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白熊の赤ちゃんもピットブルも

ベルリン動物園での白熊の赤ちゃん「クヌット」の誕生は、時代を画する出来事になった Keystone

鳥インフルエンザやピットブル、ベルリンの動物園で生まれた白熊の赤ちゃんなど、動物に関する記事は30年前に比べ3倍も増加しているという。 

ジュネーブ大学社会学科の研究チームは、1978年以降メディアで取り上げられた動物記事を研究し、人間と動物の関係を探った。

連邦経済省獣医局の依頼

 「かわいいペットから脅威となるペットまで、人間と動物の関係を探る」と題された同研究は、スイスでの動物に対する社会一般の態度と、メディアでの動物の取り上げられ方を探る目的で、連邦経済省獣医局( BVET/OVF )から予算35万フラン ( 約3160万円 ) で依頼されスタートした。

 また研究の一部として、メディアで取り上げられた話がその動物への見方をいかに変えるかについても 研究した。例えば、今回の新型インフルエンザのせいで、何万頭ものブタが屠殺されたことは顕著な事例と言える。

 「人間と動物を含む環境との関係は変わりつつある。30年前は、人間が動物を含め環境を支配しようという傾向が強かったが、現在はむしろ支配、統御を行わない方向だ」
 と研究責任者クローディンヌ・ブルトン・ジャングロ氏は総括した。

保護を必要とする自然で純粋な存在

 ジャングロ氏と同僚の社会学者アニック・デュビエ氏は、1978年から2007年の間に取り上げられた動物に関する新聞記事を、18カ月間かけ読み込んだ。さらに15種類の週刊誌を任意に1年のうちの1週間に限って読み、またテレビのニュース記事も探った。

 また、狂牛病や鳥インフルエンザが起こった時期には、記事がいかにこうしたテーマを扱うかを特別に研究した。しかし、チューリヒのサッカーチームがバッタをチームのシンボルマークにしているような例は研究の対象から外した。

 こうした研究の結果判明したのは1978年から1988年にかけての10年間は、動物に関する記事が週平均128本だったのに対し、次の10年間の週平均は187本と、飛躍的に増加したことだった。最も多かった時期は2006年鳥インフルエンザが発生たときで、週に321本の記事が書かれた。

 また、はっきりと言えることは、動物を社会が統御、支配する対象としてではなく、保護を必要とする、自然で純粋な存在として見る傾向に移行しつつあるということだ。
 「危険で獰猛 ( どうもう ) な動物の話でも、いかに保護するか、また人間と共存するためにいかなる自然なアプローチがあるかといった方向に記事が展開する」
 とジャングロ氏は言う。

 この態度の変化は環境問題への認識の広がりと共に、1990年を境に起こった。
 「1990年以前は、動物は人間の生活にうまく溶け込んだ社会的な存在として見られていた。ところが、1990年以降は逆に、純粋で、完全に自然の中の存在と見られている」

決して無関心ではない

 一方、動物に関する話は、心温まるかわいい動物という取り上げられ方と危険で獰猛なそれとの2つにはっきり分かれている。

 4244本の記事と236本のテレビ番組のうち、36%が後者の起こってほしくない出来事、例えば幼児がピットブルにかみ殺された、ないしは鳥肉に有害物質 が入っていたという1999年の記事だった。一方 32%が前者のかわいい動物という記事で、ベルリンの動物園で生まれた白熊の赤ちゃん「クヌット」や、昨年バーゼルの動物園で誕生したカバの赤ちゃん「ファラシ」のニュースだった。

 残りの19%は、動物が犠牲になった事件で、例えば人間が動物を虐待したり、水の汚染で多くの魚が死ぬといった記事だった。また13%が家畜やペットのような飼いならされた動物に対する温かい記事だった。

 また、ジャングロ氏は今回の研究で、動物に関する記事が人の認識をいかに変えるかを理解する助けになるのではとないか見ており、さらに、
 「動物が人に肯定的な反応を引き起こそうと、否定的な反応を引き起こそうと、われわれは非常にあいまいではっきりしない、時に矛盾する関係を動物と持っている。しかし決して無関心ではない」
 と締めくくった。

ティム・ネビル、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、里信邦子 ) 

1986 年、チェルノブイリの事故で、放射能にスイスの動物が汚染されたという記事を中心に56本の記事 ( 1週間につき / 以下同様 )

1996年、狂牛病関係の記事243本

1999年、鶏肉がダイオキシンに汚染された事件関係で150本

2006年、鳥インフルエンザ関係で321本。最高の数を記録。

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