スイス情報局が入手していたCIAの秘密収容所情報漏えい事件
欧州にあるとされるテロ容疑者の秘密収容所疑惑について、欧州会議が調査に乗り出した矢先、スイスの大衆紙ゾンタークスブリックが、スイス情報局が入手した収容所の存在を裏付ける可能性の高い文書を1月8日、公開した。
問題の文書は在ロンドンのエジプト大使館とエジプト外務省の間で昨年11月10日に交わされたファクスの内容を報告するもので、スイス情報局が衛星の受信装置オニックス(Onyx)を通し、同月15日に入手したというもの。
スイス情報局が受信した情報には、ルーマニア、ウクライナ、コソボ、マケドニア、ブルガリアにテロ容疑者とされるイラク人やアフガニスタン人合計23人を収容する秘密収容所の存在が示されている。
各国の情報局が同じ情報を持っているはず
秘密収容所が存在し、そこではテロの容疑者とされる人々が連行され、事情聴取では虐待もされていると人権擁護団体などから指摘されてきた。しかし、ライス米国務長官は2005年12月、欧州を訪問した際「米政府は、欧州の空港に離着陸したいかなる飛行機や欧州の空域を飛ぶ飛行機にもテロ容疑者を乗せたことはない」と発言をするなど、米政府は一貫して、秘密収容所の存在を否定している。
秘密収容所の存在の調査を欧州会議から依頼されたスイス上院議員のディック・マルティ氏は、情報の信憑性は分からないが、欧州各国の情報局はスイスが入手した情報と同等の内容の情報を持っているはずだとし、今月開催される欧州会議でも今回リークされた情報について中間報告を行い討議するつもりだという。人権擁護団体などは、今後米国のテロ容疑者に対する虐待が明るみになるであろうと、今回のリークを歓迎している。
情報局の管理問題にすり替えられるのか
これまでスイスでは情報局の機密情報が漏洩したことが何度かあることから、バルバラ・ヘーリンク下院議員(社会民主党)は「情報局の管理の問題が浮かび上がった」と指摘した。また、情報局を調査する会議の委員長であるハンス・ホフマン上院議員(国民党)は「明らかに公開すべきではない資料。こうした機密情報の漏洩は他国の情報局に対するスイスの信用にかかわる」と語った。
政府は1月9日、秘密文書を公開したゾンタークブリックの編集長と記者の2人および、現在特定されていない情報提供者に対して、軍事裁判で訴える意向を表明した。軍事裁判で有罪となれば最高5年間の実刑判決になる可能性もある。
連邦防衛相、司法相、外務相など担当各大臣が秘密文書について知っていたと見られるが、マルティ氏は「ファクスの存在を、報道機関を通して知った」と10日付けの日刊紙ターゲスアンツァイガーのインタビューに答え、連邦政府から情報提供がなかったことを批判した。
国連では人権保護活動をアピールするスイス政府。マルティ氏は欧州会議からの要請で秘密収容所の調査を行っているとはいえ、スイス政府の協力がなかったことを指摘する声は少ない。情報局の管理問題に問題をすり替えられることなく、スイス政府は毅然として、米国政府に公式に今回明るみに出たファクスの釈明を要請することが望まれる。
swissinfo、 佐藤夕美(さとうゆうみ)
米の秘密収容所疑惑の経緯
- 2004年6月17日
ヒューマン・ライト・ウオッチ(Human Right Watch)が15カ所に秘密収容所があると発表。
- 2005年11月2日
ワシントン・ポストがCIAがアルカイダのメンバーを東欧およびアジアの8カ国の収容所に拘束していると発表。
- 11月7日
スイス人ディック・マルティ上院議員が欧州会議から秘密収容所の調査の依頼を受ける。
- 12月8日
ライス米国務長官が欧州を訪問し収容所の存在を否定する。
- 12月14日
連邦議会が政府に対し、テロ容疑者の輸送に使ったとされる飛行機の運行ルートについての調査を依頼。
- 2006年1月8日
ゾンタークスブリックがスイス情報局が入手したファクスをリーク。CIAが欧州でテロ容疑者に事情聴取していることを裏付ける情報とされる。
スイス情報局
今回のファックスはヴァレー州ロイクにある衛星受信装置Onyxを通して入手。
ロイクには直径8〜30mのパラボラアンテナがありファクスや電話による情報をキャッチする。
国内にはこのほか2カ所のアンテナ設置場所がある。
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