タバコの煙が吹き消される日は近い
連邦内閣を構成する4政党のうち、3政党が公共の場での全面禁煙の導入に賛成しており、「受動喫煙から市民を守る」ための労働法改正案が議会に出される見通しだ。
現在、健康諮問委員会で話し合われているこの改正案は職場からの受動喫煙を無くすことを目指すもので、レストランやバー、オフィスなど公共の場所の全てに当てはまる。
この改正案は年内に全州議会 ( 上院 ) と国民議会 ( 下院 ) で承認され、国民投票に持ち込まれなければ2年後には全面禁煙が実現される見込みだ。しかし、右派国民党 ( UDC/SVP ) とスイスのホテル、レストランの集まる「ガストロ協会 ( Gastro Suisse ) 」は反対している。
欧州では既にイタリアやスウェーデンなど多くの国で公共の場所は全面禁煙だ。しかし、スイスは連邦制のため各州が独自の政策を設けており、現在のところ2州 ( ティチーノ州とソロトゥルン州 ) で実施されているだけで、各州の禁煙状況はまちまちの状態だ。例えば、ジュネーブでは禁煙席を設けているレストランですら珍しく、タバコの自動販売機も店内に設置されている。
スイスの禁煙が送れた理由
欧州では「タバコ後進国」といえるスイス。禁煙対策が出遅れた理由を反タバコNGOの「シプレ( CIPRET )」 の医師であるジャン・シャルル・レアール氏は「第1にスイスでは連邦制のために全国的に法律を導入するのに時間が掛かるといった制度的要因があります。しかし、経済的な利害を重視するという伝統が強いこともまたしかりです」と語る。
レアール氏はスイスには日本たばこ産業 ( JT ) 、フィリップモリス、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ ( BAT ) 」など大タバコ企業の欧州支部が置かれていることが大きいと指摘する。「彼らのロビー活動が強かったのは確かですが、国民のメンタリティーが変わったので全面禁煙はもう時間の問題だ」15年間ぶりで初めて楽観的だという。
レアール氏は「国民の70〜80%が全面禁煙に賛成しています」と断言。「あとは政治がついてくるのみです」
スイスも変わってきた
皮肉なことに世界的な禁煙の動きの大本である「タバコ規制枠組み条約」を成立させた世界保健機構 ( WHO ) はジュネーブにある。そのWHOの「タバコフリーイニシアチブ」の望月友美子所長はこのスイスの動きに「スイスは日本の数年前を見ているようです。変化の兆候は禁煙のワインバーなどができたことで感じられていましたが、そのような方向に進んでいるのは喜ばしく思います」と語った。
望月氏によると「全面禁煙にすればサービス業のビジネスが落ち込む」という固定観念は間違っているという。禁煙対策は不揃いの法律にしないことが肝心で、かえって顧客が増えているという。
本当に全面禁煙か?
同改正案では雇用者のいない家族経営あるいは、隔離された換気装置のある喫煙ゾーンを設けられる施設では、例外的に喫煙が認められる。しかし、実際的には「そのような設備を取り付けるにはお金が掛かりすぎるし、ウエイトレスなど雇用者がその部屋に入ることができないので実現が難しい」と政府関係者は説明する。
swissinfo、 屋山明乃 ( ややま あけの )
スイスでは既にティチーノ州とソロトゥルン州でレストランなど公共の場での喫煙は禁止されている。
2005年12月からスイス連邦鉄道も全線禁煙となった。
2005年の調査によるとスイスの人口の30%が喫煙者だ。
政府の調査報告によると毎年、受動喫煙で400人余りの人が死んでいる。
スイスではタバコ一箱約6.10フラン(約590円)。
– ここ2年間で欧州諸国の公共の場での全面禁煙が広まっている。
– まずはアイルランドが2004年3月から全面禁煙を実施し、続いてノルウェー、イタリア、スウェーデンにスコットランドが踏み切った。
– 受動禁煙から市民を守るために設けられたこの措置だが喫煙者にも受け入れられている様子だ。全面禁煙から1年経過したアイルランドでの世論調査によると、国民の93%がこの法律が良かったと判断、喫煙者でも89%が満足している。
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