国連を打ちのめす調査報告
国連の人道支援事業「石油と食料交換プログラム」をめぐる一連の疑惑を調べてきた独立調査委員会の最終報告が7日、ニューヨークの安全保障理事会(以下、安保理)で報告された。
独立調査委員会のメンバーの一人である、バーゼル大学の法学者、マーク・ピート教授は「石油と食料交換プログラム」事業の運営管理に大きな欠陥があったとインタビューで語る。
およそ1000ページにわたる独立調査委員会の最終報告書は経済制裁下の旧フセイン政権下で行なわれた国連の人道支援プログラム「石油と食料交換プログラム」の運営について。国連のアナン事務総長とその幹部、安保理の管理能力について強く批判した。
同プログラムは1996年からイラク戦争が始まった2003年まで行なわれた。しかし、この期間「石油と食料交換プログラム」を利用して前サダム・フセイン大統領は賄賂などで約18億ドル(約1900億円)を獲得し、プログラム外の石油の密輸によりさらに110億ドル(約1兆2000億円)を不正に得ていたと指摘している。
旧フセイン政権と取引をした不正の温床と見られるこれらの企業の活動については10月に追加報告が出される。
独立調査委員会はアナン事務総長自身が不正に直接関与した証拠はなかったと結論付けたが、来週から始まる国連改革をめぐる国連の特別首脳会合に大きな影響を与えそうだ。
swissinfo: 今回の最終報告の主要な点は何ですか?
ピート教授: 我々は単に国連は「石油と食料交換プログラム」のような事業を運営する能力がないと言っているのです。そして、アナン事務総長も今日、このような事業に取り掛かるべきでなかったと表明しました。
問題は国連が60年来、構造が変わっていないにも関わらず、さらに多くの活動を引き受けていることです。運営に関して大赤字なのです。この報告書では何が上手くいかなかったのかを細かく900ページに渡って指摘しているのです。
swissinfo: 同プログラムをめぐる疑惑に関して、スイスはどのような役割を演じましたか?
ピート教授:スイスは3つの分野で、特に銀行の分野で大きな役割を演じました。
まずは、多くの人がスイスの銀行システムを利用して不正な金を洗浄しようと試みました。他方、石油売買の莫大な額がジュネーブを通過しました。これ自体は問題ではありませんが、危険を伴います。
第二は石油業者や仲介人の多くがツークかジュネーブを本拠地にして会社をおいています。ですから、このプログラムの大部分がスイスと関係していたわけです。
第三に人道支援物資をイラクに売ったスイス企業があって、それらの企業は事業を宛がわれるために(イラク政府に)賄賂を払ったということです。
swissinfo: この報告書を書くに当たっての調査を通して何を成し遂げられましたか?
ピート教授: 我々は如何に国連改革が必要かをはっきりと証明したと思います。安保理でもこのことについて言明しました。そして、安保理のメンバーから反応が返ってきました。
swissinfo: この報告が国連改革を進ませることができると思いますか?
ピート教授:はい、そう望みます。今、この改革に着手する絶好の機会だと思います。しかし、今後、実際にどうなるかは待たなければなりません。
swissinfo: この調査に当たって、国連職員の協力に満足でしたか?
ピート教授:国連は大変協力的でした。スイスも同じく、特に難しい銀行の守秘義務に関する面でも大きく手助けしてくれました。
他の国では、微妙な差がありましたが…米国では例えば、ある政府の部署では大変協力的なのに他の部署では全くだめだったりしました。
swissinfo、 インタビュー クレーア・オーディア 、屋山明乃翻訳
マネーロンダリング、犯罪法専門家のスイスのマーク・ピート教授は国連の「石油と食料交換プログラム」の汚職疑惑を調査している。
ピート教授はポール・ボルカー前米連邦準備制度理事会議長とリチャード・ゴールドストーン元旧ユーゴ・ルワンダ国際刑事裁判所判事とともに独立調査委員会のメンバーとして調査に加わった。
「石油と食糧交換プログラム」は経済制裁下のイラクが原油輸出を許される代わりに、その売却益でイラク国民に食糧や医薬品を購入し供給するプログラム。1996年からイラク戦争の2003年まで続いた。
報告は「石油と食料交換プログラム」事業が旧フセイン政権に巨額の富を与えたとしてアナン事務総長らの運営管理を批判するだけでなく、国連の構造自体に問題があるとして、改革が必要だと結論付けた。
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