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原発政策で分裂するヨーロッパ

フェッセンハイム原子力発電所。フランスで一番古いこの原発の稼動停止をバーゼルが要求している AFP

福島第一原発の事故を受け、ヨーロッパでは原発の安全基準を見直す動きが始まった。スイスの近隣諸国を見回しただけでも、原発政策は多様だ。

スイスに隣接する欧州連合 ( EU ) 4カ国の中には、電力の5分の4近くを核エネルギーに頼っている国もあれば、憲法に非核条項を追加した国もある。

EU圏内で統一安全基準を

 3月15日に開かれたEUエネルギー相臨時会議の後、エネルギー担当委員ギュンター・エッティンガー氏は、全EU加盟国は共通の安全基準に従って原発の厳格な耐久検査を行う用意があると述べた。 

 「一定の時間内に、ヨーロッパは原発無しでエネルギー需要を確実にまかなうことができるか。まずこのことを考えなければならない」

 と、エッティンガー氏はドイツのテレビで語った。しかし、各国の原発政策は実にさまざまだ。

イタリア、新たに凍結

 3月23日、イタリア政府は現在休止中の原発の再稼働計画を1年間停止すると決定した。さらに、2年間かけてより明確な原発政策を検討する構えだ。

 1986年のチェルノブイリ原発事故の後、イタリアの原発政策は急転換を見せた。1987年の国民投票では原発の廃止が求められ、全4基が稼動停止となった。

 しかし、他国の電力に依存している現状を踏まえ、2009年には原発再開に関する新法が成立し、2013年までに新しい原発13基の建設に着手する計画だった。ところが野党などが原発再開反対の署名を集め、法律の存廃を問う国民投票の実施を求めて提訴。その結果6月に国民投票を実施するよう判決が出ていた。

 当初、イタリア政府は福島第一原発の事故があっても政府の方針に変わりはないとの意思表示を行っていた。しかし、多くの地方政府が原発に反対しており、最新の世論調査でも国民の53%が「反対」と回答していることから、風潮は変わりつつある。

「イタリア政府は日本のニュースに無関心ではない」

 と、環境大臣のステファニア・プレスティジャコモ氏は述べている。

ドイツ、代替案を模索

 ドイツでは2000年に原発の段階的廃止を求めた法律が成立し、原発の耐久年数に制限が設定されている。しかし2010年、アンゲラ・メルケル首相率いる現政権は既存の原発 17基の稼動を延長した。

 ところが、日本の原発事故が発生した直後、政府は古い原発7基の運転を一時停止するよう指示。6月15日までに全原発17基の厳しい安全点検が行われる。

 3月22日、メルケル首相は原発を抱える州の州首相との会合で原発の今後について話し合った。しかし、代替エネルギー源の開発をどうやって加速させるかについて合意には達しなかった。

 4月15日に開かれる全州首相との会議では推進中の再生可能エネルギーに関する具体的な計画について話し合われる予定だ。

 ただ、この会議では「安全なエネルギー供給のための倫理委員会」が設置され、原発に対する国のアプローチが検討される。既存の「原子炉安全委員会」では、日本の原発事故を踏まえた審査項目が作成され、国内にあるすべての原発に厳しい再調査が行われる。 

 ノベルト・レトゲン環境相によれば、再生可能エネルギーが電力使用量の4割を占めることができれば、原子力エネルギーに頼らなくてもすむようになるだろうという。

 3月26日ベルリンなど4都市で原発の稼動停止を求めるデモに25万人が参加した。翌日の27日にドイツ南西部バーデン・ヴュルテンベルク州 ( Baden-Württemberg ) で州議会選挙が行われた結果、メルケル政権の連立与党が敗北し、緑の党が躍進した。州議選でも原発政策が最大の争点となり、緑の党は原発への不安票を獲得した。同党は社会民主党 ( SPD ) と連立を組む方針で、ドイツで初めて緑の党が州首相の座を得る可能性が高まった。

フランス、原発は国威

 フランスの原発依存度は78%と世界最高で、原子炉の数ではアメリカ ( 104基だが電力の2割 ) に次ぐ58基で世界第2位。

 「原子力の完全な選択」は国家の威信をかけた問題だ。反原発派の緑の党はドイツ政治に強く根付いているが、フランスでは両院合計920議席中9議席を占めるにすぎない。

 福島で原発事故が発生した4日後、フランソワ・フィロン首相は、フランス国内にあるすべての原発の安全審査を実施することを議会に伝えた。しかし同時に原子力を「最も安全かつ透明性の高いエネルギー源」と表現した。

 環境保護活動家は全国的な討論と国民投票を呼び掛けている。しかしウェブサイト上での討論から見られる限りでは、フランス国民の多くが原子力エネルギーを受け入れているようだ。

オーストリア、憲法に非核条項

 オーストリアは、スイス近隣諸国の中で唯一原発を持っていない国だ。1978年の国民投票の結果、原発建設を禁じる原子力禁止法が僅差で可決された。ツベンテンドルフ ( Zwentendorf  ) にある同国初の原発は当時完成したばかりだったが、一度も稼動されることなく閉鎖された。

 また同年、原発建設の前には国民投票を実施することが法制化された。さらに1999年には 非核条項が憲法に組み込まれた。

 現在オーストリア政府は、反原子力エネルギーの方針をEUに進言する意向だ。

 オーストリアには原発はないが、他国の原発で生産された電力を輸入している。ヨーロッパ中の全原発の安全性を審査するために、包括的な共通の安全基準を作成する動きが高まっている。オーストリアはこれに対して意欲的な姿勢を見せている。

欧州連合 ( EU ) 加盟国27カ国中、原発があるのは14カ国。フランスはヨーロッパ最大の原子力エネルギー消費国。

それら14カ国にある原子炉の数:

フランス58基、イギリス19基、ドイツ17基、スウェーデン10基、スペイン8基、ベルギー7基、チェコ6基、フィンランド4基、ハンガリー4基、スロバキア4基、ブルガリア2基、ルーマニア2基、スロベニア1基、オランダ1基。

その他の国の原子炉の数:

アメリカ104基、日本54基、ロシア32基、韓国21基、インド20基、カナダ18基、中国13基。

http://www.asahi.com/politics/update/0331/TKY201103310499.html

スイスには原発が5カ所 ( 原子炉5基 ) あり、総供給電力量の約40%を生産している。それらは1969~1984年の間に運転が開始された。

事故発生を受け、スイス政府は新しい原発の建設に関連する全過程を停止した。

またスイス政府は、以下の三つの状況における政治、経済、エネルギー供給面に対する影響を研究するよう連邦環境・運輸・エネルギー・通信局 ( UVEK/DETEC ) に、要請した。

.現行の方法で、現在の電力生産能力を維持した場合 ( 水力発電を維持し、古い原子炉3基を廃止後、新たに3基を建設  )

.既存の原子炉が寿命を終えた後、新しい原始炉を建設しない場合

.原子炉の寿命が来る前にすべてを廃炉とし、原発を閉鎖した場合

研究結果は今年の6月に仮報告書で出版される予定。

バーゼルからわずか35kmの国境地点のフランス側にフェッセンハイム原子力発電所( Fessenheim plant )  がある。スイス当局は即時閉鎖を求めている。

フランスの原子力安全管理局は「閉鎖しなければならない理由はない」と応答した。

1970年に建設された同原発は、フランス最古。

2001年の国際原子力機関 ( IAEA ) の報告書によると、同原発は耐震構造を備えていないため、安全基準を満たしていない。

( 英語からの翻訳・編集 中村友紀、笠原浩美 )

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