ローマ時代のワインはいかが?
ワインの起源はローマ時代だった?ローマ時代のワインは今のものより美味しかったか?などといった素朴な疑問に答えてくれる展覧会がローザンヌ・ビディの古代ローマ博物館で開催中だ。
展示は「有難うバッカス、古代のワインとブドウ畑」と題し、ギリシャ神話のお酒の神様、バッカスに扮したガイドが当時の時代背景などを説明しながら案内してくれる。ただし、ガイドはフランス語のみ。
バーゼル、チューリヒ、ジュネーブといったスイスの多くの街がローマ人によって造られたのをご存知だろうか。ローマ博物館のあるローザンヌも古くはロウゾンナ(Lousonna)と呼ばれ、ローマ時代から栄えてきた街だ。この博物館もローマ時代の住居跡に建てられた。
ローマ博物館の館長兼考古学者で、ロマンド・ラジオ(仏語圏ラジオ)でコメディアンとしても有名なロラン・フリュッチ氏は「展覧会はワインの飲酒を勧めるためでも反対するものでもありません。この展示を通してワインやワイン作りが古代ローマ時代やガロロマン時代(紀元前120年から5世紀まで)の遺産だということを見せたかったのです」と語る。
ワインの紀元
「ワインは多分、古代ローマ人が我々の地域にもたらしたのでしょう。この時期、ワインは文化的、経済的ばかりか、政治的にも重要でした」とフリュッチ氏。「ワインはローマ経済の柱の一つでもあったわけです。規模の違いは別として、現在の石油と比較できるのではないでしょうか」と分析する。
ワインのために新しく造られた道、市場を開発するための戦争があったばかりか、猛烈な保護主義政策も取られた。ローマ帝国の悪帝として名高いドミティアヌス帝(51年〜96年)は西暦92年に地中海沿岸の50%のブドウの苗を引っこ抜かせ、イタリアワインの競争相手を出し抜いたという。
スイスでも発見、古代ローマの種
スイスでも紀元前500〜600年に遡るブドウの種が、現在もワイン産地として有名なヴァレー州で発見されている。このブドウの種類が野生のものか、輸入されたものか、スイス種かは分からない。しかし、確かなことはローマ時代のスイス(当時のヘルヴェティア)ではブドウの栽培が行なわれていたということだ。ニヨンで発見されたブドウ栽培用の古代の鉈鎌(なだかま)が立証している。
ワインを飲む方が粋?
「ワインは地中海沿岸のお酒としては主流で、これに反してガリア人の飲み物としてビールや蜂蜜水(酒/hydromel)がありました。ローマ人の進出にともなって、地中海沿岸はローマ化していきます。ことためステータスとしてワインを飲む方が文化的、社会的によくみられ、ビールは野蛮人の飲み物といった風潮が強まってくるのです」とフリュッチ氏。
ローマワインってどんなの?
さて、ローマ時代のワインとはどんな味だろうか。実はローマ時代でもいろんな種類が存在し、1世紀に書かれた古代ローマの博物学者プリニウスは「種類は185種、変種を入れれば2倍ある」と記述している。ローマ時代のラテン語で書かれた農学書にも大変詳しい記述が残っている。
「古代の文書によれば、当時のワインには多くの香辛料と蜂蜜が入っていました。醸造法は砂糖を多く使ったアルコール度の強いものでした」とフリュッチ氏は説明する。後味として松脂の味が残るのは防水性を強めるためにアンフォラ(ローマ時代のつぼ)やワイン樽の内側にベタベタ塗ってあったかららしい。
本物の古代ワインの発見
しかし、残っているのは文書だけではない。これまでも、数多くの難破船に積まれた輸出用ワインが入ったアンフォラが見つかった。ローマ博物館でも、仏イエール(Hyère)沖のマドラーグ・ド・ジアン(Madrague de Giens)の海底に眠っていた難破船から発見されたガラスの小瓶に入ったワインが展示されている。難破船が浸水したのは紀元前75年〜65年と推定されているから、味はともかく、製造されてから2000年も寝かせられたワインということになる。
「昔のワインだから加工されていない純粋なものだと考える人が多いようです。実際、当時は反対に、現在に比べると全く正統派とは程遠かったようです。ワインの中に様々な混ぜものを加えていたのです。スパイスからユリの球根、海水まで…そして、ワインを頻繁に細工したと言います。例えば、博物学者プリニウスはマルセイユのブドウ栽培者はインチキで人工的に老化させるようにワインをいぶしている!と書いているのです」
インチキはそれだけではない。当時、高級ワインはアンフォラというつぼに、程度の悪い安物ワインは大つぼに入っているのが常識だった。しかし、「安物ワインを高級アンフォラに入れる」といったインチキも出回っていたらしい。
ローマ時代のワイン作りのハウツー
ローマ博物館で面白いのはガイドの「バッカス」がブドウの株から、タベルナ(居酒屋)まで、その中間作業のブドウ栽培、プレス、壷入れ、醸造、輸出、消費(一般のものからバッカス祭や儀式での飲み方まで)を当時の古代用具などの展示とともに解説してくれる。最後に古代ローマ風に醸造されたローマワインが試飲できるのも楽しみだ。幸い2000年間、寝かせたワインではないが、バッカス祭に当時のローマ人が飲んだ同じ味のシロモノというから楽しみではないか。
swissinfo、ベルナール・レショ、 屋山明乃(ややまあけの)意訳
– ローマ博物館はローザンヌのジュネーブよりの湖畔ヴィディ(Vidy)に、ローマ時代の住居跡に作られた。
– 開館時間:10〜18時まで、木曜は20時まで。月曜休館。
-「有難うバッカス、古代のワインとブドウ畑」と題する古代ローマのワイン展は2006年の10月29日まで。
– ローマ博物館にはサン・フランソワ広場から2番のバスで25〜30分、ボワ・ド・ラヴォー(Bois-de-Vaux)で下車。
– 入場料:14フラン。
この展示では南仏のボーケールのワイン倉が古代ローマ風に醸造した「ローマワイン」が無料で試飲できる。
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