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ハイテク水着は科学ドーピングか?

相次ぐ記録の更新は依然として疑問を投げかける-選手、それとも水着のおかげか?

(Keystone)

水泳競技の統治機構、国際水泳連盟が、水の抵抗を少なくさせることで論争を呼んだハイテク水着の審査を行うようスイス人科学者に依頼した。

過去16カ月間に更新された競泳記録の大半は、新世代の水着が加勢したためと考えられているが、これについての論争に終止符を打つため、連邦工科大学ローザンヌ校 ( ETHL/EPFL ) の専門家が「国際水泳連盟 ( FINA ) 」をサポートしている。

「科学的なドーピング」

このハイテク水着には、選手にかかる全減速力の25%を占める「粘性抵抗」が無い上、浮力を作り出すことから、「科学的なドーピング」に相当するという批判が出ている。

 「スピード社 ( Speedo ) 」の水着「レーザー・レーサー ( LR ) 」が2008年2月に発売されて以来、約126の世界記録が生まれた。他社も独自のハイテク水着でスピード社を追っている。

この成り行きを深刻視したFINAは、合成素材の専門家である連邦工科大学ローザンヌ校教授ヤン・アンダース・マンソン氏の助けを求めた。マンソン氏はアメリカ杯の「アリンギ号 ( Alinghi ) 」や航空機「ソーラー・インパルス号 ( Solar Impulse ) 」のプロジェクトに携わり、科学関連の問題で国際的なスポーツ連盟のアドバイザーを務めている。

マンソン氏のチームは、先月ローザンヌの実験室で348着の水着の浮力と厚さを審査した。
 「現在競泳選手は体の表面をより多く覆うようになり、それによって多くが変わりました。科学の発展を止めることはできませんが、科学を利用して何を手に入れるかを決めることはできます」
 とマンソン氏は5月28日ローザンヌで語った。

 これまで競泳の記録は、オリンピックサイクルの4年毎に0.75%から1%の割合で確実に短縮されてきた。ところが2008年、2009年には記録がそれぞれ2%も伸びている。
 「もちろん、レースの前後にレーザーや全身スキャナーなどを使って、全てを調べることは可能です。しかしそれが水泳競技の求めているものなのでしょうか。そうではないと思いますが、決めるのは私ではありません」
 とマンソン氏は語る。

 FINAは調査結果をふるいにかけるための特別委員を選任し、5月27日に2009年の世界選手権に向けて着用が認可された202着の水着のリストを発表した。

信用の回復

水着審査の実施と認可リストの作成は、3月にドバイで行われた会議の結果に従ったものだ。7月19日から8月2日にローマで開催される世界選手権とその後に向けて、FINAは競泳の「信用を回復」するための新しい規定を同会議で採択した。

生地の厚さと素材の浮力についての新規定に加えて、水着は首を覆ってはならず、肩と足首の先を越えてはならないと決定された。

FINAは、ローマの世界選手権では着用する水着によって優位な選手が出ないよう、競技の公平な場を作る必要があり、認可された水着はすべての競技者が入手できるものでなくてはならないと発表した。

「われわれが介入した理由は、科学を規制する必要があること、そして科学ではなくスポーツが第一であることを水泳競技界の関係者が知るべきだからです」
と5月27日にFINAの事務局長コルネル・マルキュレスク氏は語った。

しかし今年2009年は、FINAが設けた厳しい規定を来年施行する前の暫定期間だとマルキュレスク氏は言い添えた。
「業界と競技者への影響が大きすぎるため、何の予告もなくハイテク水着全てを禁止することはできません。これは移行期間です。われわれは水泳競技のために正しいことをするつもりです。ローマはそのプロセスの一部ですが、もし来年の1月にまだ水着のことが今のように書きたてられていたら、わたしはピストルで撃たれてもかまいません」

 「こうしたテクノロジーを規制する必要があります。われわれは科学的に証明することによって規制しなければなりませんが、ある水着がほかの水着より優れているという科学的な証拠が今は無いのです」
 とマルキュレスク氏は語った。

透水性のテスト

 論争の中心は、水着全体が浮力を補助するポリウレタン素材でできている新しいモデルだ。従来のハイテク水着にはポリウレタン製のプレートがついていた。

 FINAは、浮力と厚さの審査に合格しなかったという理由から水着10着の認可を拒否した。また、ほかの136着の水着は「水着の素材は着用中に空気または水分を捕える作用を作り出す成分または組織を有するよう構成されていてはならない」という必須条件に合うよう改善が必要とFINAは発表した。各社は改善した水着の再提出まで30日間を与えられている。

 オリンピックチャンピオンのアラン・ベルナールが先月100メートル男子自由形で世界記録を破った際に着用していた「アリーナ社 ( Arena ) 」の「X-グライド ( X-Glide ) 」や、4月に男子50メートル自由形で世界記録を更新したフレデリック・ブスケが着用した「ジェイクド01 ( Jaked 01 ) 」は、改善が必要とされる水着であるとされた。

水着の着用中に生じる空気の捕捉性の測定手段がFINAにはないため、改善要求が出されないまま2着とも認可される可能性があるという推測が5月27日に起きていた。

 しかし、マンソン氏のチームは、今年これから全ての水着の透水性についてより厳密な審査を行う予定だ。それによってFINAは2010年以降の認可リストを決定することができる。来年に向けて、透水性が50%以上の水着は合法とすでに規定された。
「完璧な透水性を持った水着に水泳界が向かうのが正当でしょう」
 とマンソン氏は語る

サイモン・ブラッドレー、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、 笠原浩美 )

水着論争

ハイテク水着が導入されたのは2000年。2005年に全身を包み込む水着を着用する選手が出現したため、表面が平らで体の曲線に合った水着を製造するよう企業を規制するための規定を導入しなければならなかった。

2008年2月に「スピード社 ( Speed ) 」の水着「レーザー・レース ( LR ) 」が登場して以来、科学競争が過熱した。北京オリンピックでは、有名なアメリカのマイケル・フェルプスをはじめとする選手陣がLRを着用して金メダルをほぼ総なめにし、25あった世界記録のうち23を更新した。

LRは水の抵抗を軽減するために体の凸部を圧迫し、浮力を増すために空気を捕えるという2つの作用を持っている。この2つの組み合わせた効果を増強しようと、LRを2枚以上重ね着する選手が多数出た。このためLRの着用は実質的な「科学的ドーピング」との批判が起きた。

2008年12月クロアチアで開催されたヨーロッパ短水路選手権では、17の世界記録が無効となり、水着についての規定を修正変更する必要に迫られた。2008年2月以来、ハイテク水着を着用した競技者が126の世界新記録を樹立している。

LRに対抗して、「ジェイクド01 ( Jaked 01 ) 」や「アリーナ社 ( Arena ) 」の「X-グライド ( X-Glide ) 」のようにポリウレタンを使用した新しいモデルの水着が市場に導入されている。

2009年3月ドバイで開催されたFINAの会議では、水着は首を覆ってはならず、肩と足首から先を出てはならないと規定された。また水着の厚さと浮力にも制限が加えられた。5月20日FINAは2009年の競泳選手権で着用が認可される水着220着のリストを作成した。2010年にはより厳しい規制の導入が予定されている。

全身用の水着の価格はおよそ300ドルから600ドル ( 約2万8900~5万7800円 )で、着用はプロとアマチュアの水泳選手に限られている。しかし、近年の科学の発達によってベーシックなハイテク水着が約100ドル ( 約9600円) で購入できるようになった。

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