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スイスはどこまで麻薬を合法化するのか?

合法大麻がスイスでブーム 1億円ビジネスの裏側は

スイスでは初めてとなる、カンナビスCBDの室内栽培を行うヴェルナー・ブッシュさん Ester Unterfinger/swissinfo.ch


カフェインレスコーヒーやノンアルコールビールがあるように、近年、スイスの店舗やキヨスクでは、精神作用物質を多く含まない大麻「ヘンプライト」や「カンナビスCBD」が合法的に販売されている。生産者の男性が、100万フラン(約1億1千万円)を生むビジネスの裏側をスイスインフォに明かした。

このコンテンツは 2017/06/28 14:30
Luigi Jorio, Zürich

チューリヒ北部の郊外に建つ工業用建築物を訪れた。建物には会社名も番地もない。地下に、大麻製品の製造者ヴェルナー・ブッシュさんがいた。58歳のブッシュさんは、電子タバコをひっきりなしにふかし、「少し緊張している」と話す。

最近、チューリヒ麻薬取締局の私服捜査官6人が立ち入り検査に入ったばかりだ。普段は施錠された白いドアの向こう側には、収穫を間近に控えた大麻草がぎっしりと生えている。

室内栽培では、強力な電気の光によって成長を促進させる Ester Unterfinger/swissinfo.ch


「私はスイスの大麻王」

捜査当局はメディアに対して口が固い。ブッシュさんはその逆で色々話してくれた。前職は電気技術者。数十年前に大麻関連のビジネスを始めた。1983年、チューリヒで初店舗を開き、マッチから水パイプに至る大麻関連商品を販売した。

90年代の終わりには、高いTHC成分を含むマリファナの販売も始めた。THCはテトラヒドロカンナビノールと呼ばれる精神作用物質だ。ブッシュさんは他の同業者と同様、法律のグレーゾーンを突いてこうした大麻を販売していたという。「『芳香剤』として売っていた。消費者が吸引目的で購入することはもちろん分かっていた」と明かす。ブッシュさんは98年の大麻見本市で付いた値段を教えてくれた。当時、自身の大麻は国内で最高だったといい「私はスイスの大麻王だ」と自負する。

そんな時に捜査のメスが入った。ブッシュさんの商売は長く続いていたとはいえ違法だった。警察は店舗を営業停止にし、ブッシュさんも法の裁きを受けた。「でも罰金は全額支払った」という。

チューリヒの中心部、4区のラング通りにあるブッシュさんの店舗 Ester Unterfinger/swissinfo.ch

ライトな成分で復活

スイスでは、THCが1%を超える大麻は規制薬物となり、栽培、販売および使用は法律で禁止されている。10グラム以下の所持は100フランの罰金が科される。一方、医療目的であれば一定の規制管理下での使用が認められている。

最近、流通しているのはヘンプライト、カンナビスCBDと呼ばれる合法の大麻だ。CBD(カンナビジオール)は大麻に含まれる成分カンナビノイドの一つで、THCのような精神作用がない。これらの大麻製品が違法でないのはそのためだ。

ブッシュさんによれば、11年の新麻薬取締法施行によって、THCが1%未満の大麻を実質的に販売できるようになったものの、長い間違法だったビジネスに参入しようとする人はいなかった。「だが、米国でCBDを多く含む医療大麻が様々な治療に使われるようになって状況が変わった」という。

月に20キロ

ブッシュさんは昨夏、合法大麻の製造に乗り出した。合法大麻の紙巻きたばこは既に存在したが、室内の大麻栽培場を作ったのはブッシュさんが国内で初めてだ。「野外より安全で目立たないからだ。収穫量も増える」とブッシュさんは話す。月の収穫量は約20キログラムに上る。

クローン栽培(挿し木)した大麻は親植物の遺伝的特性を受け継ぐ Ester Unterfinger/swissinfo.ch

大麻草の種子は米国から直輸入。交配と収穫を繰り返し、希望通りのCBD成分量に加え、肝心のTHCは1%未満に抑える品質を確保した。数か月前から販売しているブッシュさんの大麻製品「Golden Green(黄金の草)」はTHCが0.6%、CBDは15%だ。

地下の栽培場では、安定した生産量を維持するため、複数の部屋に計2700本の大麻草を育てている。ブッシュさんは8千本まで増やしたいという。

収穫物の一部は自身の店舗で販売。現在4店舗に増えた。残りは他の業者に割安で卸している。「黄金の草」の品質はその名が示す通りだ。店舗では1グラム当たり12フラン。スイスの大麻王は「ヘンプライトCBDだけで月5万フランの収入がある」とあっけらかんと語る。

カンナビスCBDは、種類によって1グラム当たり10~20フランで販売されている Ester Unterfinger/swissinfo.ch


2億フランの市場

カンナビスライトとも呼ばれる合法大麻の販売店は全国で急増。ブッシュさんによれば、チューリヒだけでも少なくとも10カ所あり「キヨスク(売店)を含めればもっと多い」という。

売り上げは好調だ。ブッシュさんによれば国内全体の売上総額は2億フランに上る。だが生産者が増えれば価格は下落する。ブッシュさんは「我々が製造を始めたころは大麻1キロが6千フランだったが、今は4千フランだ」と説明する。

ブッシュさんが価格下落よりも気になっているのは競合相手の大半が税金を支払っていないこと。合法大麻はたばこの代替品とみなされ、たばこ税(25%)の課税対象だ。ブッシュさんは「付加価値税(VAT)込みで33%になるが、そのぶん利幅は削られる」と話す。

消費者には関係のない話だ。消費者が求めるのはハイにならずにCBDのリラクゼーション効果を楽しめるかどうかだ。

臨床研究の裏付けはない

CBDにはどんな効用があるのか。禁止薬物の医療目的使用に関する専門家グループ(AmiS)の代表で、神経科医のクロード・バネ氏によれば、不安やうつ、吐き気、感染症に効果があるほか、てんかんやがん治療にも使うことができる。しかし、CBDの医療効果を証明する学術研究はほぼ皆無で、長期の臨床研究事例もないという。

依存症に関する西スイス研究グループ(GREA)のジャンフェリックス・サバリ事務総長は、CBDは治療において注目に値するが「売店で販売するべきではない」と指摘する。

大麻を合法化?

一方、合法大麻は捜査当局にとって悩みの種だ。法律で禁止されている大麻とにおいも味も同じで見た目もそっくりなため、違法性のチェックが実質不可能だからだ。捜査当局は以前から、時間も費用もかかる旧来のラボ分析の代わりに、手軽で早い検査手法を開発するよう訴えている。

ブッシュさんの栽培場に来た6人の私服捜査官はゴム手袋をはめ、ピペットを使って検査をしていた。捜査官は複数のサンプルを採取して帰って行ったといい、ブッシュさんは「問題がないか確かめたかったので、捜査官にはまた寄ってもらうよう自分からお願いした」と振り返る。

「5月10日水曜日、午前10時」と書かれた張り紙。麻薬取締局の訪問は何も驚くことではない Ester Unterfinger/swissinfo.ch


ブッシュさんの息子ニキさんは「父は心配ばかりしている」と案じる。ニキさんは店舗の一つを任され、時折栽培工場にも顔を出す。大麻の利益団体が最近創設されたことに加え、ニキさんは生産者と販売業者、当局関係者が一堂に集えるプラットフォームを作りたいという。ニキさんは「品質の良い製品と完全な透明性を確保するため。現状はぐちゃぐちゃだ」と説明する。衛生、農政、薬品規制の担当行政庁は多岐にわたり、「結局どこに相談したらいいのか分からない」(ニキさん)ため、情報交換用のプラットフォームを作りたいのだという。

サバリ氏は、CBDの使用に関しては未解明の部分が多いため、規制緩和に批判的であるべきという立場だ。とりわけ「合法大麻」という言葉を用いるのは誤りだという。サバリ氏は「何が認められていて何が禁止されているのかはっきりしない。闇市場と戦い、税収入を生み、健康被害を防ぐため、新しいシステムを構築して役割分担をはっきりさせることが必要」と提言する。

それでも、スイスは大麻市場の規制にどう対処するのかなど、多くの疑問が残る。大麻を完全自由化するべきなのか。はっきりした答えが出るまでは、ブッシュさんの栽培場は稼働し、「黄金の草」も店頭に並び続ける。

家宅捜査の翌日、州警察はブッシュさんにこう告げた。「違法なものは見つからなかった」

大麻を薬局で

スイスでは2008年、大麻使用を罪に問わないイニシアチブ(国民発議)「合理的な大麻政策のために」に対する投票があり、63%の反対で否決された。しかしその後も、新たな規則作りを求める複数のイニシアチブが提起されている。

ジュネーブ、チューリヒ、バーゼルなどの大都市はとりわけ積極的だ。規制大麻を使用した際の効用を調べる実験的プロジェクト(大麻社交クラブと言われるところで使用)のほか、ベルン市は規制大麻を薬局で購入できるシステムを検討すると発表した。

これらの取り組みに共通する目的は、合法化によって闇市場と戦うということ。関係者は、国が製品の品質をコントロールでき、税収が生まれ、乱用防止啓発活動にもつながるとメリットを語る。

大麻合法化を目指す団体「Legalize it !」は、大麻使用を合法化するよう求めるイニシアチブを立ち上げるという。

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