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近代的なデザインで世界にワイヤーを張り巡らすヤコブ社

世界中で利用されているトゥルブシャヒェンのワイヤーロープ swissinfo.ch

エメンタール地方の真ん中にある農村トゥルブシャヒェン ( Trubschachen ) 。ここで栄えている工業がある。はてさて、一体なんだろう。

それは地元の農業用の縄作りに始まった。100年を隔てた今、ヤコブ社の麻縄作りはワイヤーロープの製造へと発展を遂げた。

 このワイヤーロープはスキーリフトや建設業界で使用されるだけでなく、今や現代建築でも人気の的だ。2年前に建てられたベルンのパウル・クレー・センターやチューリヒのエリコン ( Oerlikon ) 地区にあるMFO公園でも、ヤコブ社 ( Jakob ) の製品が大活躍している。MFO公園には1200本の植物が繁茂する世界最大のパーゴラ ( つる植物などを這わせた棚を屋根としたあずまや ) があり、総長25キロメートルのワイヤーロープとワイヤー継手がこの建物で使用されている。

世界的な需要

 最近、タイのバンコク空港はヤコブ社の製品をおよそ300トン購入した。また、「クライマーもどき」を寄せつけまいと、パリのエッフェル塔の脚部の工事が行われときにもヤコブ社の資材が調達されている。

 オーナーのペーター・ヤコブ氏は、「わが社には鋼索や吊り上げ作業といった分野に関わる部署があり、ここが建設業や林業、スキーリフト、あるいは一般工業で使用されるワイヤーロープや吊り綱、ワイヤー継手などを扱っています」と説明する。

建築製品

 「しかし、今日では、手すり用の継手付きステンレスワイヤーロープや吊りワイヤーロープ製の棚、動物園の檻など、3分の2を建築製品が占めています」

 ステンレスワイヤーロープの人気はサイズと性能にある。直径4ミリのステンレスワイヤーロープの破断荷重は約800キログラム。ロッド ( 棒 ) だと、同じ重量を吊るすには倍のサイズが必要だ。また、ワイヤーロープと継手を使うとガラスを多く使用でき、建物の室内がより明るくなる。

ヤコブ社が建築家や金属細工師向けのカタログを作ったのは1988年、輸出を始めたのは1991年になってからのことだ。

 「当時は専門外のことはほとんど知りませんでしたが、今はとてもオープンになりました。そういうこともあって、ベトナムにもステンレスワイヤーロープの工場を置いています。しかし、トゥルブシャヒェンはまだまだ重要な土地。いつの日か、私たちが実際に作っている物をスイスとベトナムで展示することができればと思っています」

迅速な反応

 ヤコブ社は小さな会社だ。そのため、新しいトレンドや要求に迅速に反応することができる。序列がなく、決定は即座に下される。ほかの会社なら、まずは調査のために研究グループが作られるところだ。小企業という利点はもう1つある。

 「年末の配当だけを待っているような株主がいないので、何かやりたいことがおきたときに外部の人間にお伺いを立てる必要がありません。このことはとても大きいですね」

 ワイヤーロープ作りはそれほど複雑ではない。「特に長期的な視野で取り組み、過去の過ちから学ぶことができれば」とヤコブ氏は言う。このビジネスにおける勝敗は、マーケティングでいかにベストを尽くせるかが分かれ目となるようだ。

 「わが社の製品はどこの家庭にも応用できるもの。ですから、デザイナーや建築家、庭師、インテリアデザイナーといった人々にロープを利用してもらえるように工夫しなければならないのです」

企業秘密?

 ヤコブ社の工場には、外部に漏らしてはならない企業秘密はあまりなさそうだ。それでも、外部の目に触れない秘密はいくらかある。それらはノウハウの中に隠されている。

 「たとえば、継手をワイヤーロープに固定して破断荷重を常に高く保つという特別な技術があります。そのための研究は、機械のボタンを何回か押すだけではありませんからね」

 ヤコブ社で働く従業員は、スイスとベトナムを合わせて約60人。だが、ワイヤーロープの製造に関わっているのはたったの6人だ。この人数で年間およそ500トンを作っている。

 数年前、ヤコブは「ワイヤーロープの製造業務を拡大しない」という戦略を定めた。それでも、ノウハウをこのまま維持するように努め、この技術を学ぶ見習生も常に1人ないし2人は受け入れている。

 人口約1500人の絵のように美しいトゥルブシャヒェン ( Trubschachen ) 。この村は、この先もずっとヤコブのふるさとであり続けるだろう。「ここはすばらしい場所。私たちは103年前からここにい続け、この村の一部となっています。ここを離れようと思ったことなど一度もありません」とヤコブ氏は話す。

swissinfo、ロバート・ブルックス 小山千早 ( こやま ちはや ) 意訳

ヤコブ社の歴史は1904年に始まった。当時は家畜のえさや肥料、縄などを扱う農業用品専門店としてスタート。

当初は麻縄を製造、70年前にワイヤーロープへと移行した。

ヤコブ社の製品が輸出されるようになったのは1991年のこと。年間総売上高は2000万フラン ( 約20億円 ) を超えるが、そのうちの3分の2を農業用製品が占める。

美しいエメンタール地方にあるこの村には、大きな会社が2つある。1つはヤコブ社。もう1つは、おいしいビスケットで知られるカンブリー ( Kambly ) 社だ。

この村の文化協会は、長年、スイスの著名芸術家の展示会を開催している。

トゥルブシャヒェンの姉妹都市はアメリカ、ユタ州のミッドウエイシティ ( Midway City ) 。この町には1880年代に多くのスイス人が移住している。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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