エプスタイン文書、FRB議長指名、そして新たな核軍拡競争…スイスのメディアが報じた米国のニュース
スイスの主要メディアが1月29~2月4日に報じたアメリカ関連ニュースから①エプスタイン文書②FRB議長指名③アメリカ・ロシアの核軍縮、の3件を、スイスインフォ英語編集部のトーマス・ステファン記者が要約して紹介します。
エプスタイン文書を公開
今週スイスの新聞各紙は珍しく、ドナルド・トランプ米大統領のまずまずの決断を称賛しました。何かというと、ケビン・ウォーシュ氏を次期連邦準備制度理事会(FRB)議長に指名する意向を示したことです。ですが、ドイツ語圏の日刊紙NZZは、「たとえ優れた議長であっても、ドルの下落を食い止めることはまず難しい」と手厳しく評価しました。
「エプスタイン事件はアメリカの深淵」― 。ジェフリー・エプスタイン事件の追加文書が公開されましたが、米国政府のやり方に、スイスの新聞各紙は失望を隠しませんでした。
「疑問に思う。エプスタインと面識のない人物は果たしていたのだろうか」。スキャンダルの規模をこんな風に表現したのは、2日付のNZZです。この3日前、アメリカの司法省は、少女買春などの罪で起訴され2019年、勾留中に自殺したジェフリー・エプスタイン氏と、富裕層や権力者との交流に関する残りの捜査資料数百万点を公開しました。いわゆる「エプスタイン文書」です。
NZZは「ハーバード大学のローレンス・サマーズ教授(エプスタイン氏と親交があった)の辞任のようなケースは依然として稀だ。エプスタインとその仲間の真の被害者、そして被害者とされる人々が、納得のいく結果を見いだせる可能性は極めて低い」
「私たちはまだアメリカ政府を信頼できるのだろうか?」。フランス語圏の日刊紙ル・タンは、公開された文書が不完全かつ被害者の身元が保護されていないほか、ドナルド・トランプ米大統領に関する記述部分が慎重に「編集」されていると報じました。
「失望は計り知れない。だが、司法省が主に政治的目的を達成すべく存在しているように見える政権においては、当然のことだ。議事堂の暴徒たちが愛国的英雄として持ち上げられている時代に、最高司令官の名前(トランプ氏のこと)が何千回も登場する事件で真の透明性を確立できるなどという考えは、単なる空想に過ぎなかった」とル・タンは断じています。
また民主党のビル・クリントン元大統領が「間違いなく米国政治史上最大級のスキャンダルの一つ」に関与していることは、支配層エリートに対する「甚大な失望」を決定づける出来事だとしました。
NZZは、クリントン氏の方がトランプ氏よりも深刻な立場に追い込まれているとみています。「共和党はクリントン氏とヒラリー・クリントン元国務長官を公聴会に招集した」「彼らは、クリントン夫妻が注目を浴びれば浴びるほどトランプ氏のイメージが良くなるというホワイトハウスの戦略を実行しているのだ」。クリントン夫妻はこれまで証言を拒否していましたが、3日、議会侮辱罪に問われるのを避けるため、証言に応じることに同意しました。
NZZは「共和党が議会で多数派を占めている限り、トランプ氏はエプスタイン事件を恣意的に利用することで優位に立つ」と結論付けました。「今回の文書公開が具体的な政治的・法的影響を及ぼす可能性は低いものの、エプスタイン文書は政界、財界、学界、そしてエンターテインメント界のエリート層全体に損害を与える。多くの有権者は、完全に腐敗した体制を相手にしているという印象を受けるだろう」
(出典:ル・タン外部リンク/フランス語、NZZ外部リンク/ドイツ語、SRF外部リンク/ドイツ語)
FRB議長の後継指名、スイス紙はどう評価した?
トランプ米大統領は1月30日、5月に任期満了を迎えるジェローム・パウエルFRB議長の後継にケビン・ウォーシュ氏を指名しました。スイスのメディアはこの決定を慎重に歓迎しました。
「大統領は適切な人物を選んだ」と評価したのは同日付のNZZです。その理由にウォーシュ氏の経済に関する専門知識、危機管理能力、そして政府での経験を挙げました。「長所は多いが、穴もある。ウォーシュ氏は低金利政策も支持している。そうでなければ、トランプ氏は彼を人選プロセスに参加させなかっただろう」
NZZは、トランプ氏は経済を刺激し自身の支持率上昇につながる中央銀行を望んでいると指摘しました。「ウォーシュ氏がこの恩恵を与えてくれるかどうかは、少なくとも疑問だ。55歳のウォーシュ氏が金融政策に関するこれまでの信念を完全に捨て去らない限り、政府の失望は避けられないだろう」
ウォーシュ氏の上院での宣誓はこれからです。スイス公共放送(SRF)はウォーシュ氏を「旧来の共和党主流はに属する保守派経済学者」と評価します。
SRFは、「ウォーシュ氏が自身の任務と政治的独立へのコミットメントを真摯に全うするなら、トランプの操り人形にはならないだろう。しかしながら、ホワイトハウスからの政治的圧力が弱まることはない。ここ数カ月、ウォーシュ氏はトランプ氏の大幅な利下げ要求を公に支持してきた」
ル・タンはウォーシュ氏を「ハト派的なタカ派」と評しました。「タカ派過ぎるわけでも、ハト派過ぎるわけでもない。ウォーシュ氏を次期FRB議長に指名することで、トランプ氏は正統派路線を選んだ」
しかし、世界最高の中央銀行総裁でさえ、インフレを煽る経済政策にはほとんど対策を講じられないと、31日付のNZZは指摘しています。「アメリカは今年、トランプ政権下でさらに2兆ドルの債務を抱える可能性が高い。この巨額の財政赤字は、新たな軍事費と減税によってさらに悪化するだろう。すでに年間経済生産高を上回る巨額の債務を抱えているこの国にとって、これ以上の負担は到底無理だ。それが理由でドルは下落し、フランと金は力強く上昇している。状況が急速に改善する見込みはない」
(出典:NZZ、30日付外部リンク、31日付外部リンク/ドイツ語、SRF外部リンク/ドイツ語、ル・タン外部リンク/フランス語、ターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語)
新STARTが失効、世界への影響は?
米国とロシア間の核軍縮条約である「新START(新戦略兵器削減条約)」が5日に失効します。ル・タンは、核兵器の保有状況を相互に検証する仕組みが失われれば、誤算のリスクが高まると警告しています。
「激動の地政学的状況下で、戦略兵器削減を定めた新STARTが2月5日に失効することは、決して軽視できない」。ル・タンは4日付の社説でそう指摘しました。
2010年にジュネーブで締結されたこの条約は、世界の核兵器の86%を保有するロシアと米国の間に安全保障上の安定をもたらした、と同紙は指摘します。ニクソン、ブレジネフの時代に始まり、ブッシュ、ゴルバチョフによって発展し、オバマとメドベージェフに引き継がれてきた核軍備管理体制の最後の重要な構成要素だったと説明します。しかし、現在の両政権のトップであるトランプ大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、「表面上は『友好関係』にあるにもかかわらず、新たな合意を交渉する能力を示せなかった」としています。
朗報は1960年代に両国が保有していた7万発の核弾頭には数が程遠いということ。一方、悲報は、技術の進歩と超強力な爆弾によって、米ロは今日、はるかに危険な核兵器を保有しているということです。「量的にも量的にも、新たな核軍拡競争の可能性を排除することはできない」
ル・タンは、新STARTに基づく相互査察によって信頼が強化されたからこそ、戦略的安定がもたらされたと続けます。「信頼がなければ、核警戒事態における誤算のリスクは10倍に増大する」
「トランプ率いるアメリカに裏切られたと感じている同盟国の中には、アメリカの安全保障の保証を失ったことを埋め合わせるために、いつか核兵器を取得することを考えている国もある。ドイツ、韓国、日本などがそうだ。人類は核兵器の必然性を否定すべき時が来ている」
(出典:ル・タン外部リンク/フランス語、ブリック外部リンク/ドイツ語)
次回「スイスのメディアが報じた米国のニュース」日本語版は2月12日(木)配信予定です。
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英語からのgoogle翻訳:宇田薫
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