東日本大震災 アジア経済へのマイナス影響
世界銀行は東日本大震災の復興に5年間かかる見通しを発表した。現時点で被害総額は最大2350億ドル ( 約19兆円 ) と見積もられているが、福島第一原発の事故による損害は含まれていない。
日本を襲った国内地震観測史上最大の地震は、これまでに1万人近い犠牲者を出し、行方不明者は1万7000人以上に上る ( 3月24日現在 ) 。さらに約24万人が避難所生活を強いられているという。
経済成長の鈍化
今回の大震災の影響で日本の経済成長率は0.5ポイント低下すると世界銀行は予測している。しかし、スイス経済への影響は限定的と経済専門家らは見ている。
「建物やインフラの被害は未だかつて見られない規模」と21日に世界銀行が発表した報告書には書かれている。同日、福島第一原発では外部電源の復旧には成功したが、冷却システム全体の機能はまだ回復していない。炉心溶融の危険性は色濃く、25年前のチェルノブイリ原発事故以来の大惨事を招く切迫した状況は続いている。
復興需要で早期の経済回復
世界銀行の予測では、福島第一原発は緊迫した状況下にあるものの、今年下半期以降は復興需要により日本経済は再び成長するという。日本の経済的損失は1230億 ( 約10兆円 ) ~2350億ドル ( 約19兆円 ) に上ると試算され、これは昨年の国内総生産 ( GDP ) の2.5~4%に相当する。また、民間保険会社には140億 ( 約1兆1000億円 ) ~330億ドル ( 約2兆6700億円 ) の震災関連の保険金の支払いが発生するという。
UBS銀行スペイン支社のアセットマネージメント部門で戦略部長を務めるロベルト・ルイズ・ショルテス氏は、これらの数字を現実的と判断する。
「日本経済の今年の成長率は予測以上に鈍化するだろう。予測の1.5%に対し、わたしたちは1%と見積もっている」
一方、2012年の成長率の見通しは2.1%から2.5%に引き上げたという。その理由は、地震と津波で被害にあった東北地方の復興需要だ。
経済大国でなくなった日本
震災前の統計によれば、日本のGDPが世界に占める割合は6%程度だった。そのため、世界経済が被る打撃はかなり限定的だとショルテス氏は言う。最悪の場合でも今年の世界の経済成長率は約0.1ポイントの低下にとどまるという。
ヨーロッパ経済への影響はそれ以上に限定的だという。スイスの対日輸出は全体の3.5%を占めるのみで、欧州連合 ( EU ) では1%だけだ。
もう一つのスイス大手銀行クレディ・スイス ( Credit Suisse ) も同様の数字を提示。原発事故が拡大した場合、日本経済の今年の成長率は約0.5ポイント低下、世界経済では0.2ポイントのマイナス成長の見通しだ。
製造業の停滞
その一方で、今回の大震災が世界経済に大きな影響をもたらすという意見もある。シンガポールのターマン・シャンムガラトナム財務相は、原発事故が消費者の信頼感や企業の景況感を損なう恐れがあると指摘した。
さらに、日本の製造業の生産停滞が国内物価を吊り上げ、重要な材料や原料の供給に支障が出るという。特に電気、自動車、造船産業への打撃が深刻だ。
アジア経済への影響
日本経済の停滞により、まず周辺のアジア諸国に波紋が広がる。短期的とはいえ、貿易相手国として重要な日本を頼れなくなることから、急成長を見せる東アジア経済が部分的にかなり減速する。
米銀行シティ・グループ ( Citigroup ) のエコノミスト、ヨハナ・チュア氏とブライアン・タン氏は、日本経済の中軸である電気、自動車、造船産業への影響を指摘する。損失は「当初の見積りより深刻だ」という。さらに、日本の電子部品、化学製品、車に頼らざるを得ないタイの製造業は最も深刻な被害を受けるリスクが高く、韓国や台湾にも影響があるという。
貿易市場の多様化でリスク回避
2010年のスイスの対日輸出額は73億フラン ( 約6500億円 ) 、輸入額は36億フラン ( 約3220億円 ) だった。今回の大震災により特に時計のような高級品の輸出は圧迫され、ヨーロッパへの日本人観光客は減少するとUBSのショルテス氏は見積もる。ただ、こうした後退は一時的なものだという。
スイス時計産業組合 ( Verbandes der Schweizer Uhrenindustrie ) の会長ジャン・ダニエル・パシェ氏によれば、今回の大震災は世界で7番目に大きい日本市場の需要を圧迫するだろう。日本はスイスの時計輸出の5%を占める。
「しかしスイスの時計産業はこうした状況を乗り越えられるだろう。リスクを分散する目的で市場の多様化を以前から行ってきたからだ」
とパシェ氏は力強く語った。
3月24日現在、警察庁によれば9811人の死亡が確認され、行方不明者1万7541人と合わせると2万7000人を超える。
地震と津波の被害で約24万人が避難所生活を強いられている。
東北地方から関東地方にかけておよそ66万世帯で断水が続く。
建物被害は約13万4000棟以上。
( 出典 警察庁、NHKニュース、時事通信社より )
再保険会社は巨額の損失リスクの負担を複数の保険会社に分散する。保険会社の安定性と安全性の維持に役立つ。
一つの保険会社だけでは負担しきれない大きなリスクをカバーすることが可能。
国内外にリスクを分散させることで ( リスクポートフォリオの多様化 ) 、例えば自然災害による保険金の支払いが一極に集中することをカバーできる。
2009年の世界の再保険市場の規模は約1600億ドル ( 約13兆円 ) 。
( 独語からの翻訳 中村友紀 )
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