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高物価スイスのインフレ対策は?

買い物客
インフレは特に低所得者層を直撃している © Keystone / Gaetan Bally

スイスのインフレ率は3.5%と、他の欧米諸国に比べると穏やかだ。だが光熱費や日用品の値上がりはスイスの家計に打撃を与えている。

  • スイスのインフレ率が他の国より低いのはなぜ?

新型コロナウイルスの流行に伴う供給制約や、その後の世界的な反動需要で、エネルギーやコモディティー(商品)価格が世界中で高騰している。さらにウクライナでの戦争も加わって世界中で物価が上昇しており、スイスにも波及している。

ただスイスのインフレ率は他の国々に比べると穏やかだ。8月の総合消費者物価指数(CPI)伸び率は3.5%と、欧州連合(EU)の10%や米国の8%超を大きく下回る。

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スイスのエネルギー価格は28%、食品価格は2%それぞれ上昇した。ユーロ圏ではエネルギーが38%、食品は10.6%上がっている。

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スイスの物価上昇を和らげているのは通貨フランの強さだ。

ローザンヌ大学応用経済研究所のマシュー・グロベティ所長は「ユーロは年初から対フランで10セント(約14円)近く減価した。つまり輸入品がずっと安くなったということだ」と説明する。スイスで消費される全商品の4分の1が為替の影響を受けている。

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グロベティ氏は、スイスのエネルギー市場の特異性も国際価格の高騰の影響を受けにくい理由に挙げる。スイスの電力価格は規制が厳しく、前もって固定される。アルプスでの水力発電という再生可能エネルギーのシェアが大きいことも、石油・ガス価格の高騰の影響を和らげる。

マシュー・グロベティ
ローザンヌ大学応用経済研究所のマシュー・グロベティ所長 Fabrice Ducrest / UNIL

非EU加盟国でありながら欧州の真ん中に位置し、多くのスイス人が物価の安い近隣諸国に買い物に出かけることも見逃せない要因だ。スイスの食品メーカーは消費者が近隣諸国に流れないよう、簡単には値上げできない。だがグロベティ氏は「今年末には(他の国に)追いつき、2023年初めから減速していく」とみる。

  • インフレはスイスでどう現れている?

エネルギーなど基礎的なモノの価格は過去12カ月間上がり続けてきた。スイスの家庭の4割で使われている暖房用石油はほぼ2倍に、ガスは6割跳ね上がった。

電力料金は通常、8月末に翌年の価格が公表される。2023年は平均27%上昇した。スイスの電力供給は地域ごとに約600社の電力企業が供給しているため、価格は居住地によって異なる。一部の自治体では記録的な上昇率となった。ヴォー州のサン・ブレでは自治体への請求書が7万フラン(約1千万円)から130万フランへと、1600%上昇した。

調理用油やパスタ類など日常食品は約10%値上がりした。家計にはじわじわと打撃を与えており、連邦統計局によると今年4~6月期の食品支出額は586フランと、2020年1~3月期の535フランを上回った。平均収入に占める割合は5.5%から6%に膨らんだ。

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もう1つ、強制加入の医療保険料はスイスの消費者物価指数に反映されていない。スイス政府は先月27日、2023年の保険料は平均334.70フランと、前年比6.6%上がると発表した。

賃金はそれほどの伸びを見せていない。連邦統計局によると、2021年はインフレの一方で名目賃金が減り、労働者の購買力は0.8%低下した。2022年に入ってからの動きはまだ統計がない。

  • 消費者はインフレに耐えられるか?

スイス人の収入は平均的に他の国々よりも高い。グロベティ氏によると、スイス家計の食品・エネルギー支出が占める割合は最も低い。「スイスでは月平均の20%程度、ユーロ圏では30%程度だ」という。

だが、インフレは低所得者層により大きな影響を与える。家計に占めるエネルギー支出の割合が高いためだ。

「インフレは税金のような働きをする。値上がりが最も激しいモノの消費が多い家庭にとっては、収入が一夜にして3.5%以上も減った感じだ」

  • 購買力を保つにはどんな手段がある?それは効果的なのか?

物価高騰に伴い、複数の国が緊急措置を取っている。燃料費や家賃を割り引いたり、エネルギー価格に上限を設けたりしている。フランスは年金支給額や公務員の給料、一部の社会給付を見直し、ドイツはエネルギー・運輸助成を導入した。

グロベティ氏は「燃料割引など、政府が的を絞らずに購買力押し上げ策を取っても逆効果になりかねない」と指摘する。「そうした施策は需要を刺激するだろう。だが各国中央銀行はインフレ圧力を封じ込めるために需要を押し下げようとしている」

グロベティ氏は、エネルギー購入助成金も狙った効果を発揮しない可能性があるとみる。

「物価高騰は、気候変動目標の達成に向けて消費者行動を変えるのにはとても効果的だ」と語る。理想的な対策は、一部の人々に的を絞り、減税や補助金・補助券などを、エネルギー以外の支出に使うことを条件に支給することだという。

  • スイスの検討状況は?

連邦議会で議論が進んでいる。9月21~26日に、購買力をテーマとした特別審議が開かれた。老齢・遺族年金(日本の国民年金に相当)給付額を引き上げる案は上・下院で可決された。一方、健康保険制度への国庫負担を増やし保険料を引き下げる案は、下院では可決されたが上院では継続審議となった。

英語からの翻訳:ムートゥ朋子

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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