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未来のロボット開発、スイスはアイデアの宝庫

時計、チョコレート、医薬品、宇宙技術などで知られるスイス。だが得意分野は他にもある。その1つがロボット工学だ。研究がメインだが、開発された機械の中には既に実用化されたものも多い。

精密機械やエレクトロニクスがお家芸のスイスにおいて、ロボット工学はごく自然な進化の結果と言える。スイス国立科学財団(SNF/FNS)外部リンクは2010年、スイス国立コンピテンスセンター・ロボティクス研究所(NCCR)外部リンクを設立。工学系では初の試みだった。

以来、12年間で合計8500万フラン(127億円)が投じられた。今年11月に資金提供は終了するが、どんな成果を結んだのか?残念ながら、現在最も普及しているロボットは日本、韓国、中国、ドイツ、米国製で、スイス製ではない。とはいえ、スイスは今も研究面で世界をリードし、スタートアップ企業の新製品も市場で展開されている。

2022年11月初旬、ローザンヌで開催された恒例の「スイス・ロボティクス・デー」では、普段は専門家でなければお目にかかれないロボットが初めて一般公開され、特に子供たちの注目を引きつけた。

業界トップに名を連ねる製品もある。特に業務用ドローンでは、スイスは世界の主要メーカーに数えられる。そのスイスの快進撃ぶりを取材した記事がこちらだ(2018年配信)。

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ドローンはへリコプターの形をしたものが多いが、その従来モデルへのこだわりを捨てたところもある。例えば連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のインテリジェント・システム研究所(LIS)外部リンクは、鳥の形をしたドローンを新たに開発した。

翼の浮力により消費電力が大幅に削減されるため、従来のドローンと比べて1回の充電で飛行できる時間がはるかに長い。物をつかむ爪を持ち、将来的には電線などの電源に止まって自ら充電することが考えられる。

LIS研究室長のダリオ・フロレアーノ教授は、12年間NCCR研究所を率いてきた人物でもある。私たちに研究室の内側を見せてくれた。

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これらのドローンは業務用に開発されたが、まだ実際に物品配送や人命救助に利用するだけの能力はない。現段階では、主に人間の目では把握しきれない物体を検知する目的で使われる。例えば農業のような分野では非常に役に立つ。

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映画「スター・ウォーズ」のC-3POやターミネーターのような人型ロボットは、現時点ではまだ遠い先の話だ。とはいえ、動物に近いロボットなら既に存在する。

米ボストンダイナミクス外部リンク開発の4本足のロボットは、どんな場所でも移動が可能だ。抜群の機動力で素晴らしいパフォーマンスを発揮する。

まだそこまでは進んでいないスイスでも、ある種のロボット犬を提供しているスタートアップ企業がチューリヒにある。起伏のある地面でも移動できるこのロボットは、災害や爆弾テロなどの救助活動で使うことを想定している。しかし実用化への道のりは長い。

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がれきの中から人を救出するのはまだ難しいが、医療分野でロボットは既に様々な任務をこなしている。医療用ロボットの分野は多岐にわたり、NCCRが資金提供したプロジェクトも、この分野が最も多かった。ロボット義肢に始まり、障がい者の運動能力をサポートするために設計された外骨格からロボット外科医に至るまで、幅広く応用されている。

また、既に「ロボットの先生」も登場している。新型コロナウイルスのパンデミックや遠隔教育が更なる追い風となった。だが、たとえいつの日かロボットが授業をサポートすることはあっても、単独で授業を受け持つことはない――。これは共通の認識だ。

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確かに、ロボットは機敏で恐れを知らず、迅速で、人間より優れた視力を持ち、計算も速い。だが人間のような成熟した知能は持たない。ロボットの知能はあくまで人工的なものであり、それがこの違いを生む所以だ。

コンピューターが知能を持つかどうかを判定するテストに、「チューリングテスト」がある。コンピューターが人間になりすまして簡単な会話に答え、その際、自分が人工知能であることを見破られてはいけないというものだ。開発されたのは今から70年も前だが、テストに合格した人工知能はまだない。

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これが、スイスのロボット工学の現状だ。有望なのか、それとも期待外れなのか。それは、あなたの見方次第だ。ただ、この分野における開発が目覚ましいスピードで進んでいることだけは確かだ。

ドイツ語からの翻訳:シュミット一恵

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ロボットのイラスト

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(Übertragung aus dem Französischen: Christian Raaflaub)

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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