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ツーグ州議会銃乱射事件:再考迫られる銃規制

ツーク事件後、警備強化された公共施設 Keystone

14人の犠牲者を出したツーグ州議会銃乱射事件の凶器が軍のライフルだったことに、連邦政府は衝撃を受けている。当局は公共施設の警備の見直しと、銃器規制の再考を迫られることになりそうだ。職業軍人による軍隊のない国民軍制度のスイスでは、成人男子国民は家庭に銃を保管している。

ツーグ州議会を襲ったフリードリッヒ・ライバッハー(57)が凶行に用いたのは、軍で使われているスイス製の5.6mmSIG「Sturmgewehr90」だった。ルツェルンでも49才の男が養子を射殺する事件が起きたが、ここで用いられたのも同じタイプの銃だった。犯人は共に、家庭に銃を保管している50万人のスイス男性国民のうちの2人だったのだろう。スイスの国防政策は、職業軍人による軍隊を持たず、原則として20以上の男性国民全員を予備役兵とする国民皆兵による国民軍制度を採っている。予備役期間は、かつては20才から50才までの30年間だったが、95年に22年間に短縮され、予備役兵は2年毎に2週間から3週間の兵役義務がある。この制度のため、20才以上の男性国民は緊急動員に備え家に銃と軍装を置いている。フィリペ・ザーノ軍報道官によると、現在国内には32万丁のSturmgewehr90が出回っている。さらに、少なくとも10万丁の57攻撃用ライフルとピストルが、一般家庭で保管されている。国民は予備役期間が終った後も、希望すれば銃を保持する権利がある。

事件後、連邦議会は銃器規制法の再考を要請した。「米同時多発テロの衝撃の映像を忘れられないでいるうちに、ツークで無差別射殺事件が起きた。我々はこれからも、ほとんど全ての男性国民が銃を持っているという制度を続けるべきかどうか問い直す必要がある。凶行に用いられたSturmgewehr90は、旧式の攻撃用ライフルよりも軽量で破壊力が強い。この銃が国中の家庭に出回っている状況を早急に見直さなければならない。」と、社会民主党のパウル・ギュンター議員は、10年以内に予備役期間が終った後もSturmgewehr90を保管する最初の世代の国民が出てくる現状に強い懸念を表明した。スイスでは、兵役の終った国民が保持している銃器の売買を管理する規制は無いに等しい。住所・氏名を明記した売買契約書の登録が義務付けられているだけだ。遺産として家族に残されたものなら、軍の銃はこの登録すらせずに持ち主が変更されることになる。

99年コソボ紛争時、アルバニア系ゲリラが対セルビア軍戦でスイスで手に入れたSturmgewehr90を使用していたとの報告がある。スイスの銃器規制法は過去何度か再考が検討されたが、いつのまにかうやむやにされてきた。家に銃を保管する制度の支持派は、スイスでは緩やかな銃器規制にも関わらず銃犯罪は滅多におこらない事を上げていた。が、自由党のオットー・スコッホ氏は、「国防省内の専門家らは銃規制法について真剣に討議するだろうが、議会の政治家らが真剣に法改正に挑戦するとは思えない。」と見る。一方左翼政党らは、事件後、銃規制の強化を要請しはじめている。「最小限、軍の銃器の個人の売買と遺産相続をガンショップでの購入と同様の管理下に置くべきだ。」とギュンター議員はいう。

ツーグ事件後、少なくとも家庭での軍装備保管に関する規制強化が検討されることになると思われる。が、規制強化の検討は、スイスのガン・ロビーからの強硬な反対に遭う事は間違い無い。予備役兵の銃家庭保管の権利を主張する協会「プロ・テル」のハンス=ルエディ・ソルベルガー代表は、「ツ−グ事件の犯人が銃を合法所有していたのか違法なのか判明するまでは、規制に関して討論を開始したくない。」と銃規制を語るには時期尚早であるとswissinfoに語った。ソルベルガー代表は、「予備役兵らが家に銃を保管できなくなったら、毎年の射撃訓練にも行かなくなる。」と、国民軍の訓練の方に懸念を示した。

が、ギュンター議員は、冷戦後、予備役兵らが家に銃を保管しておく意義はほとんどなくなったとの見解を示す。「これは冷戦コンセプトだった。ソ連軍は48時間以内にスイスを急襲できるという恐怖から、定められた規制だ。」という。が、ソルベルガー代表は、「家に銃を保管していなければスイス人でなくなるなどという理由で、銃器規制強化に反対しているのではない。スイスの独立性はそんなことで保たれているのではない。」と、銃器規制強化の反対の理由はイデオロギーによるものではない事を強調した。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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