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インフレを見誤ったワケ スイス経済史家の場合

トビアス・シュトラウマン氏とファビオ・カネッジ氏
トビアス・シュトラウマン氏(左)とファビオ・カネッジ氏 Fabian Canetg

米国でインフレ率が高止まりしていることが世界の注目を集めている。インフレの背景は何か?スイスのインフレの特徴は?チューリヒ大学の経済史学者トビアス・シュトラウマン氏に聞いた。

「完全な判断ミスだった」。シュトラウマン氏はこう自省する。同氏は1年前、swissinfo.chのポッドキャスト「Geldcast」に出演し、インフレは間もなく問題ではなくなるだろうと語った。

だが現在、米国のインフレ率は8.5%、スイスのインフレ率は3.5%。共に昨年の水準を数ポイント上回る。スイス国立銀行(中央銀行、SNB)のトーマス・ジョルダン総裁は先月27日、スイスの物価上昇圧力はさらに高まる可能性があると警告した外部リンク

ロシアによるウクライナ侵攻前も、インフレが長引く兆候はあった。侵攻後に石油、ガス、電気の価格が急騰したため、問題はさらに悪化した。物価の動きを見誤ったのは「一部の分野で供給がひっぱくしていたのを見逃し、それが長引いてさまざまなモノの価格に波及するのを予測できなかった」ためだと振り返る。「そして今、エネルギー価格の上昇があらゆる物価に響いている」

後手に回った中央銀行

各国中銀は現在、インフレを抑えるために相次いで利上げに乗り出している。市場金利が上がれば企業はお金を借りにくくなり、経済を冷やす。米連邦準備制度理事会(FRB)今年3月、2018年12月以来の利上げに踏み切った。だがその時点でインフレ率は8%を超えていた。

シュトラウマン氏は「インフレとの戦いにおいて、中銀はいつも後手に回る」と指摘する。それには政治的な理由がある。予防的に利上げして失業を招くのは、高いインフレを放置するよりも正当化するのが難しいからだ。

一方、FRBが長い間インフレ率は自然に低下すると信じていたことにはシュトラウマン氏も驚きを隠さない。「2007~08年の金融危機以来、中銀は危機が起これば経済見通しなどほとんど意味がなくなることを認識していた」。中銀内に「統計信仰」がはびこるのは経済教育に原因があると見る。「数量モデルに傾倒しすぎている」

次なる失敗は目の前に

米国の金利は今後どうなるのか。シュトラウマン氏は「金利上昇で米国経済が減速すれば、FRBはすぐに利上げを止めるだろう」と見る。「経済が大きく冷え込むと、インフレ圧力も弱まる」ため、合理的な動きと言える。

重要なのは、金融政策が次の一手を誤らないことだ。利上げをするのは問題ないが、中銀が出遅れたことを「穴埋めしすぎる」べきではないという。

中銀は利上げ幅をどのように決めるのか?「それは直感が物を言う」。FRBが21日の連邦公開市場委員会(FOMC)で金利を0.5%引き上げるのか、0.75%引き上げるのかは科学的に決められることではない。

マイナス金利の終わりは近い

SNBも22日に理事会を開き、金融政策を点検する。シュトラウマン氏は少なくとも0.5%の利上げがあると予想する。もしその通りなら、SNBの政策金利が7年ぶりにプラス圏に浮上することになる。

インフレ率を目標の2%未満に抑え込むには、それで十分なのか?シュトラウマン氏は「スイスのインフレ率は外国ほど高くはならないだろうが、恐らく長引くだろう」と見る。スイスは電力価格を始め厳しく規制されている分野があるため、インフレが「渋滞」している面がある。急激なインフレは抑えられているが、渋滞が解消するには時間がかかるという。

swissinfo.ch提供ポッドキャスト「Geldcast」の視聴はこちら(独語)☟

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独語からの翻訳:ムートゥ朋子

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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