連邦政府、60年ぶりに食料備蓄政策を見直し
スイス政府は約60年ぶりに食料備蓄政策を再検討し改革した。従来の食料備蓄は、国民一人当り1日3300カロリーとして6ヵ月分とされていたが、2003年以降は1日2300カロリーで4ヵ月分に削減された。必修備蓄品とされているのは小麦、米、コーヒー、調理用油。スイスは食料の3分の2を自給、3分の1を輸入にたよっている。
ヨーロッパ大陸のど真ん中の山岳地帯に孤立する地理的条件と、第2次大戦勃発時に敵国に包囲された(永世中立政策とは戦時同盟に組みしない事の宣言で、戦争放棄ではない)強い危機感から、スイス当局は食料の完全自給を目指し農耕可能な土地ほぼ全域で穀物栽培を開始した。高齢のスイス国民は、チューリッヒなど都市の真ん中にジャガイモが植えられていたのを今でも覚えているという。スイスの有事対策食料備蓄思想は、冷戦終結まで変わることはなかった。今ではスイスも完全な食料自給など不可能だと認識しているが、天災、人災、世の中いつ何が起こるか分からないから、食糧備蓄政策は続けるべきだ。そこで、連邦経済供給局(NES)は自然災害などによる21世紀の食料供給危機対策の新方針を発表した。
9日に記者会見したクルト・シュトライフNES局長は、現代のスイスに食料供給危機が引き起こされる最大の原因として自然災害、伝染病流行、コンピューターシステムのダウン、経済制裁などを上げた。NESでは食糧備蓄計画を再検討し、危機に必要とされる備蓄量を改めて計算したところ、1日の国民一人当りの摂取カロリーは従来のカロリー計算による1日3、300カロリーではなく1日2、300カロリーで十分であることが判明した。また、食料危機に見舞われる期間も従来予想されていたよりも短いことも判明したため、現行の食糧備蓄量6ヵ月分(実際にはそれ以上持ちこたえられると当局はいう)から2003年以降は最長4ヵ月分に短縮されることになった。
食料供給の3分の1を輸入に頼るスイスは、他の欧州諸国と共同で安定した食料供給を図ると同時に他国の食料危機にも援助できるよう対策をとっている。近年、国内の農地が激減しているが、国産の酪農製品、農産物の産出量は減少していない。第2次大戦が終った1945年以降、スイスは本当の食料危機に直面したことはなく、86年チェルノブイリ原発事故、91年の湾岸戦争、90年代の狂牛病大流行などで消費者側が若干パニックに陥ったことはあったが、NESが介入するほどのことは起きていない。
本当の食料危機の際は、国民全員に食料など必需品が平等に配付されることを保証するため、配給カードが配られる。さらに、NESが必要と判断した場合には、警察と軍が動員され配給管理に当たる。また、予算500万スイスフラン、職員35人を要するNES自体、有事食料供給の意思決定を迅速かつ正確に行うため新しいソフトウェアを導入し危機管理態勢を強化した。備蓄食料は、政府と流通業者が管理している。

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