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EURO2008を控え、フーリガンをどうするか?

新しい法でこれが避けられたか? Keystone

5月13日にバーゼルスタジアムで行われたバーゼル対チューリヒのサッカー試合は警察も出動し、数百人の怪我人を出す大騒動の内に幕を閉じた。その結果、フーリガン対策を盛り込んだ新しい法をただちに適用すべきだという声が盛り上がっている。しかし反対者側も黙ってはいない。

反対者側はこの新しい法が憲法に違反しているし、この法があっても13日の暴動は避けられなかったと主張している。

「もちろんテレビにかじりついていました。暴動が起こったとき、ああこれは我々の委員会にとって最悪の出来事ではないかと思いましたよ」と語るのは、より厳しく修正された国の安全対策連邦法(LMSI)の正否をスイス国民に問いただそうと国民投票を組織する「LMSI反対委員会」のスポークスマン、リューベン・ショーネンベルジェー氏。

怒りと非難の渦

 暴動は自然の成り行きでもあった。 試合終了直前、勝つと予想されていたバーセルチームをチューリヒチームが負かしたのである。怒ったバーゼル側の応援団はスタジアムに下り、数百人の怪我人、逮捕者25人をだす大騒動を引き起こした。なかにはチューリヒの選手に襲いかかった者までいた。

 この騒ぎはサッカー関係者のみならず、政治関係者の間にもかなりの怒りを買うことになった。スイス連邦議会の下院である国民議会議長クロード・ヤニアック氏は、早急に新しい修正案をもりこんだ法を適用する旨を強調しながら「大きな問題です。本当にショックを受けました」と語った。またスイスサッカー協会(ASF)の会長ラルフ・ズロックゾベ氏も認めがたい行為として、この騒動を非難した。

フーリガンをデータバンクにのせる?

 そもそも、スイス政府はオーストリアとスイス合同で行われるサッカー大会EURO2008を成功させようと、昨年一連のフーリガン対策を提案した。それはすでに存在する安全対策法LMSIに修正案を盛り込む形で今春、連邦議会を通過した。

 この修正案はかなり厳しい処罰をうたっており、暴力行為に使われる道具をまずはとりあげ、軽い処罰としては移動の自由を禁止し、重いものでは拘置もあり得る。また修正案の要は、他のヨーロッパ諸国にある例をモデルに、暴力的なサッカーのサポーターのデータバンクを作ることにある。

 これに対し、ショーネンベルジェー氏は「安全を守る機関、警察、さらにスポーツ協会などが単なる推測だけで、サッカーのサポーターを犯罪者にするのです」と言う。「我々も、フーリガンには反対なのです。ただ連邦議会が採決した法は専制的です。現行の法律を正しく適用するだけで十分なのです」

 いくつかのサポーターの組織がただちにこのLMSI修正案に反対し、3カ月以内に5万の署名を集めて国民投票にかけ、国民の判断を問うことにした。だが、今春の連邦議会では修正案に反対した社会民主党と緑の党が、政治的判断から国民投票を支持しないことに決めている。

UEFAは心配していない

 EURO2008が近づくなか、関係者はバーゼルの暴動はスイスのスタジアムの安全性を心配するEURO2008の主催者、欧州サッカー連盟(UEFA)に一番打撃を与えたのではないかと心配した。ところが予想ははずれた。UEFAは13日の出来事は10年に1度起こるような例外的なものだと考えている。EURO2008のUEFA側の代表者マルタン・カレン氏はそれ程ショックを受けておらず、「2008年のスイスとオーストリアの大会はスポーツを楽しい祭りの場に盛り立ててくれるようなサポーターだけを集めますよ」と楽観的である。

swissinfo、マルチオ・ペスキア、ルイジ・ジュリオ 里信邦子(さとのぶくにこ)意訳

スイスのように連邦国で16の州からなるドイツでは警察権は各州の決定に委ねられている。
しかし、スポーツ関係の情報収集に関しては、ドイツ全州を統一しており、6000人の暴力的なサポーターの名前がデータに入っている。彼らを監視することで、スタジムでの暴力事件は減っている。
6月9日に始まるワールドカップに対して、全州は判断を即座にし、処罰を厳しくすることにしている。
フランスの下院、国民議会は先月「フーリガンに対しては寛容ゼロ」をうたった法を可決した。
幾つかのサポータークラブを解散させることを検討したこの法は、上院の承認をまっている。
イタリアでは2005年8月に作られた法の最終的な修正を行った。それは暴力的なサポーターが選手について外国に行くことを禁止し、国内の大型のスタジアムをビデオカメラで監視することをうたっている。

5月13日のバーゼルとチューリヒの試合は、スイスのスポーツ史上、最悪の出来事だと思われた。しかし、以下のような騒動もあった。
2001年4月1日、ルガーノのホッケー試合でチューリヒが優勝した際、ティチーノチームの応援団が色々な物を氷の上に投げつけ、チューリヒの選手を攻撃し、1人が怪我。
2002年8月17日のバーゼルとルツェルンのサッカー試合で16人の警官とお年寄り1人が怪我。フーリガンは数台の車とキオスクに火をつけた。
2004年9月26日のアアラウとバーゼルのサッカー試合で3人の警官が怪我。

<サポーター>
主にサッカーチームを支える応援団もしくはファンのこと。
<フーリガン>
サポーターと称しながら、サッカーの観戦ではなく、暴れることを目的とした人やグループ。

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