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流行したスイスの牛、モ〜ッと先へ

オリジナルバージョン「Muh! ( モ〜! ) 」のCDジャケット Matterhorn Project

1985年にスイスで大ヒットした愉快な曲「Muh! ( モ〜!)」は、今でも聞く人を笑わせてくれる。今回リリースされたリミックスバージョンは、この曲の持つ可能性をもっと引き出しそうだ。

今回の新バージョンは、あるテレビ番組でスイスの大ヒット曲の1つにノミネートされたことがきっかけになった。ともかく2つのバージョンをこのサイト上で聴いていただきたい。

 体を伝うディスコのビートに、歌う牛、カウベルの音、ヨーデル、アルプホルンをミックスしたオリジナル・バージョンは、PJ、ステラ・ヴァッサーマン夫妻による「マッターホルン・プロジェクト」の作品だ。

ヒットの秘密

 スイス国外では「モーの歌」として知られるオリジナルバージョンのヒットには、当時の新技術も多少は関わっていたと言うPJさん。

 「あの頃はサンプリングがまったく新しいことだったのです。曲作りはフェアライト社のコンピューターを使ったのですが、すごく高かったので、もう少しで破産するところでした・・・・忘れもしません」
 と、PJさんは語り、
「結局、8万フラン ( 約780万円 ) もして、それから5年かかって月々返済しました。支払いが終わった頃には、この機械はまったく価値がなくなっていました。技術がどんどん進んでしまったのです」
 と、当時を振り返る。

 「Muh!」の成功はヴァッサーマン夫妻にとって思いもよらぬことだったが、ちょうどスイスに民放ラジオ局ができ始めた頃だったことも幸いした。

「型破り」

 「公共ラジオではこの曲を流したくなかったのです。ひとつのチャンネルにはあまりにも型破りで、ポピュラー音楽のチャンネルは伝統的なスイスらしい要素を好まなかったのです」
 と、当時を語るPJさん。

 それにもかかわらず、「Muh!」はスイスのヒットチャートで第2位まで浮上し、彼らのアルバム「マッターホルン・プロジェクト」は南アフリカで第5位に入り、日本やヨーロッパでも発売された。しかし、ヴァッサーマン夫妻は富をなすことはなかった。

 「お金持ちになっていたはずなんです。音楽業界のだれもが、何百億円も稼げたはずだと後になって言っていました。世界中にこの曲が広まったというのに、わたしたちにはマーケティングをする手段がなかったのです。腕のいいマネージャーがいなかったのです」
 と、PJさん。

 「手にできたはずの何百億円というお金で、機器を購入したり、もっと音楽を作れたはずなのです。お金を稼ぐために、いつもほかの仕事やプロジェクトをしなければいけませんでした」
 生計をたてるため、当初PJさんはCMソング作りのほか、ビデオや映画のための音楽作りをした。しかし、自らの創造性が奪われていくと感じる時がきた。そこで、ウェブサイト、CD-Rom、データーベースのプログラミングをするソフトウェア方面へと移った。

クリエイティブな休息

 ソロアルバムを2枚出しているステラさんは、「Muh!」の後に音楽から離れて育児に専念できて幸せだったと語る。
「本当に音楽で息がつまりそうだったので、それから離れてクリエイティブな休息を持てて嬉しかったです。それからベリーダンスに夢中になりました。研修を受けて、今ではダンスのクラスをいくつか教えています」

 オリジナルの「Muh!」やクラブバージョンと区別するため、新たに「Moo! ( モウ!) 」となって出されたリミックスバージョンは21世紀のスタイルで復活した。
「今はアップル社のロジックプロを使っています。非常に質の良いシンセサイザーや効果音のソフトウェアがすべて揃っています。素晴らしい上に、とても安いのです。ただ同然で本物のレコーディングスタジオを持てるのです」
 と、PJさん。

 現在、ヴァッサーマン夫妻は少なくとも4種類の音楽プロジェクトを手掛けている。愉快な側面を持つマッターホルン・プロジェクトが順調に進んでいる一方、ステラさんは自らのヒーリング音楽に、PJさんもギターなどのほかの要素を取り入れたヒーリング音楽に取り組んでいる。そして、以前からふたりの頭にあったサイケデリック音楽も始めた。また、ふたりは同じくサイケデリック音楽のジャンルで活動する息子のショーンさんも応援している。

ステージに復帰

 「本当はもうこれ以上やりたくないんです。もうすでにやり過ぎだと感じることもあります。でも、私たちはすべて好きで、ステージに復帰したいのです。おそらく、映像を使ったヒーリング音楽のステージのようなものになると思います」
 と、PJさんは言う。

 20年前にスイス北西部のヘルスベルク ( Hersberg ) の小さな村にヴァッサーマン夫妻が引っ越してきた時、地元の人びとはふたりに対して少し警戒していた。しかし、月日がたつにつれ、村人のよそよそしい態度も変わってきた。
「時々テレビで私たちの姿を目にすると、みなさんちょっとした敬意を払ってくれます。でも、私たちのことを少し変わり者だと思っているとは思いますけど」

swissinfo、ロバート・ブルックス、ヘルンベルクにて 中村友紀 ( なかむらゆき ) 訳

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