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ヴァレー州でアブリコ狩り

ボヴィシ夫妻のシャレーで収穫したアブリコ(あんず)の果実

ボヴィシ夫妻のシャレーで収穫したアブリコ(あんず)の果実

(swissinfo.ch)

アブリコ(abricot)とはフランス語で「あんず」のこと。スイス南部のヴァレー州(Valais/Wallis)はワイン用の葡萄の産地として知られていますが、実はアブリコの産地でもあります。レマン湖沿いをブリーク(Brig)方面に走るスイス国鉄列車に乗車すると、湖が終わってサン・モーリス(St. Maurice)を過ぎたあたりから、広いローヌ谷の北斜面に葡萄畑、谷の平野にはリンゴ畑やなし畑、そして南斜面にはアブリコ畑が見えてきます。今日はヴァレー州の特産品で「果樹園の王子」と呼ばれるアブリコを紹介します。

ヴォー州(Vaud)ローザンヌ(Lausanne)に住むボヴィシ・アンボワーズ、智子夫妻(Ambroise & Tomoko Bovisi)が、ヴァレー州イートラヴェル(Itravers、標高1097m)に、アブリコ畑に囲まれたシャレー(スイスアルプス地方に見られる大きな屋根の建物)を別荘として購入したのは28年前のこと。この地を初めて訪れた日、お二人は敷地内に咲いたアブリコの可憐な花と、その周辺に漂う蜂蜜のような甘い花の香りに深く感動しました。当時を振り返り智子夫人は、その頃はアブリコの果実が困るほど実るとは夢にも思わなかったと言います。

(swissinfo.ch)

アブリコに関して豊富な知識を持つ智子さんにいろいろと話を聞きました。この夫妻の庭にあるアブリコのほとんどは「ルイゼ」と呼ばれる品種です。「ルイゼ」はフランス、リヨン(Lyon)出身の宗教家であり園芸家だったガブリエル・ルイゼ(Gabriel Luizet、1794-1872)が1838年に開発した185年の歴史を持つ品種です。ヴァレー州では20年前まで、果樹園の全てが「ルイゼ」を栽培していましたが、今では「ルイゼ」を栽培している果樹園は2割ほどだそうです。

ヴァレー州が生産するアブリコは10品種ほどで、果樹園の多くは収穫後日持ちのする品種を栽培しています。「収穫後の傷みが早い」という果物として不利な面がある「ルイゼ」は、スーパーではめったに見かけません。アブリコのシーズンは6月下旬から8月下旬にかけて。スイスのスーパーが販売するアブリコは、香りが薄く果肉がねっとりしたものが多いのですが、「ルイゼ」は、香りも濃く汁気も多いので、ジャムやパイ、あるいはそのまま果物として甘酸っぱい味覚を楽しむことができます。

(swissinfo.ch)

アブリコの果実が鈴なりになっていた2012年と比べて2013年は様子が違います。今年は10年ぶりの不作だそうで、そのためかアブリコの店頭価格も1kg当り6~8スイスフラン(約600~800円)と少々高めです。今年もアブリコ狩りに挑戦です。まずは地面に落ちたアブリコで傷みがないものを拾い、次に低い位置に実っている果実を手でもぎ取っていきます。完熟したアブリコは軽く引くと簡単に果実が離れ収穫できます。高い位置にあるアブリコを収穫する際には、梯子を上り軽く木を揺すって落ちてきた果実を素早く拾います。約40分の作業で15kgのアブリコを収穫しました。

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収穫後は陶芸が趣味の智子さんが作った和皿に、アンボワーズさんが焼いたアブリコパイをのせてお茶です。鮮やかなオレンジ色ときちんと並んだ果実が美しいアブリコパイは、仕上げにクリームをかけることでアブリコの酸味がやわらぐのだそうです。アブリコ独特の甘酸っぱい味覚が口の中に広がります。豊作の年はアブリコを消化するのがかなり大変だと智子さんは言います。友人、知人をアブリコ狩りに招待し、ジャムや焼き菓子を作り、パイ用に果実を冷凍します。さらに、お二人はこの地方の名物「アブリコティン」と呼ばれる蒸留酒を造って、果実を無駄にしないよう心がけています。

(swissinfo.ch)

ボヴィシ夫妻の庭のテラスからは、ローヌ谷を流れるローヌ川、谷を挟んで向かい側にランスの町(Lens、標高1128m)、シャテラール山頂(標高1230m)に立つ全高30mのキリスト像が見えます。ローヌ谷の平野にはお椀を伏せたような形をした山がいくつか見えます。この奇妙な形の山について智子さんが説明してくれました。「あれはローヌ谷の堆積物です。麓の町グロン(Grône、標高832m)付近で、15000年ほど前に起きた大規模な山崩れによってできた小山です。中世の頃には山の頂上に見張り塔やお城、教会を建設していて、現在もその廃墟が残っている場所がありますよ」との説明を受けて、帰途グロンに立ち寄りました。地質や生息している植物がローヌ谷の平野とは異なります。この堆積については、また別の機会に紹介したいと思います。

さて、いただいた6kgのアブリコ。日持ちしない「ルイゼ」は急いで調理しなければなりません。2012年9月6日付のブログ「ヴォー州の郷土菓子、ガトー・ヴァン・キュイ」で紹介した、今年11月に94歳になるブラター氏(Ernest Blatter)と一緒にジャムとアブリコパイを作りました。若い頃はパティシエ(菓子職人)だったブラターさん、アブリコについて「ジャムにしてもよし、パイにしてもよし、そのまま食べてもよし、アブリコは本当に良い果物だよ」と言います。

アブリコの果実は、身体を温め、腸の働きを整え、疲れを取る効用があり、種の核は「杏仁」と呼ばれ、咳止め、喉の痛みや便秘に効能があります。ブラターさんのアブリコジャムの隠し味はこの杏仁です。アブリコの種を割り、中の核を取り出しアブリコと煮込むと、アーモンドの香りが微かに漂うアブリコジャムとなります。スイスやフランスで昔から伝わるレシピですが、中国でもこの杏仁を使うデザート「杏仁豆腐」が古くから存在することを思い出しました。

ボヴィシ夫妻のシャレーではアブリコのシーズンも終わり一段落です。日増しに秋が深まるイートラヴェル。雪の季節の前にアブリコの剪定をする日も間近です。

この記事を書くにあたり、ボヴィシ夫妻にご協力いただきました。

プロフィール:小西なづな

1996年よりイギリス人、アイリス・ブレザー(Iris Blaser)師のもとで絵付けを学ぶ。個展を目標に作品創りに励んでいる。レザンで偶然販売した肉まん・野菜まんが好評で、機会ある毎にマルシェに出店。収益の多くはネパールやインド、カシミア地方の恵まれない環境にある子供たちのために寄付している。家族は夫、1女1男。スイス滞在16年。

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