次期国連大学学長に聞く
チューリヒ連邦工科大学 ( ETHZ ) のコンラート・オスターヴァルダー学長は、今年9月から東京にある国連大学の学長に就任する。
スイス、トゥールガウ州出身。物理学をETHZで学び、ニューヨーク大、ケンブリッジ大での研究と学生の教育に務めた後、再び母校へ戻り、1995年からは学長に就任している。
ETHZでの65歳の引退を機に、国連大学の学長として新しい人生を東京で送ることになるオスターヴァルダー学長に、これまで歩んだ人生と、今後の使命などを尋ねた。
swissinfo : このほどは、国連大学学長へのご就任、大変おめでとうございます。国連大学学長としての使命をまずお聞かせ下さい。
オスターヴァルダー : わたしに課せられた使命は2つあります。1つはスイスからの使命です。スイスのチーズやチョコレートの国といったイメージを破り、教育、研究、連帯の国であることを世界に知ってもらうことがあります。もう1つは学長として、国連大学の知名度を高めることです。国連大学は、継続的な科学の研究、平和、環境、エネルギー研究などに携わる人々の間では有名ですが、一般にはさほど知られていません。
国連大学がある日本でさえ、国連大学の知名度は低く、根付いていないようです。学長就任最初の2、3カ月間は、国連大学を日本で知らしめるために活動します。その次に、国連内や学術界での知名度を高める努力をするつもりです。
swissinfo : 今後、国連大学という大学の中の大学のトップに立たれるわけですが、ご自身の性格のどういった部分が、このようなキャリアに就くために役立ったのでしょう。
オスターヴァルダー : 一言でいうとわたしの持つ好奇心です。新しいことを見たいという欲求です。
swissinfo : 好奇心は学者として、また学長として必要不可欠なことですか?
オスターヴァルダー : ( うなずく ) わたしは長年学者でしたし、今でも学者だと思っています。学者であることが、国連大学の学長であるためには重要なことだと思います。国連大学は大学であり、国連とその加盟国のための自然科学分野におけるシンクタンクです。
わたしは科学者として赴任するわけではありませんが、学長が科学のなんたるか知っていることは大事です。科学者としての経験があり、科学者がどう考え、何を必要としているのかが分かる人が学長としての条件です。
swissinfo : あなたの小さい頃の夢は何でしたか。
オスターヴァルダー : 研究者になることでした。もしかして、教育に携わりたいとも少しは思っていたかもしれません。
というのも、わたしの家族は代々教育者でした。祖父も、曽祖父も教育者で、わたしで5代目です。父は高校の先生で、イタリア語とフランス語を教えていました。母は小学校の先生でした。兄弟の中にもベルン大学の教育学科の教授がいますし、小学校の先生をしているのもいます。離婚した元の妻も先生でした。また、息子の1人は研究者ですが、将来は教授になることでしょう。
教育は父親の天職でした。父が教鞭をとることが好きだったことを、わたしは子どもの頃から感じていました。それが、わたしにもちろん影響していると思います。
swissinfo : 生まれたときから、教育界で過ごされてきたわけですね。
オスターヴァルダー : そうですね。もっとも、教授から学長になった時、研究を辞め、講義も辞め ( 教育界を代弁する ) 「教育の政治家」として、新しい世界に入り込みました。
また、今回は、国連事務総長の直下に置かれた国連大学の学長として、つまり、非常にグローバル化した社会に自分を置くことになります。日本人だけではなく、世界中の人々と仕事をすることを、大変楽しみにしています。
swissinfo : さて、あなたの母校でもあるETHZですが、ここを卒業した学生は「エリート」というイメージがありますね。ETHZが世界からも高く評価されている理由は何でしょうか。
オスターヴァルダー : 常に豊かな資金に恵まれていました。また、ETHZは創立以来約150年間、政治的な介入が一切なく、独立していました。たとえばドイツなどは、第2次世界大戦中に優秀な人材が流出してしまったわけですが、スイスは中立国でしたので、そういった損失もなかったわけです。
大学は一度有名になると、レベルの高い学生が入学してきます。質の高い卒業生を輩出し、ますます有名になる、上昇する螺旋階段のような現象がETHZにはあるのです。
swissinfo : 今回の国連大学学長ご就任により、ETHZの研究活動に変化が生まれるでしょうか。
オスターヴァルダー : 国連の役目は、途上国の研究所の強化と途上国と工業国との協力を促進することにあります。ETHZが、途上国の大学と直接的に共同研究をすることも考えられます。スイスでは現在、「机上の研究」が多いので、現地で活発に研究できれば有益でしょう。
swissinfo : 今年9月にご就任とのことですが、その準備は進んでいますか。
オスターヴァルダー : すでに、日本語のレッスンを始めました。日本語を学ぶのは、日本の文化と社会を学びたいからです。
日本では、同僚との関わり方が大きくスイスとは違うとアドバイスを受けました。
仕事が終わってから、同僚たちと酒を飲みに行き、十分酒を飲んだら、すべてを話すことができるということも教えられました。
わたしの周りの多くの人たちが、日本に住むことはすばらしいことで、日本に住めるわたしたちをうらやましいと思っています。わたしたち夫婦も、日本での生活をとても楽しみにしています。
聞き手 swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )
コンラート・オスターヴァルダー氏略暦
1942年 スイスドイツ語圏トゥールガウ州に生まれる
1970年 チューリヒ工科大学 ( ETHZ ) 卒業 物理学専攻
その後、ニューヨーク大学留学。その後、ハーバード大学助教授として研究し教鞭を取る
1977年 チューリヒ工科大学教授就任
1995年 同大学学長に就任
2007年9月 国連大学学長就任の予定
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。