規制緩和でゆれるチョコレートの味

欧州共同体(EU)は8月3日から、チョコレートに使うココアバターの代用として最高5%までの植物油脂の使用が認められるようになった。スイスではすでに1995年から、こうした代用油脂の使用が認められているが、伝統的な製造方法にのっとり、ココアバターのみが使われている。
スイスのチョコレート協会ショコスイスによると、2002年スイスで製造されるチョコレートはおよそ13万トン。このうち半分がドイツやアメリカなど世界各国に輸出される。口の中でなめらかに融けるミルクチョコレートが発案されたのはスイス。国民一人あたりの消費量も11.9キログラムと世界一。ちなみに日本は2.2キログラムと比較にもならない。
チョコレートの味には一言のあるスイスでは、EUのチョコレートの原料に関する法の改定でもレシピが大きく変更されることもなく、伝統の味は守られる様子だ。
チョコレートはカカオ豆を臼で挽いたカカオ・マスとココアバターと砂糖からできており、ミルクチョコレートにはミルクが加えられる。これが本格的なチョコレートのレシピで、スイスのチョコレート製造会社もこのレシピを守ってきた。ところが、8月3日からEU諸国では、総量の5%まで、植物油脂を混合させることを認める法律(2000/36/EG)が発効した。実は、スイスでも1995年から植物油脂の混合は認められているが、ほとんどのチョコレートメーカーは植物油脂を使わない。
レシピは頑固に守られる
スイスや今回のEUの法改定があっても、スイスのチョコレートの味は変わらないとの見方が大方を占めている。
チョコレートメーカー大手のリント&シュプルングリや市場シェアーの約4割を占めるショコラ・フライも「チョコレートにはココアバター以外の油脂は今後も一切しない」と伝統を守る意向を語っている。
消費者に合わせて味を違える
一方、食品大手のネスレは、EUの法改定を歓迎している。もっとも、「スイス国内の消費者の好みの観点から、レシピを変更する必要性は感じない」とネスレの広報担当、マルセル・ルビン氏。しかし、「伝統的に植物油脂を使っている英国、アイルランド、デンマーク向けの製品には植物油脂を使うことは考えられる」と、スイスで食べられるチョコレートで同じ名前の製品でも、国の好みに合わせると言う。
コストの節約か価格破壊か
EUが含有を認めるようになったヤシ油やマンゴの種の油など、植物油脂の価格はココアバターの10の1。先述のルビン氏は「コスト面だけでレシピを変えることはしない」と語っている。しかも、植物油脂の価格はココアバターより変動が激しく、実際のコスト削減につながるかは疑問と見る向きも多い。
国際ココア協会(ICCO)によると、世界の44%のカカオを生産する象牙海岸をはじめ、ガーナ、ナイジェリア、カメルーンなどは、EUが法律を改定したことで、カカオ価格が2割は下落し、影響を受ける可能性を指摘している。一方、ヤシ油製造者が受ける恩恵はあまりないと見られ、スイスの開発途上国を援助する組織のペーター・ニックリ氏は、EUの規制緩和の意味に疑問を投げかけている。
伝統を守りつづけるスイスと各国の事情を尊重して含有原料の緩和に踏み切ったEU。どちらのチョコレートを選ぶかは消費者の判断に任されている。
スイス国際放送 フィリップ・クロップ 意訳 佐藤夕美(さとうゆうみ)
EUのチョコレート法改正(2000/36/EG )の内容
ココアバターのほか、植物油脂を代用として含有することを認める。
植物油脂の含有量は最終製品の最高5%までとする。
商品の原料表示には「ココアバターおよびその他の植物油脂」との明示が必要
チョコレートの伝統をもつフランス、ベルギー、スイスでは、チョコレートにはココアバターしか使われない。英国、アイルランド、デンマークおよびスカンジナビア諸国では、ココアバターのほかに植物油脂が含有される。今回のEUの法改正でチョコレートのレシピが簡素化され基準が統一されるようになる。一体なにがチョコレートなのかという激しい論争は、純粋支持派が植物油脂の含有を最高5%まで認めるて歩み寄り、終結を見た。

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