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コラム「2019年スイス総選挙」 「欧州こそが重要なのだ、愚か者!」

クロード・ロンシャンと連邦議事堂

今回のコラムのテーマは「欧州こそが重要なのだ、愚か者!」。今年のスイス総選挙を左右するのは経済ではないと、クロード・ロンシャン氏は記す

(swissinfo.ch)

世界のほとんどの選挙戦に当てはまることがある。それは「It's the economy, stupid!(経済こそが重要なのだ、愚か者!)」だ。経済が良ければ与党は安定し、不況であれば野党が勢いづく。だがスイスにこの説は当てはまらない。経済が好調すぎるからだ。ただ、欧州との関係を巡る問題が政局を左右するという説は、スイスにも当てはまる。

経済が好調であれば、与党の基盤は強化される。だが不景気では野党が勢いを増す。景気後退は、政党勢力図に変化が起きたときの説明に用いられる。

しかし、金融危機は別物だ。勝者と敗者を変えるだけでなく、国の統治機構に対する市民の信頼を著しく低下させるからだ。金融危機は市民の反対運動を引き起こす要因になる。

説が当てはまる欧州

欧州における近年の政党勢力図の変化は、2008年以降の世界金融危機に原因がある。なぜならそれ以降、右派、左派の両派でポピュリズム運動が増加したからだ。難民政策や財政緊縮策はポピュリストたちにとって格好の批判対象になっている。

作者

クロード・ロンシャン氏は、スイスで最も経験豊富で声望の高い政治学者およびアナリストの一人。

調査機関「gfs.bern」を設立後、定年まで所長を務める。現在も同機関の取締役会長。スイス・ドイツ語圏向けスイス公共放送(SRF)で30年間、国民投票と選挙のアナリストおよびコメンテーターとして活躍。

スイスインフォの直接民主制に関する特設ページ#DearDemocracyで毎月、2019年のスイス総選挙についてコラムを執筆。

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既存政党が支持率の低迷から脱却したかどうかはまだ分からない。ただ、失業者数は減少しており、欧州連合(EU)への支持率もアンケート調査で最高を記録している。

試金石は欧州議会選挙が行われる今年5月だ。欧州議会選挙では社会主義系およびキリスト教系の民主党が敗者になり、リベラル系民主党と右派のポピュリストが勝者になる見込みだ。

スイスには当てはまらない

だがこのような欧州議会の選挙予想を見ても、過去30年間でスイスの政党勢力図が劇的に変わった理由はあまり理解できない。

変化の契機になったのは2007年に勃発した金融危機というよりも、スイスが欧州経済領域(EEA)に加盟することの是非が問われた1992年の国民投票だったのだ。

有権者にEEA加盟を否決するよう促した国民党(SVP/ 下記の政党リスト参照)は、後に全国レベルの主要政党にのし上がった。

そしてスイスのドイツ語圏にある大・中都市では、その反動として社会民主党と緑の党が多数派を占めるようになった。また中道派も多数派に加わることも度々あった。

こうして政党間対立は二極化が進んだ。左派と右派の党綱領に共通点はほぼ消え、代わりにイデオロギー対立が激しくなった。

「文化的反対運動」という新説

今年2月、画期的な本が出版された。米国の研究者ピッパ・ノリスとロナルド・イングレハート著の「Cultural Backlash(仮訳:文化的反対運動)」だ。

同著によると、すべては戦後に長く続いた好景気から始まった。1960年代の教育革命の流れを受け、親と違う価値観を持つ新しい世代が誕生した。

そうして一つの文化が発展した。研究者はその文化で重要な価値観を総称して「リベラル派(社会自由主義)」と呼ぶ。典型的なのは女性の権利、生活レベルでの環境保護、自己実現できる社会の実現だ。ここでいう社会とは、従来のように地理的に狭く孤立したものではない。

文化的反対運動は一つの文化の流れに変化が現れたときに起こる。変化が起きると、それまで支配的だった社会グループは文化の優位性を失う。

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この新著で面白いのは、保守派による反対運動、つまり「文化的反対運動」も広がりをみせている点が指摘されているところだ。こうした運動は一つの文化の流れに変化が現れたときに起こる。変化が起きると、それまで支配的だった社会グループは文化の優位性を失う。そして彼らは選挙や国民投票で過半数を失うのではないかと危機感を覚える。

スイスに溝を生んだEU

スイスで政党勢力図が大きく変化した理由は、経済的背景よりも文化的反対運動の観点から説明する方がよいだろう。

1991年の国民議会(下院)議員選挙当日、連邦政府はEEA加盟への意欲を表明した。その後、連邦政府はEEA加盟が「EU加盟に向けた踏み台になる」とも発言。これには保守派が猛反発した。そしてEEA加盟の是非を問う92年の国民投票を巡り、過去に例のないほどの激しい論争が勃発した。

この時期に誕生したのが、EU支持派とEU懐疑派の政治運動だ。どちらの勢力も現在まで拮抗している。スイス政府はEUに友好的な政策を取ることが多い一方、国民の大半はEUに懐疑的だ。

スイスに大いに当てはまる説

それ以降、保守派は経済的効果を上げるという目標に立ち戻ることを最優先している。それが個人の成功の土台になると考えるからだ。その他には伝統的な家族像、男女の従来の役割分担、男女の間だけで成立可能な婚姻関係を重視する。

保守派にとって、異文化が混ざることは耐えられないことだ。自国の文化の優位性が否応なく弱まる可能性があるからだ。異文化の混在に対する戦いは強い男性が率先して行うべきであり、そのためなら民主主義に縛りをかけることも辞さないと保守派は考える。

これが保守派の理論だが、スイスに当てはまるだろうか?それが大いに当てはまるのだ。

都市部ではリベラル派、そして農村部では保守派の価値観が強い

引用終了

スイスにおける現在の政治的、文化的二極化はそのように表現される。都市部ではリベラル派、そして農村部では保守派の価値観が強い。

前者は西スイス、後者は東スイスで顕著だ。この傾向は近年の州議会選挙にみられ、左派と右派の間の溝は今まで以上に深くなっている。

経済的観点からの対立は滅多にない。スイスは経済的に安定しているため、大抵の場合はどの党派も納得できる解決策が模索されるからだ。だからといって、スイスを分断する文化的な深い溝は存在しないなどと思い込んではいけない。

「欧州こそが重要なのだ、愚か者!」

今年10月に行われるスイス総選挙の行方はどうなるのだろうか?世界的にみると、ドナルド・トランプ氏が米大統領を務める間は保守派が優勢だ。予定されている欧州議会選挙でも、エマニュエル・マクロン仏大統領が期待するようなリベラル派への転換はせいぜいその兆しが見えるぐらいだろう。

スイス総選挙に関しては、私の予想はまだ定まっていない。昨年末は保守政党所属の女性2人が連邦閣僚に選ばれたが、2人は同じ保守党所属の前任者に比べ、リベラル派寄りの態度を取っている。

温暖化対策を求めたデモをはじめとした環境保護運動が起きている点も、リベラル派がスイスで強まっていることを説明している。だがそれで総選挙の行方が決まるわけではない。欧州との関係を巡る問題がいまだに解決されていないからだ。

この問題がきっかけに1992年の「文化的反対運動」は始まった。そのためこれは今後の行方も左右するだろう。 

スイスの主要政党

国民党(SVP/ UDC、保守右派) 

社会民主党(SP/ PS、左派)

急進民主党(FDP/ PLR、リベラル右派)

キリスト教民主党(CVP/ PDC、中道右派)

緑の党(GPS/ Les Verts、左派)

自由緑の党(GLP/ Vert'libéraux、中道派)

市民民主党(BDP/ PBD、中道派)

社会民主党青年部(JUSO/ JS、左派)

インフォボックス終わり


(独語からの翻訳・鹿島田芙美), swissinfo.ch

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