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国民投票の結果 GMO栽培の凍結と日曜営業を承認 

国民はGMOのモラトリアムをはっきりと承認した Keystone

11月27日に行なわれた国民投票で「遺伝子組み換え作物(GMO)栽培・飼育の5年間の凍結」は賛成55.7%、反対44.3%ではっきりと承認された。二つめの、駅や空港などの商店の日曜営業を許可する労働法改正案は賛成50.6%反対49.4%の僅差で承認された。

GMO栽培、飼育の凍結に関しては全てのカントン(州)で承認されたものの、日曜営業に関しては全26州のうち、都市部がある7州のみで承認され、都市部と農村部の二極化が表面化した。投票率は41.8%だった。

 スイスで国民が10万人以上の署名を集めて、直接国民に問うイニシアチブ(国民発議)制度は1891年に成立した。しかし、これまで提案されたイニシアチブのうち145件が否認され、承認されたのは14件のみ。今回承認された「GMO栽培、飼育の5年間凍結」は史上15件目のイニチアチブ承認となった。

予想通りのGMO投票

 今回のイニシアチブは議会が2003年に遺伝子組み換え植物への試験操作を許可したのを受けて、環境、農業、消費者団体が政府のGMO政策に待ったをかける形の提案となった。「GMOの栽培、飼育の5年間凍結」は推進派が「国土の小さいスイスではGMO農業と有機栽培農業の共存は難しい」、「まだ、GMOの自然への影響ははっきり分かっていない」としてキャンペーンを広げていた。  

 11月27日の国民投票では同イニシアチブは事前の世論調査を大きく上回る承認を受けた。このような国民からあがったイニシアチブの場合は国民の過半数のほか、賛成する州も過半数が必要だが、今回は全州が承認し、スイス人のGMOの安全性に対する懐疑心を反映する結果となった。

僅差の日曜営業

 連邦制のスイスでは商店の営業許可は各州の管轄だ。しかし、連邦政府の領域である駅や空港などでは「旅行客に必要なサービスを提供する」ことを条件として連邦経済管轄局(SECO)の特例で営業していた。

 これをチューリヒの労働組合などがコンピュータの店、靴屋など旅客に必要のない店の日曜営業を労働法違反として訴えた。連邦裁判所はこの訴えを「労働法違反」と認めた。このため、国会議員がこれらの商店が日曜日に閉まることを防ぐべく、労働法を改正する5万件の署名を集めた随意のレファレンダムを起こし、今回の国民投票で問われることになった。

 結果は賛成50.6%対反対49.4%でわずか2万3000票の差で今後も日曜営業が続くことになった。国民投票で国民の過半数を得たにもかかわらず、7州でしか承認を受けなかった議題は初めてとなった。(随意のレファレンダムでは州の過半数はいらない)結果的に日曜営業を承認した州はチューリヒ、ジュネーブ、バーゼル、ベルンといった大きな駅や空港がある都市部の州だった。

スイスメディアの分析は?

 スイスメディアの反応は大まかに、スイス国民はリベラルな政策を推進する政府や議会に懐疑的で新しい技術導入や社会変化に対して保守的といった見方が多かった。 

 また、多くの新聞では国民投票の結果から見られる社会層の二極化について取り上げた。フリブールの日刊紙ラ・リベルテは「チューリヒがスイス全体に日曜営業を強制する」とし、ジュネーブのトリビューン・ド・ジュネーブ紙では「言語的境界線よりも、都市と農村部の断絶が浮き彫りになった」と分析。「昨日の結果は政治制度がもっとも恐れている—4つの大都市が国全体に法律を押し付けるという—結果となった」と記述した。

 ベルンのベルナー・ツァイトゥング紙は日曜営業について「ノーという意味のイエス」と評し、スイス人にとって「まだ聖なる日曜日を捨てる決心はない。今後、日曜営業を許可する労働法改正は難しいだろう」とみる。

 また、GMOに関してはラ・リベルテ紙は「この快挙なる結果はこのイニシアチブがそれほど重大な問題でないから」と分析。ベルンのデル・ブント紙は「この5年間凍結は今後、もっと情報を得て議論する時間を与えてくれる」とみる。チューリヒのノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング紙は「今後の経済、科学技術の発展の活動力を萎縮してしまう」と分析した。ジュネーブのル・タン紙も「懐疑心がスイスがこれまで常に科学者を支援してきた伝統を覆した」とした。

 また、ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング紙は「この二つの結果はまたしても、スイス国民の保守性を露にし、新しいものに対して多くの国民が懐疑的であることの現われだ」と総括した。


swissinfo、 屋山明乃(ややまあけの)

- スイスの国民投票にはイニチアチブ、強制レファレンダム、随意レファレンダムと3つの形がある。

- 一つは国民からの発議のイニシアチブで、10万人の署名を18カ月以内に集めることにより、国民投票となる。承認には投票数と州の数の両方で過半数を取ることが必要となる。

- レファレンダムは連邦会議の決定に対する国民の事後審判として実施する国民投票のこと。強制のレファレンダム(憲法改正、国際機関の加盟など連邦憲法の改正にあたるもの)と随意のレファレンダム(新法や法の改正など)と2種類あり、前者は自動的に、後者は連邦会議の決定後、再審議を求める公文書が発表されてから100日以内に5万人の署名を集めることにより、国民投票が実施される。強制レファレンダムの承認には投票数と州の両方の過半数が必要だが、随意のレファレンダムは過半数だけが必要となる。

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