スイスの視点を10言語で

ウィンドウズがロマンシュ語世界の扉を開く

学校でもロマンシュ語を使う努力が続けられている。 Keystone

ドイツ語、フランス語、イタリア語に続くスイスの第4番目の国語、ロマンシュ語。消滅の危機にさらされているこの言語を維持しようと努力している人々に対し、朗報が届いた。

コンピュータがなければ仕事にならない現代において、これまでロマンシュ語に対応するソフトがなかったことは、この言語の衰退に拍車をかけていた。しかし、近い将来にマイクロソフト社はWindowsやMicrosoft Officeなどの人気ソフトにもロマンシュ語対応機能を付ける。

 マイクロソフトは現在、「少数言語対応特別プログラム」を進めており、対応できる言語を現在の40ヶ国語から80ヶ国語まで増やす計画だ。これによって世界中でより多くの少数語を話す人々が母国語でコンピュータを使えるようになる。

 同社は、ロマンシュの言語・文化維持機構であるロマンシュ語同盟(Lia Rumantscha)と協力し、言語ソフトの開発を急いでおり、今年秋にも完成させる予定だ。スイス東部グラウビュンデン州などで使われているこの希少な言語は、年々使う人々が減少しているため、ロマンシュ語同盟も今回のマイクロソフトの動きを歓迎している。

 「技術的用語など、まだまだ完璧とはいえませんが、ソフトが完成した暁には、ロマンシュ語も他の言語と同じく全ての分野で活躍することができるでしょう」とロマンシュ語同盟のダニエル・テリさんは語る。

一石二鳥

 テリさんは、最近ワシントン州シアトルのマイクロソフト本社を訪問した。スペルチェック機能をはじめとする言語アプリケーションの開発に協力するためだ。

 ロマンシュ語は書き言葉だけでも5種類存在し、アルプスの渓谷ごとに24種類もの方言がある一筋縄ではいかない言語である。ロマンシュ語として統一されたのは1982年以降だが、生き物である言語を標準化するのは易しいことではない。

 この点についてテリさんは「ロマンシュ語がインターネットの世界に入っていくことによって、ロマンシュ語の書き言葉が統一される助けになることは確かです」と期待をこめる。

 マイクロソフト・スイス支社のアレクサンダー・シュトゥーガー支社長も記者会見で「我々がスイスの文化に貢献できることは大変喜ばしいことです。私たちとロマンシュ語同盟の共通の目的は、IT技術をスイスの文化や言語の多様性保持に役立たせることです。いうなれば、最先端技術で、古い伝統を守る、という事でしょうか」とコメントした。

少数言語保存に向けて

 グラウビュンデン州政府によれば、ロマンシュ語が伝統的に多数派である地域でさえも、近年ドイツ語がロマンシュ語の地位を脅かし始めた。しかし同時に、最近ウンターエンガディン地方やスルセルヴァン地方の学校が、ロマンシュ語で教える授業を導入し始めたことについて、良い兆候だとして歓迎している。

 コンピュータでロマンシュ語が使えるとなれば、ビジネスはもちろん、学校や教会などにおいても、物事がぐっとやりやすくなる。

 ロマンシュ語同盟のテリさんは語る。「ロマンシュ語が新たにコンピュータで使えるようになることによって、ロマンシュ語を使用する人々が、自らの言語に対する意識をより高めること、また、社会がスイスには4つの国語があるのだと再認識することを望んでいます」

Swissinfo モーヴェン・マックリーン 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

2000年の国勢調査ではロマンシュ語を母国語とするスイス人は全人口の0.5%(約35,100人)。10年前は0.6%だった。

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部