフェイスブックと与党所属政治家の間で対立が長く続いている。与党所属政治家たちがソーシャルメディアでLGBTに反対するメッセージを繰り返し投稿した結果、フェイスブックは彼らのアカウントを凍結したからだ。

ネット上の危険または不快なコンテンツの拡散防止に取り組む国が多い中、ポーランドとハンガリーは異なるアプローチを取る。両国は投稿内容が国内法に違反していない限り、フェイスブックがユーザーアカウントを凍結することを阻止する方針だ。ハンガリーの法相は(フェイスブック上で)2月、ソーシャルメディア運営大手が「キリスト教派や保守派、右派の意見」の表示を制限しようとしているとコメントした。

スイスでも対策が必要

スイスにはこれまでソーシャルメディアに関する特別な規制は存在しなかった。スイス中央部ツーク在住のネット活動家で、ヘイトスピーチの撲滅に取り組む団体「Netzcourage」で率先的にヘイト対策を講じるヨランダ・シュピース・ヘッグリン氏は、国はヘイト対策に乗り出すべきだと訴える。「連邦閣僚は作業部会を立ち上げ、ヘイトスピーチ対策法案を作成することを決断すべきだ」

ヘイトスピーチの撲滅に取り組む団体「Netzcourage」のヨランダ・シュピース・ヘッグリン氏 © Keystone / Gaetan Bally
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例えばハッキングされたとか、誰かが自分のコンピューターを裏で操作したなどの理由をつけて、差別的な発言やヘイトスピーチをした責任から逃れるのは容易だと同氏は語る。

グリム氏は、これに関しては政治だけの責任ではないと指摘する。「テック企業も責任を負うべきだし、自主規制する責任もある」

フェイスブックやツイッターは一部の国で規制強化を自発的に求めているが、シュピース・ヘッグリン氏は懐疑的だ。「企業が国に明確なルールを求めるのは、殺人者が『あんたたちがナイフを売るのをやめなければ、また人を殺すぞ』と言っているようなものだ」

問題はクリック数中心のビジネス

営利企業が運営するソーシャルメディアは今後も大きく変わることはないとされる。根本的な問題はその構造にあるとグリム氏は言う。「センセーショナルなニュースや、事実を誇張したニュース、とりわけ人々を興奮させるようなニュースはとりわけクリック数が高い。そしてクリック数は当然、ソーシャルメディア事業の要だ」。シュピース・ヘッグリン氏は次のようにまとめる。「ソーシャルメディアがヘイトスピーチを許すのは、クリック数が増えて儲かるからだ」

解決策はあるだろうか?「必要なのは、商業利用されないコミュニケーションが可能な、法律に則った代替ソーシャルメディアだ」とグリム氏は主張する。

独シュツットガルト・メディア大学のペトラ・グリム教授 Radmila Kerl

同氏が提唱するようなソーシャルメディアはすでに存在する。例えば米国のSNS「Reddit」の台湾版とも言われるプラットフォーム「PTT」は国立台湾大学が出資しており、広告費やステークホルダーの影響を受けない。

前出のタン氏はswissinfo.chとのインタビューで、こうしたシステムは営利企業が運営するソーシャルメディアに比べて社会的価値があると指摘する。同氏はこうしたソーシャルメディアを「反社会的な」メディアと呼ぶ。

「新たな基調が必要」

ソーシャルメディアが良い方向に転換するには社会が圧力をかける必要があるとタン氏は説く。例えば台湾では、市民社会の要求を受けて政治の透明化が実現した。「政治資金に関して厳格な透明性ルールが設けられるようになったのは、市民の必死な訴えが背景にある」。こうした台湾の姿勢にフェイスブックも屈し、政治広告をリアルタイムで公開するようになった。「私たちはこれに関する法律を導入していない。(フェイスブックの対応は)社会的制裁だけに基づいている」

政治のデジタル化に詳しいチューリヒ大学のファブリツィオ・ジラルディ教授(政治学)も、ネット世界での共存を根本的に考え直す必要があると強調する。「これは法的な問題ではなく、私たちが社会としてどう対処していきたいかという問題だ」

シュピース・ヘッグリン氏は、直接的な交流においても考え方を改める必要があると指摘する。「(他者との関係を)悪化させないようなコミュニケーションについて、私たちは学んでいかなくてはならない。ソーシャルメディアは本来有難いツールだ。従来のメディアからはほとんど聞く耳を持たれなかった活動家にとってはなおさら貴重なツールだ」

スイスは個人の判断を頼りに

グリム氏は「ユーザー側がソーシャルメディアのモラルを築いていくことが大事だ」と強調する。「必要なのは新たな基調であり、今まで以上に前向きで、社会的価値を重視する基調だ」。ハイテク巨大企業が運営する営利目的のソーシャルメディアに代わるものを創出するには、政治的な支援が欠かせないと同氏は考える。「(代替ソーシャルメディアは)少なくともスイスを含めた欧州の価値に根差したものでなければならない」

ただスイス当局は現在、欧州の規制には注目していない。連邦通信省は、オンラインプラットフォームのためのガバナンスアプローチの可能性を検討しているが、スイス独自の解決策を模索中だ。リベラル系シンクタンク「アヴニール・スイス」のマティアス・アマン氏は、規制よりも市民の賢明な判断力に頼りたいと言う。結局のところ、スイスの直接民主主義では、彼らはこの点でも信頼されているのだ、と独語圏NZZ他のサイトへ紙に書いている。

(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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