スイスの視点を10言語で

スイス人を豊かにしたパンデミック

テーブルを運ぶ飲食店スタッフ
2020年3月16日、スイス南東部グラウビュンデン州クールのカフェ「Acras」でテーブルを片付ける従業員。州政府は新型コロナウイルス感染症対策として商店や飲食店の閉鎖を決めた  Keystone / Gian Ehrenzeller

新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)期、スイスの世帯は総額300億~400億フラン(現在レートで約5.1兆~6.9兆円)を平時より多く貯蓄に回していた。貯まったお金の多くはコロナ収束後も消費ではなく長期投資に流れていたことが、スイス中央銀行(中央銀行、SNB)の調査で分かった。

人々が貯蓄を増やした理由:コロナによるロックダウン(都市封鎖)中、人々は自宅に留まらざるをえなかった。会社に出勤することも許されなかった。レストラン・バーも休業し、旅行もしにくくなった。観光業や飲食業など、多くの産業が公的支援に頼るはめになった。

おすすめの記事

2020年以降、こうしたニューノーマル(新常態)は人々の生活を形作った。従前のように消費することはほぼ不可能になり、人々は貯蓄を増やした。全てのコロナ関連規制が撤廃された2022年半ばまでにスイス全土で数百億フランという巨額が銀行口座に貯め込まれた。SNBが7日公表した分析外部リンクでは、追加的に貯蓄に回ったのは300億~400億フラン。スイスの国内総生産(GDP)の4~5%に相当する額だ。

☟スイス中銀が算出した一般世帯の貯蓄率の変化(年金を含む可処分所得に対する貯蓄の割合)

外部リンクへ移動

コロナ後、貯蓄はどこへ?:SNBが貯蓄や資産など幅広いデータを分析したところ、スイスの一般家庭はコロナ収束後も消費や旅行などにお金を使わずに貯め込んでいたことが分かった。2020年の第1次ロックダウンが解除された直後こそ反動消費もみられたが、それでも「コロナ貯蓄」の大部分は消費に向かわなかった。SNBによると、株や債券、私的年金など金融資産に流れるお金は、パンミックが無かったと仮定した場合に比べ750億フラン多かった。いつでも消費に使える現金や銀行預金ではなく、長期的な資産形成に回したというわけだ。

米国との違い:SNBの分析は、コロナ期間中の貯蓄行動は他の国でも似たような傾向がみられると指摘した。スイスだけでなく、近隣国や米国も人々は消費を減らし、貯蓄額を増やした。だがロックダウン解除後は様相が異なる。米国では溜まったお金を長期投資に回すのではなく、再び消費した。その結果、米国経済は急回復を遂げた。その点、スイスは長期的な豊かさが増したと言える。

富裕層に偏在:SNBの分析は、所得階級別の資産分布については踏み込まなかった。だが低所得層はコロナ収束後に貯蓄を消費に回さざるを得なかったものと推察される。コロナ中に貯蓄を増やせたかどうかも定かではない。SNBの分析は明言しなかったが、コロナがスイスの富を増やしたとすれば、それはパンデミック前から比較的裕福だった人に偏っている可能性が高い。

独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:大野瑠衣子

最も読まれた記事
在外スイス人

世界の読者と意見交換

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部