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スイスの宇宙工学、ヨーロピアン・ドリームを実現

打ち上げ前の自動無人補給機「ジュール・ヴェルヌ号」

3月9日、 国際宇宙ステーション ( ISS ) へ向けて、欧州宇宙機関 ( ESA ) が初めて開発した自動無人補給機 ( ATV ) が打ち上げられた。この開発にはスイス人技術者が重要な役割を果たした。

今回ロケットで打ち上げられたATV「ジュール・ヴェルヌ ( Jules Verne ) 号」は、物資や科学実験装置などをISSへ輸送する。

 グリニッジ標準時間の午前4時3分 に、仏領ギアナのクールー ( Kourou ) 宇宙基地から、ATVのジュール・ヴェルヌ号を頭部に搭載したロケット「アリアン5 ( Ariane 5 ) 」が打ち上げられた。

 スイスの宇宙関連企業ではトップの「エリコン・スペース社 ( Oerlikon Space ) 」の広報担当ヘントリク・ティーレマン氏によると、同社はこのプロジェクトで、ATVのペイロード・フェアリング ( ロケットの頭部に装着され、搭載されているATVを保護するカバー部分 ) と、貨物の棚などの製造を下請け受注した。同プロジェクトには、エリコン・スペース社から約20人の技術者と専門家が参加している。

防御ヘルメット

 重量約20トン、全長約10メートルと、ロンドンの2階建てバスの大きさに近いジュール・ヴェルヌ号は、小型の「はしけ船」のようなロシア製のプログレス号と入れ替わることになっている。

 ロケットに搭載されたATVは、大西洋上から宇宙を目指すように取り付けられており、ロケット頭部のペイロード・フェアリングは、ATVに内蔵されている精密機器を守るヘルメットの役割を果たす。エリコン・スペースによると、この部分は軽量の合成アルミ素材でできており、物理的な摩擦や圧力、熱、宇宙空間のゴミや隕石などから機体を守る。このATVはすでに5年のテスト期間を経ており、
「ミスが起きないよう、すべてにおいて高い品質と精密度を達成しなければなりませんでした。宇宙に出てから問題が出ないように、何回もテストしました」
 とティーレマン氏は語った。

 ATVが地球を数周回る5日間に、機体に搭載されたレーダー、センサーそしてサテライトのデータが、ISSとの距離を徐々に調整する。その後、地上400キロメートルの宇宙空間に位置するISSのロシアのモジュールにドッキングする。ATVのプログラム・マネージャーのジョン・エルウッド氏は、この操作は「優雅なダンス」のようになるだろうと言う。

スイスのパートナー

 連邦内務省教育研究局 ( SBF/SER ) のペーター・エルニ氏は、複雑な国際関係の中で活躍するスイスの宇宙関連企業に関しては、エリコン・スペースが最大規模だと言う。ほかの受注企業としてはピラトゥス・エアクラフト社とルアク・アエロスペース社がある。

 ほかのヨーロッパ諸国と比べてスイスの宇宙関連企業は小規模だが、特殊分野の技術開発で対抗してきたとエルニ氏は指摘する。それによって、世界中の宇宙プログラムで使用されている原子時計のように、特殊技術の世界的なリーダーとなった。

 エルニ氏は、スイスの企業が今回のプロジェクトで、請け負った役割以上の重要な任務を果たしたと言う。しかし、すべてに終わりがあるように、この宇宙版ジュール・ヴェルヌにも終止符が打たれる日が来る。ISSに乗り組んでいる宇宙飛行士は、物資を下ろした後、廃棄物を積みこむ。約6カ月後に、大量の廃棄物を載せたジュール・ヴェルヌ号はISSから分離し、地球へ向かう軌道上の大気圏で燃え尽きる。

swissinfo、ユスティン・ヘネ 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳

フランスのサイエンス・フィクション作家の名にちなんで命名された。2015年までに製造予定の5機のISS補給用ATVのうちの第1号。

今回のプロジェクトの主要な受注企業は、「ユーロコプター社 ( Eurocopter ) 」と「エアバス社 ( Airbus ) 」の親会社で、サテライトも製造する独仏合弁企業の「欧州航空防衛宇宙会社 ( Eads ) 」。

このATVプロジェクトは、進行状況確認のための定期的な会議やエンジニア同士のコンスタントな意見交換など、緊密な国際関係と企業間協力を要した。

自動無人補給機 ( ATV ) の機体のみの重量は2トンだが、物資などを積載した打ち上げ時の重量は約20トン。

打ち上げ直後は、加速によって5倍の重力がかかるため、機体は100トン相当の重量があるに等しい状態になる

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