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ペンチから鉗子 ( かんし ) へ スイスの歯科治療の変遷



歯科医が患者の自宅に治療に来る時代もあった ( akg images )

歯科医が患者の自宅に治療に来る時代もあった ( akg images )

歯医者に行くことが苦手な人は多い。しかし、現在開催されている歯科医学の歴史展覧会で、昔の歯科治療の様子を目の当たりにすると、本当の恐怖とは何なのかを実感することができるだろう。

歯科医のもとで丁寧に行われる抜歯作業。だが、18世紀初頭までは蹄鉄工 ( ていてつこう ) や理髪師がペンチで化膿した歯をもぎ取るという手荒な作業が行われていた。

歯科医は患者思いか

 チューリヒ大学付属の医学歴史博物館で行われている展覧会「咬み合わせ ( Mit Biss ) -歯科医学の歴史」は古代の歯科治療がどのように行われていたかを歯科医学の歴史の流れと共に紹介している。

 

 歯は、乳歯から「3本目の歯 ( 親知らず )」まで生涯付き合っていくものだ。毎日、食事をしたり、話したり、微笑んだりする時の道具として、時にはラインストーンを付けてアクセサリーとして歯を使っている。歯の手入れは幼い時から始める。

 今日、歯科衛生法が定着しているとはいえ、いつの時代も最も頻繁に起こる疾患はやはり虫歯だ。歯医者へ行くことにはみんな慣れているが、歯を削るドリルの音を聞くと、ほとんどの人が少なからず不快な気分を味わい、不安を抱く。

 「痛くないように抜歯してくれるんですか」

と治療を受ける前に患者が質問すると、歯科医は

 「大抵は痛くないですよ。以前、一度だけ抜歯の際に手首の関節を脱臼しましたけれど」と答える。こういった古臭いが今でも通用するジョークは、患者の歯科医に対する不安を表している。

歯科医は風刺漫画の至る所に

 展覧会のパネルでは「造形芸術では、苦痛を伴う歯の治療が常にテーマとして扱われる。手荒な治療の様子や身体的な苦痛を表現している風刺画で、昔の歯科治療の様子がうかがえる」と紹介されている。

 歯科医は風刺漫画やジョークの中でもお決まりの題材として取り上げられる。

「20世紀始めの数百年間は痛みを伴う抜歯が風刺の主題だったが、世紀中頃からドリルや歯の詰め物、麻酔注射などに対する不安が表現されるようになった」という。ペンチやドリル、注射はしばしば「拷問道具」としてかなり大袈裟に描写されている。

 「先生、もしかしてわたしの健康な歯を3本抜きませんでしたか」

 と患者が質問すると

 「いいえ、 少なくとも1本は悪い歯でした」

 と歯科医が答える。患者の不安は歯科医の罪にすり変えられるため、歯科医が配慮に欠けた、サディストのように表現されている。

 また、治療費も歯科医の風刺詩の中で主題としてよく扱われる。

 「先生、新しい義歯で上手く噛めないんです」

 と訴える患者に対して歯科医はこう答える。

 「問題ないですよ。わたしに治療費を支払えば、いずれにしても食べるものが買えなくなりますから」

先端を行くチューリヒ大学

 悪くなった歯の主な治療には、何世紀にもわたって抜いたり折ったりする方法が取られていた。歴史を感じさせるペンチや鉤 ( かぎ ) などの道具の展示品からは、抜歯の仕方が少々野蛮だったことがうかがわれる。

 抜かれたり、抜け落ちたりした歯が差し歯や入れ歯に換えられるようになったのは紀元後、数百年の間。それに対し、歯根の治療といった歯を維持するための技術や、ドリルや歯の充填材 ( じゅうてんざい ) などの道具が一般的になったのはここ百年余りの間だ。

 アメリカでは1840年代に、初めて歯科医に博士号の称号を与える歯科大学が創設された。当時、多くのスイス人歯科医がアメリカに渡り、知識と技能を身に付けた。一方、スイスでは1888年に歯科医になるための前提条件として大学教育を受けることが法律で定められた。1914年、チューリヒ大学が歯科医学の博士号 ( Dr.med.dent ) を与える世界初の国立 ( 連邦 ) 大学になった。

愛称は「歯のおばさん」

 1901年、チューリヒに住んでいた約2000人の子供たちの9割が虫歯になった。虫歯が子供たちの間に広まったことをきっかけに1908年、チューリヒとルツェルンにスイス初の校内歯科治療院が創設された。以来、子供たち全員が無料で歯の検査や治療を受けることができるようになった。これはフランスのストラスブール市に設立された、ヨーロッパ初の校内歯科治療院が手本となった。

 1950年代から1960年代にかけて学校内の歯の手入れ指導が強化され、1961年以降、定期的に学校で子供たちに歯磨きや健康な食生活を指導するために一般の主婦が雇用された。彼女たちは「歯のおばさん」の愛称で親しまれた。

流行る美容整形外科

 スイスには、新しいものを好んで試す顧客がおり、歯茎にネジを埋め込んで義歯を装着するインプラントが流行しているとマルグリット・ヴィダー氏は言う。ヴィダー氏は展覧会の責任者で、チューリヒ大学の医学歴史研究所の研究員として勤務している。

 「インプラントは少し値が張りますが、丈夫でしっかりとした感覚があります。治療代を安く済ませたい人は、ハンガリーやドイツまで治療に行きます」

 今日、歯科治療は美容手術の分野へ進出している。虫歯が多くの人にとって深刻な問題でなくなったため、歯科医がほかの分野を開拓しているのだ。美容整形外科は今日、多くの人が必要としている分野だという。歯科治療も同様の分野が必要とされるだろう。

 「わたしたち、現代人にとって外見は非常に重要な要素です。職を探すときでさえ見た目がとても大切になります。ですからこの分野はますます発展していくでしょう」

歯科医学の歴史

特別展覧会「咬み合わせ ( Mit Biss )-歯科医学の歴史」は10月28日からチューリヒ大学医学歴史博物館で開催され、現在「不安と痛み」「歯科医学」「歯科衛生」の三つのテーマに分類して歯科医学の歴史を紹介している。2011月春まで開催予定。

展示会はロニー・トラヒセル氏とベアテ・シャッパッハ氏の両博物館管理者の発案による。

展覧会には子供たちが学校の休暇中に家族単位で、あるいは学校の行事でクラス単位で来館している。また、専門家、歯科医も数多く訪れている。

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( 独語からの翻訳・編集、白崎泰子 ), swissinfo.ch


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