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自殺者の7割超は男性、未遂は大半が女性 専門家が分析

らせん階段を降りる女性
毎年スイスでは1万から1万5千件の自殺未遂が発生している Keystone

スイスでは自殺による犠牲者の数が、交通事故、エイズ、麻薬で亡くなる人の合計を上回っている。自ら人生に終止符を打とうとするのはどういう人たちなのか。そしてどうすれば彼らを救うことができるのか。西スイス自殺未遂観察センターの専門家2人に話を聞いた。

 「Take a minute, change a life(わずかな時間で、助かるいのち)」。去る9月10日に行われた今年の世界自殺予防デー外部リンクの標語だ。ちょっとした周囲の働きかけが最悪のケースを防げるかもしれない、そのことを思い出してもらおうというのが狙いだ。自殺というテーマは複雑で抵抗感も強く、タブー視されることも多い。だが、「自殺について話すことは重要」と、ステファン・サイヨンさん、イブ・ドロジさんら専門家は強調する。

ステファン・サイヨン外部リンク ヌーシャテル精神医療センター成人病棟臨時主任医師、西スイス自殺予防会外部リンク会員

イブ・ドロジ ローザンヌ大学病院外部リンク看護部長、西スイス自殺予防会会員

スイスインフォ: スイスでは自殺に関するデータは比較的豊富で、それによると年間平均の自殺件数は約千件です。自殺未遂についてはどうでしょう?

イブ・ドロジ: 自殺未遂の情報量はかなり少ない。だが、医療機関が年間1万から1万5千件に対応していることは把握している。実際の数字はもっと多いだろう。自殺未遂経験がある若者の数は一般に考えられているより多い(15歳の少女で5人に1人、同年の少年で10人に1人)。

スイスインフォ: 自殺を図る人の特徴は?

ステファン・サイヨン: 自殺者と自殺未遂者のプロフィールは全く同じではない。前者には男性が多く、後者には女性が多い。これは単純な調査結果であり、その理由についてはさまざまな解釈が可能だ。男性は、例えば銃や首吊りなど暴力的な方法を選択する傾向があり、女性は精神科救急に連絡してくることが多い。こういったことが統計を歪めている可能性もある。結局は仮説でしかない。しかし逆に確かなのは、自殺未遂歴が自殺の最大のリスクであるということだ。

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スイスインフォ: 特に危険な年齢層はありますか?

サイヨン: いいえ。青年層や高齢者など自殺や自殺未遂の頻度が増える年代はあるが、自殺はどの年齢層でも起こりうる。若者は自殺の考えを抱くことが多いものの、必ず実行に移すわけではない。

スイスインフォ: 自殺には常に精神疾患が関わっていますか?

ドロジ: 自殺者の圧倒的多数が精神疾患を抱えていたという調査結果が出ている。だが、それだけが理由とはならない。自殺とは複雑で、複層的な原因が絡むものだ。

サイヨン: 自殺の原因はひとつではない。がんなどの病気や失業、パートナーとの別れなど、どれもそれのみでは自殺にまで至らない。さまざまな要素が絡み合った末、自殺にしか解決法が見出せなくなるというケースがほとんどだ。

スイスインフォ: 自殺が考えから実行に変わるプロセスはどのようなものですか?

ドロジ: 多くの場合、そのプロセスはゆっくりしたものだ。その人の人生におけるなんらかの出来事がきっかけで自殺の考えが浮かび、逆境が長引くにつれその考えが次第にエスカレートし、具体的なシナリオ作りが始まる。徐々に実行に近づいていくのだ。

スイスインフォ: 最も効果的な予防策とは?

ドロジ: 銃などの死亡する確率の高い手段や、橋や崖など自殺しやすい場所へのアクセスを制限すること。自殺のサインを察知し適切に救いの手を差し伸べることができるよう、ソーシャルワーカー、医師、看護師、教師、警察官、消防士など最前線で関わる人々を教育したり、相談窓口を整備したりすることも重要だ。

スイスインフォ: 逆に、避けるべきことは?

サイヨン: メディアには、自殺を軽視したりセンセーショナルに書き立てたりする報道の自粛が求められる。世界保健機関(WHO)も言及しているが、この点メディアの果たす役割は大きい。自殺のニュースが後追い自殺を呼ぶ、いわゆるウェルテル効果(ゲーテの小説『若きウェルテルの悩み』にちなむ)は避けなければならない。だが、その逆も然りだ。自殺の予防について話したり経験談をシェアしたりすることは、自殺を考えている人に影響を与えるかもしれない。希望を持たせることが助けになる。

ただ、残念なことに予算が十分ではない。交通事故死の件数は自殺者数の4分の1ほどなのに、交通事故防止キャンペーンへの投資の方がはるかに大きい。

スイスインフォ: 自殺未遂というテーマは放置され気味だったということですか?

サイヨン: このテーマに関しては、これまであまり研究者の関心を引いて来なかった。自殺未遂者を見つけるのが難しいせいでもある。だが、自殺は我々すべてに関わりのある問題であり、学際的研究の重要度は高い。

ドロジ: 自殺は一般に難しいテーマだ。多くの偏見にまみれたタブーだからだ。例えば、子どもや青年も自殺をするという考えはなかなか受け入れがたい。10歳以下の子供の「事故死」に自殺が含まれていることを知ってはいても。

助けが必要な場合

「イプシロン」のホームページ外部リンク、あるいは143外部リンク(大人)と147外部リンク(青少年)の無料電話番号で相談を受け付けている。

スイスインフォ: 2016年12月、スイスで初の試みとして、西スイス自殺未遂監視センターが設立されました。スタート以来の感触は?

サイヨン: 自殺を図った人が運ばれてくる場所、つまり救急病棟にスタッフがいることが利点だ。人と行動を一つの次元で把握するため、年齢、性別、国籍、自殺未遂の時刻、自殺未遂歴などのデータを所定の用紙で集める。自殺のプロセスをよりよく理解するのが目的だ。

最初の半年間で3つの拠点(ローザンヌ、ヌーシャテル、ラ・ショー・ド・フォン)で記録した事例は400件ほど。なんらかの結論を出すのにはまだ早い。

2030年までに自殺数25%減を目指す

西スイス自殺未遂監視センターは2016年12月に設立され、フランス語圏スイスの病院の救急受付でデータ収集を行っている。目的は、予防と援助を向上させるために、自殺未遂という現象を数値化、調査すること。国の自殺予防行動計画外部リンクの一環として生まれたプロジェクトだ。同行動計画の目標は、30年までに非ほう助自殺を25%削減すること(14年の件数:1028件)。具体的方策としては、「自殺の兆候について情報発信し、社会の意識を高める」「気軽に利用できる相談窓口を整備する」「自殺の兆候を早期に察知し介入する」「死亡する確率の高い方法を制限し自殺行為を予防する」「残された家族を支援する」「研究を促進する」などが挙げられる。

(独語からの翻訳・フュレマン直美)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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