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財政難の年金制度、金売却益で穴埋めを  スイス下院決議

スイスの中央銀行の大金庫に眠る金塊。金売却益は年金財源の埋め合わせに。 Keystone

スイスの下院は8日の本会議で、中央銀行のスイス国立銀行(SNB)による金の売却益を悪化している年金財源に充てる決議を採択した。同決議案は今後、上院に審議を委ねることになる。

上院でも採決されれば、余剰金約1,300トンの売却益のうち、3分の2を国民基礎年金(AHV)の財源に、残りは各州に配分されることになる。金の売却益は明らかになっていない。

スイス国立銀行によると、余剰金約1,300トンのうち、これまで1,000トン以上が売却された。約130トンを除く残りの金も今年末までに売却される見通し。総量や時期については明らかにされていない。

黄金神話崩壊

 スイスのビジネススクール、経営開発国際研究所(IMD、本部ローザンヌ)のステファン・ガレリ教授は、金に対する当局の見方が変化していることが今回の年金制度を守る動きにつながった、と指摘する。

 昔、国が戦争をして貨幣の価値が失われても、金に替えておけば、資産の価値が保てた。このため、各国の中央銀行は、自分達が発行する貨幣の価値の裏づけとして金塊を保持していた経緯がある。

 90年代から、この黄金神話が崩壊し始める。利子を生まない金塊よりも、高い利子が付く米国債などの優良債券が注目され始めたためだ。イギリスやオランダなど、さまざまな国の中央銀行が金売却に動き始めた。  

 ガレリ教授は「近代の金融制度において、こうして積み上げた金の保有が時代遅れということに政府当局が気づき始めたんだよ」と話す。

年金問題

 赤字続きの連邦財政を圧迫しているのは、急速な高齢化に伴って年々増加の一途をたどっている年金制度が主因といわれる。

 5月16日に行われた国民投票では、AHVの政府改革案が否決された。

 改革案の主な柱は、�@2009年から女性の年金給付年齢を現行の63歳から65歳に引き上げる�A未亡人年金を子供のある場合に限定する�B給付水準の見直しを現行の2年から3年に一回に改める、というところにある。加えて、付加価値税(現行税率7.6%)を1%引き上げ、年金財源にする案も盛り込まれていた。

 年金制度を守るために、連邦議会は現在、スイス国立銀行の余剰収益を年金財政に充てる決議案も検討している。 

 昨年度のスイス国立銀行の収益は、前年比3億フラン(約264億円)増の約30億フラン(約2,640億円)。現行では毎年、収益の3分の1を連邦政府に、残りを各州に配分することになっているが、この余剰分を大幅に年金財源に回す考えだ。


 スイス国際放送  ウルス・ガイザー  安達聡子(あだちさとこ)

連邦内閣が立案した、金の売却益の3分の1をAHVに、残りを各州に配分する決議案は8日、下院で否決された。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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