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レッチェンタールのチャガタ:生きている仮面

Ernst Rieder, 1999. Keystone

スイスの数あるカーニバルの中でも異彩を放つのは、レッチェンタールのチャガタ。カラフルな衣装や派手なパレードはなく、恐ろしい形相の仮面を付け毛皮を纏ったキャラクター「チャガタ」が暴れ回る。人里離れた村だからこそ、古代からの伝統が残る。

「灰の水曜日」の週、レッチェンタール谷では恐ろしい仮面を付け、羊やヤギの毛皮を纏った「チャガタ」の一団が迷える霊のように走り回る。ベルナー・オーバーラントの山脈とヴァリス州の間に伸びる峡谷レッチェンタールは、1913年にレッチュベルク鉄道トンネルが開通するまで外界からはほとんど孤立していた。チャガタは日没後に現れ、腰の回りにぶら下げたカウベルを鳴らしながら若い女性を見つけると手袋にすすをぬりつけ捕らえる。

チャガタの起源は定かではないが、古代 ーキリスト教よりずっと昔ー 夜になると谷に定住したアラマン族(ゲルマン系)を襲った盗賊団だという説がある。盗賊達は、毛皮を纏い、面を付けていたという。バーゼル大学の考古学研究グループは3000年前のものと推定される野営地を発掘、レッチェンタールを襲った外敵が総ンした事が証明された。

現代のチャガタは、それぞれ荒々しいユニークな表情を持つ仮面と共に蘇った。「仮面はみな垂ォているよ。私は仮面と話をしているんだ。」と、レッチェンタールで最も有名な仮面彫刻家エルンスト・リーダーさんは言う。「私が話しかけると保管室の仮面のいくつかは笑うし、残りは微笑む。」。リーダーさんの工房のあるシャレーは、外に吊るした特大の仮面に守られている。中では妻のアグネスさんが仮面の口を彫っていた。後ろの壁にかけられた恐い顔の仮面が、うさんくさそうにこちらも見ている。「完成したら牛か馬の歯を入れます。想像力が大切な仕事です。私はまず顔を想像して、木でイメージを作っていきます。誰にでもできる仕事ではありません。」と、アクネスさん。

70代のエルンストさんはチャガタと共に成長してきたが、仮面作りを再開したのは中年期に入ってからだった。伝統が失われてしまうことを恐れたからだという。「当時、仮面作りの技術はほとんど絶えてしまっていました。が、今、谷では多くの若者達が素晴らしい仮面を作るようになった。」が、若い世代がホラー映画のキャラクターをコピーした仮面を作るのだけは、気にいらないという。「あんなものはレッチェンタールの伝統ではない。小学垂ノだってできる彫り物だ。チャガタの仮面は、独創的な顔の表情を創造する芸術だ。」とエルンストさん。

チャガタの扮装ができるのは昔は独身の男だけと決まっていたが、現在では祭りの最後の昼間だけは女性も参加できるようになった。ドリス・リトラーさん(22)もボーイフレンドと一緒にチャガタに参加する。「伝統は私達の衰�の一部です。負サ人類学者は伝統は時勢に従うという。男と女が何でも一緒にやる今、チャガタだって一緒にやるべきでしょう。」。リトラーさんは、Uターン組の若者の1人で、観光業界で働いている。レッチェンタールは、通好みの冬はスキー、夏はハイキングの名所だ。

「レッチェンタールの仮面は土産物のためには作られません。大量錘Yもしません。そのかわり、仮面を作りたいから作るという純粋な魂を込めて作られます。だから垂ォているのです。芸術が原点にかえるため、私は戦い続けなければなりません。」と、エルンストさんは語った。

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