ドーハ・ラウンド決裂、新保護主義の台頭
世界貿易機関 ( WTO ) の多角的通商交渉 ( ドーハ・ラウンド ) の決裂を受け、スイス主席交渉官ルツィウス・ワセシャ大使は、交渉再開の難しさを強調しながらも、交渉が成功しない場合の保護主義の台頭を懸念した。
ワセシャ大使はドリス・ロイタルド経済相と共にスイス交渉団の代表を務める。
swissinfo : ドーハ・ラウンド の閣僚会議での決裂を今の経済危機や新興国間の競争、また食糧危機のせいだと説明する人がいますが。どう思われますか?
ワセシャ: それは確かに1つの解釈ですが、基本的に今回の決裂は、アメリカのスーザン・シュワブ通商代表部代表とインドのカマル・ナート商工相の両者に柔軟性が欠けていたことが最大の問題でした。また、アメリカ、インド、日本、欧州連合 ( EU ) などでは、各々の国内でドーハ・ラウンド交渉支持者が多数を占めていなかったことも原因の1つに挙げられると思います。
swissinfo : ということは、現在の世界の通商はウルグアイ・ラウンドの合意に基づいて当分継続するわけですが、今起こっているさまざまな問題に対処できていますか?
ワセシャ : 確かに幾つかの規則が古くなって現実に合わなくなる可能性は大いにあります。しかしもっと危険なことは、ドーハ・ラウンドの交渉事項が、時がたち過ぎて、現在の経済状況にそぐわなくなるがために合意できなくなるのではないかということです。
swissinfo : 交渉が決裂する度に、保護主義の脅威が台頭するように思われますが。
ワセシャ : 確かに、新しいタイプの保護主義の脅威にさらされていると言っていいと思います。これは途上国の間で起こっています。中国との競争から自国を保護するため、間接的に欧米の利益に反対してきています。こうした国の輸入制限などの保護対策は今後ますます増えていく懸念事です。
また今回の決裂は実は、非常に悪い兆候を示すことになりました。比較的重要度の低い問題で理解し合えなかったのですから。これは保護主義者をさらに攻撃的に仕向けます。
swissinfo : ところで、今回の交渉決裂はスイスにどのような影響を与えますか?
ワセシャ : スイスは基本的に特殊な製品を輸出しているので、打撃は少ない方です。しかし、もしスイスの主な貿易相手がくしゃみをすると、こちらにも風邪がうつってきます。今回の決裂は景気の後退を引き起こす可能性を高めたといえます。
swissinfo : スイスの農家は、これで新しい改革から逃れられたのでしょうか?
ワセシャ : いいえ、国内での改革は進めることになります。今や改革は必然です。先に進めば進むほど、交渉内の農業分野での譲歩は必要になってきますから。
swissinfo : 過去、スイスは交渉がうまく進むよう各国の仲介役を行ってきましたが、今後も同じような行動を取る予定ですか?
ワセシャ : WTO でのスイス交渉代表団としてできるだけのことは行います。さらにロイタルト経済相は、スイスが過去数年やってきたように、2009年のダボス会議でも閣僚レベルでの会合を持つ準備をすでに進めています。
swissinfo、フレデリック・ビュルナン 里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 訳
2001年11月に中東カタールの首都ドーハで行われた第4回WTO閣僚会議で、さまざまなテーマでの交渉を目的に立ち上げられた。
主なテーマとして、2000年始めにその交渉がスタートした、農業、サービスがある。
途上国を世界貿易により良く組み込ませること、南と南の国間の貿易を促進させることなどを目的にしている。
ミシュリン・カルミ・レ外務相とパスカル・ラミーWTO事務局長は8月1日ジュネーブで、WTO本部の拡張と改装に関する取り決めに合意した。
拡張・改築工事は2012年まで続き、予算は1億3000万フラン ( 約130 億円 ) 。そのうちスイス政府が7000万フラン ( 約70 億円 ) 、WTO が6000万フラン ( 約60 億円 ) を負担する。
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