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嵐を巻き起こすスイスラッパー

スイスでますます人気の上がっているストレスことアンドレス・アンドレクソン氏 ( RDB )

スイスのラッパーとして初めてヒットチャートに登場した「ストレス」。ラップの歌詞が右派国民党を代表する政治家、クリストフ・ブロッハー法務相を攻撃したことで波紋を呼んだのだ。

前回のアルバム『F*ckブロッハー』の内容に対しての国民党からの公式謝罪要求を受け、2月に発売されたアルバム『ルネッサンス』で過激に応酬した。話題の人ストレスに現代スイス社会についてインタビュー。

 ストレスはラップを通じてスイス社会の隠された面を告発。一躍ラッパー界の雄となった。ストレスの本名はアンドレス・アンドレクソン。エストニア生まれで、12歳の時に母親と妹とともにローザンヌにやって来た。

 今年、発売されたアルバムの表紙はストレスが墓前に花を供えており、その墓石には「スイスー1291年〜2006年」と書かれている。「国民党が公式謝罪を要求している。どうぞ、紳士方、これが謝罪さ、ファシストよ、くそ食らえ!…」といった歌詞がアルバム『だけど、どこに? ( Mais ou ? ) 』に並ぶ。話題になっているアルバム『ルネッサンス』はヒップホップ、ソウル、ロックとポップが混ざったラッパーのアルバムといえる。

swissinfo :  クリストフ・ブロッハー司法大臣と国民党 ( SVP / UDC ) に対して何を非難しているのでしょうか。

ストレス : 彼らのやり方が気に入らないんだ。例えば、前回の選挙ポスターではラッパーのような格好をした黒人が写っている。そして、表示には「外国出身の若者の間で暴力が185%増加した」とあるんだ。

だけど、よく統計を調べてみるとスイス全体の若者の間では暴力が265%増加している。結局、人々に現実に見合ったイメージを伝えずに 外国出身者に対する 恐怖を与えようとしている。スイスにとっては悪いことだ。

ブロッハーのような奴が国をめちゃくちゃにする。同化を促さない。あまりに保守的でどんな変化も認めない。これは国の滅亡だよ。新しい血と新しいアイデアがないと国は進まないんだ。それを彼が分かっていないというのは驚きだね。

swissinfo :  「スイスが死んだ」と断言していますが、多くの人がスイスのダイナミズムと成功を認めています。実際、何を言いたいのでしょう。

ストレス : 僕が言いたいのは、昔の「古き良きスイスは死んだ」ということさ。良いダイナミズムというのが僕の新しいアルバムのテーマでもある。多くの独立した人が会社を作ったり、新しいテクノロジーやファッションを作り出したりと新しいダイナミズムを作り出す。だけど、古い世代の人が若い世代を眺めると全く理解できないんだ。

swissinfo :  あなたのアルバムを聞くと多様な文化の中で育っているスイスの若者が出てきます。彼らの主張が無視されていると感じませんか。

ストレス : 時々、無視されてもいるし、自分たちがきちんと主張しないのも問題だ。若者の声や主張を聞いてもらうのはあまり沢山の方法がないのも確かだけど。最も大きな理由は真面目に受け止めてもらえないということ。これは大変、深刻な問題だ。

若者は未来であり、明日の決定をするのは自分だということを自覚しなければならない。 ( 自らの未来に ) きちんと状況を把握していない年寄りに決定権を与えるだけではいけないよ。

swissinfo :  最近、国民党だけではなくほかの党からも、重罪を犯した外国人の若者はその家族と共に追い出すべきだという声を聞きます。これをどう思いますか。

ストレス : これはとても、難しい問題さ。そんな若者を追い返してスイスの若者はどうするかという問題になる。こういった犯罪がどのような状況で起こるか、何がそうさせるのかを理解しようとしない限り舐められつづけるのさ。僕にとってはそういった結論は短絡的な見方だね。

swissinfo :  あなたは政治家ではないと言いますが、スイスで政治論争を巻き起こしました。政治的な野心があるのですか、それとも音楽界のなかで批判されているようにCDの売り上げを伸ばすための手段なのでしょうか。

ストレス : ブロッハーについて意見が合うというだけで僕のCDを30フラン ( 約2900円 ) も出して買うとは思わないね。アルバムはあくまでも音楽さ。僕は思ったことを言うしそれが、僕の音楽のやり方だ。メディアで取り上げられるからってやり方を変えている訳じゃない。

swissinfo :  あなたは人種差別や国粋主義やあらゆる差別について反対する姿勢を示していますが、一方でホモフォビア ( 同性愛嫌悪者 ) だと非難されています。この矛盾はなんでしょう。

ストレス : この間、出したアルバムでも説明しているけど、言語には2つの側面があるのさ。僕は「ホモ」や「おかま」という言葉をただの「ののしり言葉」として使っているだけさ。これに憎しみがこもっているわけではなく、僕も含めみんなが使う言葉さ。もう、何千回も言ってるけれど僕は同性愛嫌悪者ではないよ。

swissinfo :  スイスでは「レーシュティーの溝 ( Röstigraben ) 」といって、フランス語圏とドイツ語圏の間に想像上の溝があると言われます。しかし、あなたはラップをフランス語で歌っているにもかかわらず、ドイツ語圏でも大変、売れていますが。

ストレス : 若者の間ではもう、レーシュティーの溝は見えないね。どちらかといえば、世代間の溝が見える。それが、問題なんだ。

swissinfo 聞き手、 アダム・ボーモン 屋山明乃 ( ややま あけの ) 意訳

– スイス人として帰化した、ストレスことアンドレア・アンドレクソン氏は12歳の時に母親とともにエストニアから来た。大学の経営学部を卒業し、1年間プロクター・アンド・ ギャンブル ( P&G ) 社で働いてからラッパーとして独立する。

– 英語も流ちょうだが、ラップは「日常の言語でなければだめ」とフランス語で歌う。だが、歌詞にはドイツ語も一部含まれる。

– ストレスの恋人は元ミス・スイス、メラニー・ウィニガーさんでローザンヌとチューリヒを行き来する。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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