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太陽の脈拍 冒険家ピカールの提案

ベルトラン・ピカール氏が語る次の冒険。「太陽の脈拍」機で世界一周。 Keystone

その名は「太陽の脈拍」。太陽エネルギーで飛行機を飛ばし世界を飛びつづける。スイスの冒険家ベルトラン・ピカール氏の提唱は、連邦工科大学との協力で実用化を目指している。                               

太陽エネルギーによる飛行機はこれまでも開発されてきたが、ピカールは標高1万メートルで24時間飛び続ける飛行機を構想している。飛行船で世界一周を果たした冒険家ピカールのスタミナと工科大学の技術で2006年には処女飛行が予定されている。                                        

1999年3月21日(日)、グリニッチタイムで午前6時、「ブライトリング・オルビター3号」がエジプトに着陸した。世界初めて、飛行船による世界一周を果たしたのはスイスの冒険家、ベルトラン・ピカール氏である。要した時間は19日21時間55分と長い孤独な冒険だった。
快挙を遂げてまもなく、ピカール氏はローザンヌの連邦工科大学に次のプロジェクトを携え訪れた。太陽エネルギーで動く飛行機で地球を周り続けるという案に、専門家の意見を求めたのである。それから4年以上の月日が経ったいま、「太陽の脈拍」と名づけられた計画が公開された。

飛行の持続がポイント

 「太陽の脈拍」は、太陽、風力など再生可能エネルギーの利用開発に刺激を与えるに十分な計画である。 
 「生活レベルを下げることなく、安全で、人間の権利が侵されないようなエネルギーを使う。環境問題の観点から、エネルギー問題を解決する技術を開発することが必要だ」
 とピカール氏は太陽エネルギーの重要性を訴えた。技術面での責任者であるローザンヌ連邦工科大学のシュテファン・カシカス教授は、「太陽の脈拍」はいわば「空飛ぶ研究室」になるであろうと語った。

技術の挑戦

 これまで以上に摩擦の少ない流線型を作り上げ、エアバスA-340機に匹敵する飛行時間を保つ。150�uの表面全体が、太陽電池のパネルで覆われ、標高1万メートルを飛行し続けることを目指すため、高度な技術が必要。トランスや充電の問題のほか、重量が軽く「賢く」多様な役割を果たせる素材の開発が必要となる。しかも、パイロットと飛行機の「コラボレーション」も強いられ、機械と人間がまさに双子のように分かり合えないと操縦は難しいという。

 多種に渡る技術上の問題が解決すれば、他分野での応用も利く。たとえば太陽電池によるペースメーカーや車椅子などにも使える可能性もある。

21世紀最初の冒険

 アメリカズ杯で優勝したヨット船「アリンギ」の技術開発に携わったローザンヌ連邦工科大学からは、30人のエキスパートが計画に参加する。スポーツ競技に参加したアリンギとは異なり、
「今回の計画は公の利益に関わり、大学が研究する意味も大きい」
と前出のカシカス教授は語り、
「経済界の指導者たちが新エネルギーの必要性を認識すれば、われわれの技術に注目するであろう」と、同工科大学のレベルをアピールした。

 飛行機を飛ばすための基本開発は05年までに終わり、06年にはプロトタイプの飛行がフリブールの西にあるバイェルンで試される。夜間飛行は07年に予定されている。ノン・ストップ飛行の計画はまだない。
「飛行船「ブライトリング・オルビター」は20世紀最後の冒険だった。「太陽の脈拍」は21世紀初めての冒険。飛行機の歴史を書き換えたい」
 失敗を重ねた飛行船の世界一周の夢を実現するまで、何度かの失敗を経ている。ピカール氏は優秀な科学者や技術者と共に、「太陽の脈拍」飛行の夢実現のため十分な意志とスタミナを備えている。 

スイス国際放送 ベルナール・レショ (佐藤夕美 (さとうゆうみ)意訳)

1999年、ベルトラン・ピカール、ブライアン・ジョーンズの両氏は、世界初めて飛行船で世界一周を果たす。
飛行船の名前は「ブライトリング・オービター3号」

究極に立たされた人間の心理を観察することが心理学者としてのピカール氏の興味でもあった。

ピカール氏は飛行船のほか、ハンギンググライダーや超軽量飛行機のパイロットでもある。

ピカール家は多くの科学者を輩出した家族。

ベルトランの祖父、アウグスト・ピカール氏は、水圧に耐える耐圧キャビンを開発、世界記録を更新した。

ベルトランの父、ジャック・ピカール氏は、1万916メートルの深海まで潜る記録を更新した。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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