善玉バイオエタノール
2008年7月1日に鉱油税条例が発効され、スイスではバイオガス、バイオエタノール、バイオディーゼルに対して鉱油税が免除されることになった。再生可能な原料で作る燃料の利用を促進し、化石燃料が排出する二酸化炭素の量を減らそうというわけだ。
スイス政府が特に注目しているのはバイオエタノール。主にトウモロコシやサトウキビなどから作られ、目下、世界に広がる食糧難の原因の1つであるとして大きな問題となっているエネルギー源だ。それなのに、スイス政府はなぜエタノールを推奨するのだろうか。
木屑で作るエタノール
「エタノールには善玉と悪玉がある」
と言うのは、連邦アルコール管理局「アルコスイス ( Alcosuisse ) 」で約4年前からプロジェクト「エタ・プラス ( etha+ ) 」を率いているピエール・シャラー氏だ。善玉は植物性の廃棄物や残留物、あるいは副産物などから作られるエタノールで、食糧難には無関係だという。一方、トウモロコシなどの穀物や大豆、パーム油を利用したものは、栽培のために森林を焼いて二酸化炭素 ( CO2 ) を大量に放出するほか、肥料を使用したり、種の多様性にも大きな影響を与えるため悪玉と見なされる。
スイスでは現在、ソロトゥルン州 ( Solothurn ) にある小さな工場で自動車用エタノールが生産されている。原材料として使われているのは木屑のみだ。最大生産量は600万リットルで、今のところここ1軒で国内需要をすべてカバーしている。
エタノールが85%、ガソリンが15%の割合でミックスされている「E85」の価格は5月末の時点で1リットル当たり1.54フラン ( 約160円 ) だった。同時期、無鉛ガソリンは1.94フラン ( 約202円 ) 。バイオエタノールはガソリンより3割以上安くしてはならないと決められている。これはバイオエタノールの普及にブレーキをかけることにならないのだろうか。だが、シャラー氏は
「良い商品にはそれなりの価値がある。また、地球の未来のために良いことをやっていると意識してもらえるのでは」
と考える。
せいてはことを仕損じる?
エタノールはこれまでスイスで爆発的な人気を呼ぶことはなかったが、シャラー氏はかえってそれがよかったと言う。
「ドイツやフランス、オーストリアでは急激に需要が高まったが、今ではブレーキをかけざるを得なくなった。農産物を利用して生産していたため、倫理的な問題が浮上してきたからだ。だが、スイスではまずさまざまな調査を行って法律を作り、それによって環境にやさしいエタノールの利用の基礎を築いた。これは世界でもほかに類のないこと」
と誇らしげだ。
スイスは独自の自動車産業を持たないため、エタノールの需要を増加させたくてもそれ用の車を自国で生産することができない。その点は外国の自動車産業に頼るしかないのだ。ガソリンでもエタノールでも走る「フレキシブル燃料自動車 ( FFV ) 」は、現在スイスにおよそ3000台出回っている。ハイブリッド車はかなり高価だが、シャラー氏によるとFFVは普通車より600フラン ( 約6万円 ) ほど高い程度で一般に手が届きやすい。FFVの普及は思ったより順調だと言う。
鉱油税条例
今回発効された鉱油税条例では、自然環境や社会環境を守るための最低条件が定められている。熱帯林などの種の多様性がバイオマス ( 有用物質やエネルギーを得ることができる生物体 ) 産出の犠牲となったり、途上国で燃料用農作物の生産と食用農産物の生産が敵対したりすることを避けるためだ。
鉱油税免除の対象となっているのは再生可能な原料から作られた燃料で、製造業者や輸入業者はその燃料のライフサイクルアセスメント ( 製品の製造過程全体において環境に与える影響を評価する方法、LCA ) で良い結果が出ていることを証明しなければならない。
swissinfo、小山千早 ( こやま ちはや )
連邦アルコール管理局 ( Alcosuisse ) が行っているプロジェクト。エネルギー供給源としてのバイオマス利用の促進を図る。目的は以下の通り。
- 2010年までに従来の燃料に代えてガソリンとエタノールの混合燃料を普及させる。
- その際に必要となるエタノールの一部を国内外の原料を元に国内製造する。
- 劣質農作物や利益の少ない農作物の新しい活用法を見出す。
- 持続的生産のための厳しい原則を用いたエタノール製造条件を確立する。
<バイオエタノールE85>
エタノール85% + 無鉛ガソリン15%
ガソリンスタンドの数:40 ( 2008年末には60カ所 )
利用できる車種:FFV
<バイオエタノールE5 ( Bleifrei 95 ) >
エタノール5% + 無鉛ガソリン95%
ガソリンスタンドの数:140
利用できる車種:普通のガソリン車
バイオエタノールE85:
約2万フラン ( 約200万円 )
天然ガス:
約40万フラン ( 約4000万円 )
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