トヨタ自動車の豊田章男会長は1月30日の記者会見で、グループ企業で相次ぎ発覚した不正について謝罪した
Keystone/EPA JIJI PRESS
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2024/02/05 12:00
ムートゥ朋子
2016年からスイス在住。17年にswissinfo.ch入社。日本経済新聞社で8年間記者を務めた。関心テーマは経済、財政、金融政策、金融市場。
スイスの主要報道機関が先週(1月29日〜2月4日)伝えた日本関連のニュースから、3件をピックアップ。要約して紹介します。
【スイスで報道されたトピック】
49年逃走した「桐島聡」名乗る男性が死亡(1/29)
政府、UNRWAへの資金拠出を停止(1/29)
トヨタ、不正問題受けディーゼル車10種の納入停止(1/29)
JAXA探査機、電源が復旧(1/29)
村田沙耶香さん、半年間チューリヒに滞在(1/30)
トヨタ、2023年の販売台数で新記録(1/30)
原宿のマイクロブタカフェ 健康効果も(2/1)
AIを使った小説が文学賞(2/1)
伊丹空港でANA機同士が接触(2/1)
高砂市立中学校の校長が懲戒免職 セルフコーヒーの量ごまかす(2/1)
この中から今回は①トヨタ、2023年の販売台数で新記録②AIを使った小説が文学賞③村田沙耶香さん、半年間チューリヒに滞在、をご紹介します。
世界一のトヨタは「自慢できるものがない」
トヨタ自動車が1月30日に発表した2023年の世界販売台数はグループ全体で1123万台と過去最高を更新し、4年連続で世界一となりました。スイスではフランス語圏の日刊紙ル・タンやル・マタンなどが仏AFP通信の記事を転載しました。
記事は、ハイブリッド車の需要拡大や半導体不足の改善で売上げが伸びたものの「トヨタには現時点で自慢できるものが何もない」と指摘。トヨタは子会社の日野やダイハツに加え、豊田自動織機でエンジン認証取得の不正があったなど不祥事が相次いでいると説明し、30日会見での豊田章男会長の「大切にすべき価値観や物事の優先順位を見失う状況が発生してきた」との発言を引用しました。
また100%電気自動車(EV)の販売台数は10万4018台と、前年から4倍増となったものの、米テスラや比亜迪(BYD)に比べると「見劣りする」と指摘。「(2026年のEV販売台数を年間150万台とする)目標の達成はますます困難になりそうだ」と結びました。(出典:ル・タン外部リンク /フランス語)
AI小説の未来
第170回芥川賞を受賞した九段理江さんは、受賞作「東京都同情塔」の執筆の一部にChat GPTなど生成AIを使ったことを明らかにしています。ドイツ語圏のCHメディア系新聞は2月2日、文学界での生成AIの使用をめぐる議論を取り上げました。
記事は、1960年頃から始まった「オートポエム(自動詩)」の試みが1つのジャンルとして確立している一方、「大半の詩人や作家には嘲笑されるだけ」の存在だと解説しています。文学界では「文章は人間の手によって書かれなければならない」という固定観念が根強いためです。
しかし、潮流として「言語スキルを駆使して精緻な文章を機械から導き出す迅速なライターが求められている」のは事実。生成AIの使用が排除されることはなく、「おそらく人間と機械の相互作用により、『東京都同情塔』のようにさらに独創的な作品が生まれる」と予想しました。(出典:ザンクト・ガーラー・タークブラット外部リンク /ドイツ語)
レジデンスで執筆に専念
チューリヒ文学館と公益住宅財団(PWG)は2010年から、世界中の文学家をチューリヒ市内のアパートに招待する「Writers in Residence外部リンク 」プロジェクトを実施しています。作家は静かな住宅街の家具付きに半年間滞在し、執筆活動に集中することができます。2024年1~6月は芥川賞作家の村田沙耶香さんが日本人として初めてこのプロジェクトでチューリヒに滞在中です。
ドイツ語圏の日刊紙NZZは1月30日の記事で、「コンビニ人間」や「地球星人」「生命式」などの作品を紹介しながら、村田作品の魅力に迫りました。「村田作品は、登場人物の可能性と限界を探求し耳を傾けることで、読者がこれらの経験に参加できるようにし、彼らに声を与える。村田沙耶香は文学を通じて、こうした排除された声にプラットフォームを与え、社会の中心に再び組み入れている」と評価しました。(出典:NZZ外部リンク /ドイツ語)
話題になったスイスのニュース
先週、最も注目されたスイスのニュースは「スイス、複合姓の再導入を政府が支持」(記事 /日本語)でした。他に「スイス、退役済み戦車『レオパルト2』をドイツに移送」(記事 /日本語)や「Most Swiss skiers exceed 50km/h」(記事 /英語)も良く読まれました。
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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は2月12日(月)に掲載予定です。
校正:大野瑠衣子
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スイス人作家ペーター・ビクセル 80歳を迎え自身を語る
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2015/04/28
スイス人作家ペーター・ビクセルさんは、先月24日に80歳を迎えた。40年以上に及ぶ執筆活動で出版された本は30冊。コラムへの寄稿は1千本にのぼり、行った朗読会は数えきれない。5月16日にはソロトゥルン州で開催される「Literaturtage(文学の日)」でも朗読をする。「作家」としての自分をどう捉えているのか。傘寿(さんじゅ)を迎えたスイスの著名作家が自身を語った。
ビクセルさんの人生の中で、読書はなくてはならない存在だ。「書くこと」よりも「読むこと」が大切だという。しかし最近は以前のように書いたり読んだりすることも少なくなった。疲れやすくなったからだ。「最近寄稿したコラムは、それこそ苦悶の中から書き上げた。読者がそのことに気付かないといいが。コラムを書くと毎回、ロック・クライミングをしたかのようにひどく疲れた。だからこれでおしまいだ」
現在はスイス北西部のソロトゥルン州で暮らしている。鉄道職員の息子に生まれ、同州オルテンで育った。個人主義者で、既成の概念にとらわれない思考をする。教師であり、哲学者で物書き、そして詩人でもある。また「老い」のつらさを抱える気などなく、また「頭に湧く」懐旧の情を回避しようと努力している。
つい年を数え始めてしまうことが嫌だという。「年老いた教師が当時何歳だったのか計算してみると、子どもの目には老人のように映っていた教師が、実のところ45歳だったとわかる。また、私の親友が50歳で亡くなった時は、結構年齢がいっていると思ったが、今となって彼は若くして亡くなったと思っている。そして先の将来を考えると、残された時間は短いことに気付く」
「私の年齢は、あるがままの私の姿だ」
傘寿を迎えたことで、また「作家ペーター・ビクセル」について書かれてしまうと本人は愚痴をこぼす。それとも冗談で言っているのだろうか。「まるで私が朝から夜遅くまで作家でしかいないようだ。そんなことはない。そんな風であったことは一度もない」
作家というよりは喫煙家で赤ワイン愛飲家なのだと、ソロトゥルン旧市街の中心にある書斎でビクセルさんは語る。ほの暗い書斎は居心地がよく、あらゆる場所に本があり、机の上や床にも積み上げられている。写真や絵が壁に飾られ、亡き友人で作家のマックス・フリッシュが愛用していたパイプや、さまざまな色や大きさ、素材で作られたサイの収集品が置かれている。ビクセルさんは毎日この書斎に通うが、1~2時間しかいないこともある。
ちょうど80歳となるこの年に、新しくコラム集「Über das Wetter reden(天気について話そう)」が出版された。文芸評論家のベアート・マッツェナウアーさんは、「この本には、今日では他に類を見ない、優れた人間喜劇が集約されている。この大作では平凡で、日常的で、地味なものがきらきらと輝き出し、それらの作品群が一つの世界として広がっている」と高く評価する。
この著書の中でも、ビクセルさんは年齢や老いについて語っている。例えばドイツ語圏には「年齢とは、自分が感じている年齢である」という格言があるが、ビクセルさんは懐疑的だ。「私が30歳だった当時、その格言を言う人は誰もいなかったし、私が美しい青年だと誰一人言ってくれなかった。年を取ると、そのような馬鹿らしい格言がどんどん耳に入ってくる。私の年齢は『私が感じている年齢』ではない。私の年齢は『あるがままの私の姿』だ。少なくともこの点についてはそっとしておいてほしい」
懐疑的で個人主義的
ビクセルさんは見たものや考えたもの、また自分自身について深く考えをめぐらせる。好きな作家がトルストイだと決めつけられるのは嫌だが、トルストイのことは賞賛する。「『戦争と平和』を読むと、世界の全てを忘れ、足が宙に浮き、あらゆる現実とのつながりを失う。トルストイに会ったこともないし、彼は随分昔に死んでしまっているが、彼には深い友情を感じている」
情熱に溢れた人間でも、物書きでもないと自身を評価する。「子どもの頃から書くことが好きだった。8歳から20歳までの間に書いた量はおそらく、その後の人生で書いた量よりも多いだろう」
一方で、実は書くことよりもツール・ド・フランスに出場し、勝利を収めてみたかったと言う。「ところが体育ではいつもビリの成績だった。サッカーでは左サイドバックの補欠2番手だったから、一度も試合に出たことがなかった。家に戻ってから、サッカーが上手い奴らに秘かに復讐するために、詩を書いたりしたものだ」
一人で行動することを好むのは小さい頃からだ。駅や電車、また居酒屋などで大勢の中に一人でいることを好む。「別に世捨て人というわけではない。アルプス山脈を一人で登ったりはしない」
「言葉に語らせる」
実のところ、執筆活動によって人生がめちゃくちゃになってしまうのではないかと、常に不安を抱いていたという。だが「素人」の視点を忘れずに書き続けたことで、幸運にもこれまでやってこられたと話す。「素人のままでいられるというよりはむしろ、素人のままでいなければならない。こんな職業を他には知らない」
ビクセルさんが執筆で大切にしているのは言葉だ。「その内容ではなく、『語り』が文学の要だ」。自分の意見を持ち、例えば「思いやりに欠ける乱暴な政治」を憂慮したり、また人生について考えたりすることは当たり前だと言う。常に意識しているのは、「言葉」に語らせることだ。簡明に、短い散文詩風に描かれた物語には独特の抑揚があり、そしてしばしば予想外の展開を見せる。
作家でドイツ文学研究者でもあるペーター・フォン・マットさんはビクセルさんについて、長く熟考したことについてしか発言しないと、日曜紙シュヴァイツ・アム・ゾンタークで評している。「そして彼が書いた文章もまた、長い道のりをたどってきている。だからこそ彼の文章は確信に満ち、かつ普遍的なのだ」(フォン・マットさん)
ビクセルさんにとって不可欠なのは、スイスのドイツ語方言と標準ドイツ語の間にある緊張感だという。「もしベルリンやハンブルクで書きものをしろと言われたら、ものすごく苦労したと思う。例えばフランス人作家の場合は話し言葉も、書き言葉も全く同じだが、私にはそれが想像できない」。標準ドイツ語を完全な外国語だと捉えたことは一度もないが、「少しだけ違和感がある。日常生活の細かい表現を標準ドイツ語でするとなると、やはり外国語のように感じる。標準ドイツ語で恋に落ちることはできないね」。
「もうこれ以上はいい」
ビクセルさんにとって大切なのは、先入観にとらわれないこと、そして物事に対してオープンであることだ。物事を監視するのではなく、見る人でいたいと話す。「監視をしてしまうと、何も書けなくなってしまう。例えば監視をする警察官は、自分が何を見つけたいかがはっきりしている。戦地で監視する兵士は何を監視すべきなのかわかっている。敵が攻めてくるかどうかだ。それに対し、見るという行為は偏見にとらわれていない」
最後のコラムを書き上げたビクセルさんはこう話す。「もう書かなければいけないという気持ちはなくなった。もうこれ以上はいい。今はここに座り、何か湧き上がるものがあるかどうか、それを待っている。もしかしたらもっと長い物語かもしれない。もし何も湧き上がってこないのであれば、それはそれでいい」
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